59 / 72
59 勝手に決められるのはもう嫌
しおりを挟む
59
ここ数百年ほどこの国ネムスでは。
火刑などの処刑方法はあまりにも残酷過ぎるとして、行われていなかった。
重罪人でも縛り首、情状酌量の余地があるとされれば鉱山等で期限付きの労働が課せられる程度。
なのに。
「どうして」
「アウラの女王が、君の母がそれを望まれた。そしてそれを国王陛下が仕方なしとして認めたんだ」
「でも! 火刑にされるほどの事はしていないと思います、だって……」
「ハインツ子爵夫妻は直接とは言えないが、君の誘拐に関わってしまっている。預かった当時は、君が誰の子か知らなかったみたいだが……」
たとえその赤子が誰の子なのか知らなかったとしても、ハインツ子爵が金に目をくらませず知らせていれば。
マリアベルは本当の両親の元で何不自由なく暮らせていただろうし、女王は子を失った悲しみに打ちひしがれる事も無かっただろう。
「妹は、リリアンは? あの子は、どうなるのですか!?」
「それについては今、女王も交えて話し合われてる。彼女は君が本当の姉じゃないと、子爵夫妻から知らされてはいなかったみたいだから」
リリアンはなにも知らされていなかった。
つい先程まで彼女は、マリアベルの事を本当の姉だと思っていた。
だがリリアンはハインツ子爵の娘、知らなかったとはいえ彼女だけなんのお咎めなしとはいかないだろう。
「……クロヴィス様、その話し合いの場に私を連れて行って下さいませ?」
「マリアベル?」
「私は……私に関わる事を、勝手に決められるのはもう嫌なんです」
◇◇◇
そこは謁見の間。
今しがたハインツ子爵夫妻へと火刑が言い渡された所で、その場は少々荒れていた。
「火刑なんて、そんな……私は本当になにも知らなかったんだ! マリアベルが王女だったなんて……! 育ててくれと頼まれただけで」
「そんな、処刑なんて……火刑なんて絶対に嫌よ! どうして私が……夫が勝手にした事よ、私は関係ないわ……!」
「お姉様が隣国の王女様……? お父様、お母様これはいったいどういう事ですか!?」
ハインツ子爵夫妻は火刑への恐怖からか、その場から逃げようとして暴れるし。
夫妻の娘リリアンはマリアベルが自分の本当の姉ではなく誘拐された隣国の王女だと聞かされて、子爵夫妻を激しく問い詰めるしで。
騒然としていた。
「お前達、静かにしないか! これはもう決まったこと、どこにも逃げられんぞハインツ子爵!」
「国の面汚し共め……」
「お前達のせいでアウラとの関係にヒビでも入ったらどうしてくれるんだ! せっかくここまで発展してきたのに」
謁見の間に集った貴族達に、ハインツ子爵夫妻は口々に罵倒される。
それもそのはず。
今アウラに見放されてしまったたら、その支援で潤い発展してきてきる領地を持つ貴族達はとても困るのだ。
「『それでネムス国王、その娘はどうするつもりかしら……?』」
そんな騒然とした場に女王エレノアは見向きもせず、この国の王シュナイゼルに問うた。
いくらなにも知らなかったとはいえ子を奪われていた女王エレノアからすれば、ハインツ子爵夫妻の娘と言うだけリリアンが憎くて堪らない。
それにハインツ子爵夫妻にも、自分と同じで子を失うという苦しみを是非味わって欲しい。
だから女王エレノアは、笑顔で促す。
処刑という決断をこの国の王に。
「そ、れは……」
女王エレノアの決断を迫らせるようなその問いに、言葉を詰まらせた国王シュナイゼル。
ハインツ子爵夫妻の火刑だけでも苦渋の決断だったというのに、この場に連れて来られるまで何も知らなかった妊婦に処刑を言い渡したくなかった。
だが国としての体裁を考えれば、そうする他に選択肢はどこにもないし。
事が事だけに妊婦だからと言う理由だけで彼女をお咎なしにも出来ない、それにここでなにもしなければこの場に集まった貴族達に批判されるだろう。
だからそうするのが一番いいと頭ではわかっている、だが腹が膨らみ始めた妊婦に処刑を言い渡すのだけはやっぱりどうしても嫌だった。
玉座に座る国王シュナイゼルには。
王妃アイリーンがレオンハルトを妊娠していた当時の姿と、リリアンの今の姿が重なって見えてしまっていたから。
「『まさかその娘には罪がないと、ネムス国王は……おっしゃるのではないですわよね?』」
