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51 消えてくれないか?
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結婚式の日からどれだけ待っても、オズワルドはリリアンに会いには来なかった。
そのうえ手紙の一通も寄越さない。
そんなこと今まで一度もなかった。
オズワルドがリリアンに会いにやって来れない日は、必ず手紙を送って寄越していたのに。
それ故にもしかしたら何かあったんじゃないかと心配になって、リリアンから手紙を送ってみてもやはり返信はなく。
そして時間が経つにつれて。
心配する気持ちよりも、一度も自分に会いにやって来ないオズワルドに対しての苛立ちの方がだんだんと強くなる。
そして捨てられたのではないかと次第に不安になって、リリアンは荒んでいった。
それでも最初の頃はメイドや母親の言葉で多少落ち着きを見せていたリリアン。
けれど一向に会いにやって来ないオズワルドに、リリアンはもう我慢の限界だったのだ。
「どうして私に会いに来ないのよ!? 私のお腹の中には、オズワルド様の子がいるっていうのに! どうして……」
そしてふと考えが浮かぶ。
オズワルド様が会いに来ないのならば、自分の方から会いに行けばいい。
そう思い立ち、ラフォルグ侯爵家に会いに行けば。
侯爵家の使用人に門前払いを受けて。
屋敷に入ることはおろか、オズワルドや侯爵夫妻に取り次いですら貰えなかった。
そして侯爵家から追い払われるように帰ってきたリリアンは、腹立ち紛れに手に持ったカップをメイドに向けて投げつけた。
そのカップの中には熱々の紅茶、それがメイドに当たれば火傷は免れないだろう。
「きゃあぁっ……!」
そして投げられたカップはメイドの頭部に運悪く当たり、バラバラに割れてしまう。
「だ、大丈夫!?」
もう一人のメイドが、慌てて駆け寄る。
「痛い、痛い……」
カップに入っていた熱々の紅茶が顔に盛大にかかってしまったメイドは、苦悶の表情を浮かべてその場で蹲り酷い痛みに震える。
そんなメイドの額には切り傷が出来てうっすらと血が滲み、紅茶が掛かった顔は赤く腫れ上がってしまっていた。
「酷い、こんなの……」
苦痛に耐える同僚の様子に。
慌てて駆け寄ったメイドは、カップを投げ付けたリリアンを恨みがましそうに見た。
貴族だからといって使用人に暴力を振るってもいいわけではない、ものには限度というものがある。
「なに、その目は!?」
「っ……いえ、なんでもございません」
だがメイドは口に出して逆らう事は出来ない。
貴族に逆らえば、あとで何をされるかわかったものじゃないから。
メイドにそんな目を向けられて。
リリアンは余計に腹を立てて、目に付いたメイドに手当り次第八つ当たりを繰り返した。
日に日に酷くなっていくリリアンからの暴力に、耐え兼ねたメイドが一人、また一人とハインツ子爵家の使用人を辞めて去っていく。
もともとハインツ子爵家に仕える使用人の数は少なくて、屋敷を管理する者まで次々に辞めていき。
ハインツ子爵家はどんどん荒れ果てていく。
そんな折に、王宮からやって来た騎士達にハインツ子爵が引き摺られるようにして連れて行かれたのである。
あまりに突然の事でなにが起きたのかわからないハインツ子爵夫人とリリアンは、恐怖でガタガタと打ち震える。
だれか助けてと思うけれど。
頼れる親類や友好のある家などこの子爵家には一つも無く、ただ連れられていく子爵を見ていることしか二人には出来なかった。
そしてハインツ子爵が居なくなった家は。
使用人が殆ど辞めてしまった事もあってか、静かでどこか暗く。
リリアンはどうしてこんな事になってしまったのかと物に八つ当たりするが、気が晴れることはない。
自分は侯爵夫人になるはずだったのに、どうしてこんなに酷い扱いを受けなければいけないのか。
日に日に腹は大きくなっているような気がするし、悪阻で息をするのも辛いのに。
それもこれもみんな全部、自分に会いにやって来ないオズワルドが悪い。
オズワルドさえ自分に会いに来ていればこんな事にはならなかったのに、どうして会いに来てくれないのか。
