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58 奪われていた本当の身分と立場
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――早朝。
いつものように銀獅子宮に出勤しようと準備しておりますと、私の部屋に侍女長様がやって来られまして。
『マリアベル……とても残念なのだけれど、貴女を侍女として扱う事がもう出来なくなってしまったの』
と、告げられてしまいました。
「えっ、解雇ですか!?」
「そうね。解雇に、なってしまうわね」
「私、なにかミスをしてしまいましたでしょうか」
「貴女にミスなんてあるはずないじゃない! そういうのではないのよマリアベル、侍女として扱えなくなったのは貴女の本当の身分のせい」
「あ……」
私の本当の身分、それは。
隣国アウラの女王エレノアを母に持ち、その王配シリルを父に持つ。
アウラ国の第一王女シャンタル。
王位継承権は死んだものとされていた為、今は失ってしまっているようなのですが。
私が生きていると公表されれば、その王位継承権も復活するということで。
復活すれば私の継承順位は第一位。
他にも継承権を持つ弟や妹がアウラにはいるみたいなのですが、その方々は側室の方との間に生まれた王子や王女らしく。
私が正当なるアウラ王家の王位継承者として、王配シリル殿下のご実家から王太女として持ち上げられる可能性があると昨夜伝えられました。
「だからもう銀獅子宮に来てはいけないわ。それと貴女との養子縁組についてだけど……」
「……やはりそれも駄目になってしまいますよね」
「ええ、とても残念なのだけれど。貴女の存在をアウラの女王陛下は早急に国内外に公表するらしくてね」
「はい。それについては昨夜、エレノア陛下から直接お伺いを致しました」
「マリアベル? 貴女を侍女として扱う事はもう出来ないし、養子縁組も無くなってしまったけど、貴女が私の弟子である事はなにも変わらないわ」
「侍女長様」
「だからそんな暗い顔をしていては駄目よ? 貴女にいつも言っているでしょう。なにがあろうとも胸を張って笑顔を絶やさず笑っていなさい、と」
「……『優秀な侍女は弱点を見せたりしてはいけない、何者にも付け入る隙を与えてはいけない』と、侍女長様はいつもそう私におっしゃられておりました」
「ええその通り! だから笑っていなさいマリアベル、侍女じゃなくなっても貴女は貴女なのだから」
「はい、ありがとうございます。侍女長様」
昨夜大体ですが今後どうなるのか、エレノア陛下から直接お聞き致しましたが。
それでもまだもう少し今まで通りの日常が続けられると、私は考えておりました。
ですが、その考えは少々甘かったみたいです。
◇◇◇
「無職……」
正確には無職ではないのかもしれませんが、 やることも無く部屋に一人でぽつんとしておりますとそう思ってしまうわけでして。
侍女としてレオンハルト第一王子殿下の宮で働き始めてから、五年間ずっと住んでいた部屋。
あまり住み心地がいいとは思えなくて、何度かここを出て外に部屋を借りようかと思ったりもしたのですが通勤が便利で。
きっとここも直ぐに出ていかなくてはいけない、そう思いますと少々名残惜しいような気も致しますが。
今は何よりも本当の母に会えたことがとても嬉しくて、胸が高鳴っていたりするのです。
私の本当の母、女王エレノア陛下は少し変わったお茶目な方でして。
昨夜はとても重要な話をされたはずなのですが、話の最中事ある毎に母が私を笑わせてきまして、重要な話をしているような雰囲気ではまるでなく。
昨夜聞かされた話を今になって思い返しますと、私はなかなかに大変な位置にいるとようやく気付きました。
王位継承権第一位ってそれ。
もしかしたら王太女に押し上げられるかも……ではなく、確実にそうなってしまうと思うのです。
それにもしそうなったら、確実にこの国に住み続ける事も出来なくなってしまうでしょう。
加えてレオンハルト第一王子殿下の傍で帝王学を少し聞いた事がある程度の私が、まかり間違って王位継承争いに勝ち残り王太女にされてしまったら。
扱い易い傀儡の女王が出来上がるでしょうし、クロヴィス様との婚約も取り消されてしまう可能性がとても高く。
こんな所でのんびりしているような場合ではないと、ようやく思い当たった次第で。
私はこれからの事をクロヴィス様に相談すべく、部屋を出ようとしていましたら。
また見計らったかのように私の部屋の扉が、軽快にノックされたのです。
さてお次の訪問者はいったい誰なのかと、恐る恐る扉を開けますとそこには。
「マリアベル、俺なんだけど……ちょっといいか?」
今ちょうど銀獅子宮に、お会いしに行こうと思っておりましたクロヴィス様で。
「クロヴィス様! 今ちょうど私も貴方にお会いしに行こうとしていたのです」
「俺に?」
「はい、これからの事でご相談がございまして」
「……婚約破棄は絶対にしないぞ?」
私のその言葉に、クロヴィス様は訝しげなお顔になり 、そんな事をおっしゃられました。
「クロヴィス様に婚約破棄されたら私が困るのですが? 止めて下さいね二度目の婚約破棄なんて、笑えませんよ」
「俺が婚約破棄なんてするわけないだろう、マリアベルと婚約出来てめちゃくちゃ嬉しいのに……!」
「それは良かったです。私はクロヴィス様と結婚し、添い遂げる予定でおりますので」
「っ……そっか、うん。それでマリアベルが俺に用って、なにかあったか?」
「私、傀儡の女王には絶対になりたくないのです。それにクロヴィス様とも別れたくない」
「ああ、その件か。大丈夫、それは俺も一緒に考えるから」
「クロヴィス様……」
「それで俺は別件、ハインツ子爵夫妻の火刑がさっき正式に決まった」
「え?」
――早朝。
いつものように銀獅子宮に出勤しようと準備しておりますと、私の部屋に侍女長様がやって来られまして。
『マリアベル……とても残念なのだけれど、貴女を侍女として扱う事がもう出来なくなってしまったの』
と、告げられてしまいました。
「えっ、解雇ですか!?」
「そうね。解雇に、なってしまうわね」
「私、なにかミスをしてしまいましたでしょうか」
「貴女にミスなんてあるはずないじゃない! そういうのではないのよマリアベル、侍女として扱えなくなったのは貴女の本当の身分のせい」
「あ……」
私の本当の身分、それは。
隣国アウラの女王エレノアを母に持ち、その王配シリルを父に持つ。
アウラ国の第一王女シャンタル。
王位継承権は死んだものとされていた為、今は失ってしまっているようなのですが。
私が生きていると公表されれば、その王位継承権も復活するということで。
復活すれば私の継承順位は第一位。
他にも継承権を持つ弟や妹がアウラにはいるみたいなのですが、その方々は側室の方との間に生まれた王子や王女らしく。
私が正当なるアウラ王家の王位継承者として、王配シリル殿下のご実家から王太女として持ち上げられる可能性があると昨夜伝えられました。
「だからもう銀獅子宮に来てはいけないわ。それと貴女との養子縁組についてだけど……」
「……やはりそれも駄目になってしまいますよね」
「ええ、とても残念なのだけれど。貴女の存在をアウラの女王陛下は早急に国内外に公表するらしくてね」
「はい。それについては昨夜、エレノア陛下から直接お伺いを致しました」
「マリアベル? 貴女を侍女として扱う事はもう出来ないし、養子縁組も無くなってしまったけど、貴女が私の弟子である事はなにも変わらないわ」
「侍女長様」
「だからそんな暗い顔をしていては駄目よ? 貴女にいつも言っているでしょう。なにがあろうとも胸を張って笑顔を絶やさず笑っていなさい、と」
「……『優秀な侍女は弱点を見せたりしてはいけない、何者にも付け入る隙を与えてはいけない』と、侍女長様はいつもそう私におっしゃられておりました」
「ええその通り! だから笑っていなさいマリアベル、侍女じゃなくなっても貴女は貴女なのだから」
「はい、ありがとうございます。侍女長様」
昨夜大体ですが今後どうなるのか、エレノア陛下から直接お聞き致しましたが。
それでもまだもう少し今まで通りの日常が続けられると、私は考えておりました。
ですが、その考えは少々甘かったみたいです。
◇◇◇
「無職……」
正確には無職ではないのかもしれませんが、 やることも無く部屋に一人でぽつんとしておりますとそう思ってしまうわけでして。
侍女としてレオンハルト第一王子殿下の宮で働き始めてから、五年間ずっと住んでいた部屋。
あまり住み心地がいいとは思えなくて、何度かここを出て外に部屋を借りようかと思ったりもしたのですが通勤が便利で。
きっとここも直ぐに出ていかなくてはいけない、そう思いますと少々名残惜しいような気も致しますが。
今は何よりも本当の母に会えたことがとても嬉しくて、胸が高鳴っていたりするのです。
私の本当の母、女王エレノア陛下は少し変わったお茶目な方でして。
昨夜はとても重要な話をされたはずなのですが、話の最中事ある毎に母が私を笑わせてきまして、重要な話をしているような雰囲気ではまるでなく。
昨夜聞かされた話を今になって思い返しますと、私はなかなかに大変な位置にいるとようやく気付きました。
王位継承権第一位ってそれ。
もしかしたら王太女に押し上げられるかも……ではなく、確実にそうなってしまうと思うのです。
それにもしそうなったら、確実にこの国に住み続ける事も出来なくなってしまうでしょう。
加えてレオンハルト第一王子殿下の傍で帝王学を少し聞いた事がある程度の私が、まかり間違って王位継承争いに勝ち残り王太女にされてしまったら。
扱い易い傀儡の女王が出来上がるでしょうし、クロヴィス様との婚約も取り消されてしまう可能性がとても高く。
こんな所でのんびりしているような場合ではないと、ようやく思い当たった次第で。
私はこれからの事をクロヴィス様に相談すべく、部屋を出ようとしていましたら。
また見計らったかのように私の部屋の扉が、軽快にノックされたのです。
さてお次の訪問者はいったい誰なのかと、恐る恐る扉を開けますとそこには。
「マリアベル、俺なんだけど……ちょっといいか?」
今ちょうど銀獅子宮に、お会いしに行こうと思っておりましたクロヴィス様で。
「クロヴィス様! 今ちょうど私も貴方にお会いしに行こうとしていたのです」
「俺に?」
「はい、これからの事でご相談がございまして」
「……婚約破棄は絶対にしないぞ?」
私のその言葉に、クロヴィス様は訝しげなお顔になり 、そんな事をおっしゃられました。
「クロヴィス様に婚約破棄されたら私が困るのですが? 止めて下さいね二度目の婚約破棄なんて、笑えませんよ」
「俺が婚約破棄なんてするわけないだろう、マリアベルと婚約出来てめちゃくちゃ嬉しいのに……!」
「それは良かったです。私はクロヴィス様と結婚し、添い遂げる予定でおりますので」
「っ……そっか、うん。それでマリアベルが俺に用って、なにかあったか?」
「私、傀儡の女王には絶対になりたくないのです。それにクロヴィス様とも別れたくない」
「ああ、その件か。大丈夫、それは俺も一緒に考えるから」
「クロヴィス様……」
「それで俺は別件、ハインツ子爵夫妻の火刑がさっき正式に決まった」
「え?」
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