女王エレノアは、なかなか処刑を言い渡さない国王シュナイゼルに痺れを切らして決断を迫る。
この状況のどこに、迷うような事があるのかエレノアはまったくもって理解出来ない。
さっさとその娘にも処刑を言い渡してしまえば、この話はこれで終わり。
そうしたら次は大使キルデリクをここに連れてきて、その罪を問えばいい。
「っ……リリアン・ハインツ、そなたには」
意を決して、国王シュナイゼルはその処分をリリアンに言い渡そうとした。
――その時。
「……待って下さい。当時者である私がいないのに、私に関わる話を勝手に決めないで頂けますか?」
謁見の間に響いた声。
その声の出処を辿っていけば、そこには大きく開かれた謁見の間の扉。
そしてその扉の前に立つ、マリアベルとクロヴィスの姿がそこにはあって。
「『どうしたの……?』」
全て終わらせて娘の憂いを早く晴らしてあげたかった女王エレノアは、不思議そうな顔をする。
マリアベルが発したその声は怒りに満ちていて、どうして娘がそんなに怒っているのかエレノアにはわからなかった。
ここ数百年ほどこの国ネムスでは。
火刑などの処刑方法はあまりにも残酷過ぎるとして、行われていなかった。
重罪人でも縛り首、情状酌量の余地があるとされれば鉱山等で期限付きの労働が課せられる程度。
なのに。
「どうして」
「アウラの女王が、君の母がそれを望まれた。そしてそれを国王陛下が仕方なしとして認めたんだ」
「でも! 火刑にされるほどの事はしていないと思います、だって……」
「ハインツ子爵夫妻は直接とは言えないが、君の誘拐に関わってしまっている。預かった当時は、君が誰の子か知らなかったみたいだが……」
たとえその赤子が誰の子なのか知らなかったとしても、ハインツ子爵が金に目をくらませず知らせていれば。
マリアベルは本当の両親の元で何不自由なく暮らせていただろうし、女王は子を失った悲しみに打ちひしがれる事も無かっただろう。
「妹は、リリアンは? あの子は、どうなるのですか!?」
「それについては今、女王も交えて話し合われてる。彼女は君が本当の姉じゃないと、子爵夫妻から知らされてはいなかったみたいだから」
リリアンはなにも知らされていなかった。
つい先程まで彼女は、マリアベルの事を本当の姉だと思っていた。
だがリリアンはハインツ子爵の娘、知らなかったとはいえ彼女だけなんのお咎めなしとはいかないだろう。
「……クロヴィス様、その話し合いの場に私を連れて行って下さいませ?」
「マリアベル?」
「私は……私に関わる事を、勝手に決められるのはもう嫌なんです」
◇◇◇
そこは謁見の間。
今しがたハインツ子爵夫妻へと火刑が言い渡された所で、その場は少々荒れていた。
「火刑なんて、そんな……私は本当になにも知らなかったんだ! マリアベルが王女だったなんて……! 育ててくれと頼まれただけで」
「そんな、処刑なんて……火刑なんて絶対に嫌よ! どうして私が……夫が勝手にした事よ、私は関係ないわ……!」
「お姉様が隣国の王女様……? お父様、お母様これはいったいどういう事ですか!?」
ハインツ子爵夫妻は火刑への恐怖からか、その場から逃げようとして暴れるし。
夫妻の娘リリアンはマリアベルが自分の本当の姉ではなく誘拐された隣国の王女だと聞かされて、子爵夫妻を激しく問い詰めるしで。
騒然としていた。
「お前達、静かにしないか! これはもう決まったこと、どこにも逃げられんぞハインツ子爵!」
「国の面汚し共め……」
「お前達のせいでアウラとの関係にヒビでも入ったらどうしてくれるんだ! せっかくここまで発展してきたのに」
謁見の間に集った貴族達に、ハインツ子爵夫妻は口々に罵倒される。
それもそのはず。
今アウラに見放されてしまったたら、その支援で潤い発展してきてきる領地を持つ貴族達はとても困るのだ。
「『それでネムス国王、その娘はどうするつもりかしら……?』」
そんな騒然とした場に女王エレノアは見向きもせず、この国の王シュナイゼルに問うた。
いくらなにも知らなかったとはいえ子を奪われていた女王エレノアからすれば、ハインツ子爵夫妻の娘と言うだけリリアンが憎くて堪らない。
それにハインツ子爵夫妻にも、自分と同じで子を失うという苦しみを是非味わって欲しい。
だから女王エレノアは、笑顔で促す。