そして再びリリアンは、オズワルドに会いにラフォルグ侯爵家に向かった。
自分との事を問い詰めたい気持ちももちろんあるが、父親の事についても手を貸して欲しくて。
だがまたリリアンは使用人に門前払いを受けた。
オズワルドに取り次いですら貰えない、がっくりとリリアンは肩を落としまた何日もかけて子爵家に帰ろうとすれば。
侯爵家から出てくる馬車、その車窓にオズワルドの姿が見えて。
「待って! オズワルド様、私よ……!」
大声を出して叫ぶリリアン、その声にオズワルドの乗る馬車はゆっくりと止まる。
そして馬車から降りて来たオズワルドは。
「リリアン、どうしてここに」
「どうしてって……オズワルド様が私に会いに来ないから、私会いに来たんです! どうして会いに来なかったのですか!?」
「それは……」
「私、ずっと待っていましたのよ? それに結婚式はどうするんです? お腹も大きくなってきて……」
そう言ってお腹をさするリリアン、確かにすこし膨らんだように見える。
「……結婚式は出来ない」
「え……あ、そうですね。このお腹じゃウエディングドレス着れませんし、じゃあ式は後日で……教会に婚姻許可だけ先に貰いましょうか」
「リリアン、君とは結婚出来なくなったんだ」
「え……」
何を言っているのかわからないといった表情で、
オズワルドを見返すリリアン。
「君と結婚すれば私は廃嫡されてしまう、だから結婚出来ない」
「え、なに……言って……」
「私は当初の予定通りマリアベルと結婚する事にしたよ、彼女と結婚すれば親も納得してくれる」
「オズワルド様……?」
「だからもう私の前に現れないでくれ、君と会っている事が親に知られたら困るんだ」
「でも、私のお腹の中には貴方の……!」
「……それは本当に私の子かリリアン? 結婚前に男と寝る女が、他の男と寝てないとは限らない」
「え……」
「君は邪魔なんだリリアン、まだ私を愛しているなら、その子どもと消えてくれないか?」
そう吐き捨ててオズワルドは再び馬車に乗り、どこかへ行ってしまう。
どうしてこんな事になってしまったのか、リリアンにはもうわからなかった。
結婚式の日からどれだけ待っても、オズワルドはリリアンに会いには来なかった。
そのうえ手紙の一通も寄越さない。
そんなこと今まで一度もなかった。
オズワルドがリリアンに会いにやって来れない日は、必ず手紙を送って寄越していたのに。
それ故にもしかしたら何かあったんじゃないかと心配になって、リリアンから手紙を送ってみてもやはり返信はなく。
そして時間が経つにつれて。
心配する気持ちよりも、一度も自分に会いにやって来ないオズワルドに対しての苛立ちの方がだんだんと強くなる。
そして捨てられたのではないかと次第に不安になって、リリアンは荒んでいった。
それでも最初の頃はメイドや母親の言葉で多少落ち着きを見せていたリリアン。
けれど一向に会いにやって来ないオズワルドに、リリアンはもう我慢の限界だったのだ。
「どうして私に会いに来ないのよ!? 私のお腹の中には、オズワルド様の子がいるっていうのに! どうして……」
そしてふと考えが浮かぶ。
オズワルド様が会いに来ないのならば、自分の方から会いに行けばいい。
そう思い立ち、ラフォルグ侯爵家に会いに行けば。
侯爵家の使用人に門前払いを受けて。
屋敷に入ることはおろか、オズワルドや侯爵夫妻に取り次いですら貰えなかった。
そして侯爵家から追い払われるように帰ってきたリリアンは、腹立ち紛れに手に持ったカップをメイドに向けて投げつけた。
そのカップの中には熱々の紅茶、それがメイドに当たれば火傷は免れないだろう。
「きゃあぁっ……!」
そして投げられたカップはメイドの頭部に運悪く当たり、バラバラに割れてしまう。
「だ、大丈夫!?」
もう一人のメイドが、慌てて駆け寄る。
「痛い、痛い……」
カップに入っていた熱々の紅茶が顔に盛大にかかってしまったメイドは、苦悶の表情を浮かべてその場で蹲り酷い痛みに震える。
そんなメイドの額には切り傷が出来てうっすらと血が滲み、紅茶が掛かった顔は赤く腫れ上がってしまっていた。
「酷い、こんなの……」
苦痛に耐える同僚の様子に。
慌てて駆け寄ったメイドは、カップを投げ付けたリリアンを恨みがましそうに見た。
貴族だからといって使用人に暴力を振るってもいいわけではない、ものには限度というものがある。
「なに、その目は!?」
「っ……いえ、なんでもございません」
だがメイドは口に出して逆らう事は出来ない。
貴族に逆らえば、あとで何をされるかわかったものじゃないから。
メイドにそんな目を向けられて。
リリアンは余計に腹を立てて、目に付いたメイドに手当り次第八つ当たりを繰り返した。
日に日に酷くなっていくリリアンからの暴力に、耐え兼ねたメイドが一人、また一人とハインツ子爵家の使用人を辞めて去っていく。
もともとハインツ子爵家に仕える使用人の数は少なくて、屋敷を管理する者まで次々に辞めていき。
ハインツ子爵家はどんどん荒れ果てていく。
そんな折に、王宮からやって来た騎士達にハインツ子爵が引き摺られるようにして連れて行かれたのである。
あまりに突然の事でなにが起きたのかわからないハインツ子爵夫人とリリアンは、恐怖でガタガタと打ち震える。
だれか助けてと思うけれど。
頼れる親類や友好のある家などこの子爵家には一つも無く、ただ連れられていく子爵を見ていることしか二人には出来なかった。
そしてハインツ子爵が居なくなった家は。
使用人が殆ど辞めてしまった事もあってか、静かでどこか暗く。
リリアンはどうしてこんな事になってしまったのかと物に八つ当たりするが、気が晴れることはない。
自分は侯爵夫人になるはずだったのに、どうしてこんなに酷い扱いを受けなければいけないのか。
日に日に腹は大きくなっているような気がするし、悪阻で息をするのも辛いのに。
それもこれもみんな全部、自分に会いにやって来ないオズワルドが悪い。
オズワルドさえ自分に会いに来ていればこんな事にはならなかったのに、どうして会いに来てくれないのか。
そして再びリリアンは、オズワルドに会いにラフォルグ侯爵家に向かった。
自分との事を問い詰めたい気持ちももちろんあるが、父親の事についても手を貸して欲しくて。
だがまたリリアンは使用人に門前払いを受けた。
オズワルドに取り次いですら貰えない、がっくりとリリアンは肩を落としまた何日もかけて子爵家に帰ろうとすれば。
侯爵家から出てくる馬車、その車窓にオズワルドの姿が見えて。
「待って! オズワルド様、私よ……!」
大声を出して叫ぶリリアン、その声にオズワルドの乗る馬車はゆっくりと止まる。
そして馬車から降りて来たオズワルドは。
「リリアン、どうしてここに」
「どうしてって……オズワルド様が私に会いに来ないから、私会いに来たんです! どうして会いに来なかったのですか!?」
「それは……」
「私、ずっと待っていましたのよ? それに結婚式はどうするんです? お腹も大きくなってきて……」
そう言ってお腹をさするリリアン、確かにすこし膨らんだように見える。
「……結婚式は出来ない」
「え……あ、そうですね。このお腹じゃウエディングドレス着れませんし、じゃあ式は後日で……教会に婚姻許可だけ先に貰いましょうか」
「リリアン、君とは結婚出来なくなったんだ」
「え……」
何を言っているのかわからないといった表情で、
オズワルドを見返すリリアン。
「君と結婚すれば私は廃嫡されてしまう、だから結婚出来ない」
「え、なに……言って……」
「私は当初の予定通りマリアベルと結婚する事にしたよ、彼女と結婚すれば親も納得してくれる」
「オズワルド様……?」
「だからもう私の前に現れないでくれ、君と会っている事が親に知られたら困るんだ」
「でも、私のお腹の中には貴方の……!」
「……それは本当に私の子かリリアン? 結婚前に男と寝る女が、他の男と寝てないとは限らない」
「え……」
「君は邪魔なんだリリアン、まだ私を愛しているなら、その子どもと消えてくれないか?」
そう吐き捨ててオズワルドは再び馬車に乗り、どこかへ行ってしまう。
どうしてこんな事になってしまったのか、リリアンにはもうわからなかった。
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