処刑という決断をこの国の王に。
「そ、れは……」
女王エレノアの決断を迫らせるようなその問いに、言葉を詰まらせた国王シュナイゼル。
ハインツ子爵夫妻の火刑だけでも苦渋の決断だったというのに、この場に連れて来られるまで何も知らなかった妊婦に処刑を言い渡したくなかった。
だが国としての体裁を考えれば、そうする他に選択肢はどこにもないし。
事が事だけに妊婦だからと言う理由だけで彼女をお咎なしにも出来ない、それにここでなにもしなければこの場に集まった貴族達に批判されるだろう。
だからそうするのが一番いいと頭ではわかっている、だが腹が膨らみ始めた妊婦に処刑を言い渡すのだけはやっぱりどうしても嫌だった。
玉座に座る国王シュナイゼルには。
王妃アイリーンがレオンハルトを妊娠していた当時の姿と、リリアンの今の姿が重なって見えてしまっていたから。
「『まさかその娘には罪がないと、ネムス国王は……おっしゃるのではないですわよね?』」
女王エレノアは、なかなか処刑を言い渡さない国王シュナイゼルに痺れを切らして決断を迫る。
この状況のどこに、迷うような事があるのかエレノアはまったくもって理解出来ない。
さっさとその娘にも処刑を言い渡してしまえば、この話はこれで終わり。
そうしたら次は大使キルデリクをここに連れてきて、その罪を問えばいい。
「っ……リリアン・ハインツ、そなたには」
意を決して、国王シュナイゼルはその処分をリリアンに言い渡そうとした。
――その時。
「……待って下さい。当時者である私がいないのに、私に関わる話を勝手に決めないで頂けますか?」
謁見の間に響いた声。
その声の出処を辿っていけば、そこには大きく開かれた謁見の間の扉。
そしてその扉の前に立つ、マリアベルとクロヴィスの姿がそこにはあって。
「『どうしたの……?』」
全て終わらせて娘の憂いを早く晴らしてあげたかった女王エレノアは、不思議そうな顔をする。
マリアベルが発したその声は怒りに満ちていて、どうして娘がそんなに怒っているのかエレノアにはわからなかった。
2,299
お気に入りに追加
4,907
あなたにおすすめの小説
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……
矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。
『もう君はいりません、アリスミ・カロック』
恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。
恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。
『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』
『えっ……』
任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。
私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。
それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。
――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。
※このお話の設定は架空のものです。
※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

奪われたものは、もう返さなくていいです
gacchi
恋愛
幼い頃、母親が公爵の後妻となったことで公爵令嬢となったクラリス。正式な養女とはいえ、先妻の娘である義姉のジュディットとは立場が違うことは理解していた。そのため、言われるがままにジュディットのわがままを叶えていたが、学園に入学するようになって本当にこれが正しいのか悩み始めていた。そして、その頃、双子である第一王子アレクシスと第二王子ラファエルの妃選びが始まる。どちらが王太子になるかは、その妃次第と言われていたが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる