41 / 72
41 国王からの召喚状
しおりを挟む
41
ラフォルグ侯爵は王宮から届いた召喚状を手に、額に手を押し当てて深い溜息を零した。
召喚状、それは国王陛下からの呼び出し。
そしてこれは十中八九、オズワルドが教会前で起こした騒ぎについてだろう。
これが手元に届いたならば、直ぐに王宮に向かい息子の不始末を弁解し謝罪しなければいけない。
ただこれに応じて王宮に行けば、お前は何をしていたのかと皆に責め立てられるのはもう確実で。
正直行きたくはない。
だが行かぬ訳には行かないと、ラフォルグ侯爵は重苦しい気持ちで馬車に乗り王宮を一人目指した。
病を患う前は、ラフォルグ侯爵も王宮で騎士として日々働いていた。
けれどまさかこんな形でまた王宮に来ることになるなんて、数日前までは予想すらもしていなかった。
フラフラと社交界で遊び呆ける息子の事を、馬鹿だとラフォルグ侯爵も薄々は勘づいてはいた。
が、ここまで馬鹿な真似をするとは流石に考えてもみなかった。
多少のヤンチャくらいなら侯爵も若気の至りと見過ごすが、物事には限度というか。
貴族の世界にもやっていい事と悪い事がある。
そしてオズワルドは一番やってはいけない事をしてしまった。
王家の不興を買い、教会を敵に回す。
最悪の場合異端とされて、処刑されても何も文句は言えない。
馬鹿な息子にしっかり者の令嬢が嫁いできてくれる、そう安心して出席した結婚式。
そこでラフォルグ侯爵はあの惨状を見た、その結果最近安定してきていた病状が一気に悪化。
実際こうやって立って歩いているのも今はやっとで、出来る事ならば領地に戻り再び療養したい。
だが状況はそうも言っていられない。
このままでは最悪爵位の降格等の処分が予想出来る、でもそれだけはどうしても避けたい。
先祖代々受け継いできた侯爵という爵位、それを受け継げた事をラフォルグ侯爵は誇りに思っていた。
それを自分の代で失うなんて。
そんな不名誉だけは御免被りたい、今までこの地位を大事に守ってきた先祖達に顔向けが出来なくなってしまう。
そして久方ぶりの王宮に感慨に浸る間もなく、眼前には謁見の間に続く重厚な二枚扉。
……もうここまで来たら覚悟を決めるしかない。
◇◇◇
「それでラフォルグ、今回の騒動どう責任を取るつもりだ。お前自身がやった事ではないが嫡男が仕出かした事だ、当主であるお前にも当然その責任は発生する」
「……現在嫡男は屋敷の地下室に閉じ込めて反省を促し、廃嫡にしようかと考えております」
「廃嫡を考えている? お前はまだ嫡男を廃嫡にしていなかったのか、少々危機管理能力に問題があるようだな」
「っ……一人息子の為、決断が遅くなりました」
「それと教会側からの苦情についてはどうするつもりだ、どうやって責任を取る」
「後日教会には直接謝罪に……」
「謝罪だけで済むと思っているのか!? お前の所の嫡男が暴れたせいで教会内にいた者達は一時恐慌状態に陥ったと枢機卿猊下からも報告も受けているんだぞ!」
「それは本当に申し訳なく」
「それに騒動を目撃した国民達からも多数の苦情が国に寄せられている、貴族の横暴が激しいとな。いたいけな女性に寄って集ってお前達は好き勝手したそうじゃないか?」
「いえ、それは……」
「これは貴族全体に波及する一大事、お前達のせいで貴族に対する心象が一気に悪化した」
「皆々様におかれましては、どう謝罪したらいいか皆目見当もつかない次第で」
「ああそうだ、ラフォルグ侯爵は今日の新聞の一面をもう見たか? 今回の件、面白おかしく取り沙汰されているぞ……酷いもんだ」
「っそれはまだ……」
宰相や大臣達、多方面から今回の不手際を指摘されてラフォルグ侯爵は今や針のむしろ。
オズワルドのやらかしが想像以上の大事になってしまっていて、弁解の余地もなし。
そして延々平謝りで、ラフォルグ侯爵の顔色は段々と悪く紙のように白くなっていく。
――そこへ。
「教会や国民達からはそなたや子爵の爵位の降格や取り上げ、厳罰等などの声が上がってきている」
その一部始終を黙って見守っていた国王は、ふと思い出したようにラフォルグ侯爵にそう告げた。
「そ、れは……」
「私としては爵位の降格と教会へ賠償金の支払いが妥当かと考えている。その位はしないと国民感情もきっと落ち着かないだろう」
「そんな、国王陛下っ!」
「……これでも長年国に騎士として仕えてくれたお前に留意している、お前の騎士仲間からの嘆願もあったしな。それに今回の一番の被害者であるマリアベル本人からも『侯爵様は私を守ってくださった』としてあまり重い罰は下さないようにと、王子を通して私に伝えてきた」
「マリアベルさんが?」
「それとハインツ子爵も今王宮に呼び出していて、あちらは爵位と領地を取り上げるつもりだ。それに加えてあちらには厳罰を科す。今回領地で療養していて何も知らなかったお前とは違い、あちらは最初から知っていたからな」
「なっ、最初から!?」
大きく目を開きラフォルグ侯爵は驚いた。
普通それを知っていたなら親なら止めるだろうし、そんな男と娘の結婚を認めたりなどしない。
「ああ、最初からだ。ハインツの奴は初めから知っていてそれを容認していた、お前とは訳が違う」
「なんて馬鹿な真似を、ハインツ子爵……!」
あまりの事実にラフォルグ侯爵はぐったりと項垂れ、ふらりとよろめいた。
「だからラフォルグ、お前は早く嫡男を廃嫡して家門から追い出してしまえ。そして静かに余生を領地で過ごせ。爵位は降格させるが領地までは奪わん」
「っ……陛下、ご配慮ありがとうございます」
「ああ、この程度しかしてやれなくてすまない」
深々と臣下の礼を取るラフォルグ侯爵に、国王シュナイゼルは言葉少なに謝罪した。
ハインツ子爵をもっと早く処罰して全てを公表していれば、もしかしたらこの事態は防げたのかもしれないのだから。
ラフォルグ侯爵は王宮から届いた召喚状を手に、額に手を押し当てて深い溜息を零した。
召喚状、それは国王陛下からの呼び出し。
そしてこれは十中八九、オズワルドが教会前で起こした騒ぎについてだろう。
これが手元に届いたならば、直ぐに王宮に向かい息子の不始末を弁解し謝罪しなければいけない。
ただこれに応じて王宮に行けば、お前は何をしていたのかと皆に責め立てられるのはもう確実で。
正直行きたくはない。
だが行かぬ訳には行かないと、ラフォルグ侯爵は重苦しい気持ちで馬車に乗り王宮を一人目指した。
病を患う前は、ラフォルグ侯爵も王宮で騎士として日々働いていた。
けれどまさかこんな形でまた王宮に来ることになるなんて、数日前までは予想すらもしていなかった。
フラフラと社交界で遊び呆ける息子の事を、馬鹿だとラフォルグ侯爵も薄々は勘づいてはいた。
が、ここまで馬鹿な真似をするとは流石に考えてもみなかった。
多少のヤンチャくらいなら侯爵も若気の至りと見過ごすが、物事には限度というか。
貴族の世界にもやっていい事と悪い事がある。
そしてオズワルドは一番やってはいけない事をしてしまった。
王家の不興を買い、教会を敵に回す。
最悪の場合異端とされて、処刑されても何も文句は言えない。
馬鹿な息子にしっかり者の令嬢が嫁いできてくれる、そう安心して出席した結婚式。
そこでラフォルグ侯爵はあの惨状を見た、その結果最近安定してきていた病状が一気に悪化。
実際こうやって立って歩いているのも今はやっとで、出来る事ならば領地に戻り再び療養したい。
だが状況はそうも言っていられない。
このままでは最悪爵位の降格等の処分が予想出来る、でもそれだけはどうしても避けたい。
先祖代々受け継いできた侯爵という爵位、それを受け継げた事をラフォルグ侯爵は誇りに思っていた。
それを自分の代で失うなんて。
そんな不名誉だけは御免被りたい、今までこの地位を大事に守ってきた先祖達に顔向けが出来なくなってしまう。
そして久方ぶりの王宮に感慨に浸る間もなく、眼前には謁見の間に続く重厚な二枚扉。
……もうここまで来たら覚悟を決めるしかない。
◇◇◇
「それでラフォルグ、今回の騒動どう責任を取るつもりだ。お前自身がやった事ではないが嫡男が仕出かした事だ、当主であるお前にも当然その責任は発生する」
「……現在嫡男は屋敷の地下室に閉じ込めて反省を促し、廃嫡にしようかと考えております」
「廃嫡を考えている? お前はまだ嫡男を廃嫡にしていなかったのか、少々危機管理能力に問題があるようだな」
「っ……一人息子の為、決断が遅くなりました」
「それと教会側からの苦情についてはどうするつもりだ、どうやって責任を取る」
「後日教会には直接謝罪に……」
「謝罪だけで済むと思っているのか!? お前の所の嫡男が暴れたせいで教会内にいた者達は一時恐慌状態に陥ったと枢機卿猊下からも報告も受けているんだぞ!」
「それは本当に申し訳なく」
「それに騒動を目撃した国民達からも多数の苦情が国に寄せられている、貴族の横暴が激しいとな。いたいけな女性に寄って集ってお前達は好き勝手したそうじゃないか?」
「いえ、それは……」
「これは貴族全体に波及する一大事、お前達のせいで貴族に対する心象が一気に悪化した」
「皆々様におかれましては、どう謝罪したらいいか皆目見当もつかない次第で」
「ああそうだ、ラフォルグ侯爵は今日の新聞の一面をもう見たか? 今回の件、面白おかしく取り沙汰されているぞ……酷いもんだ」
「っそれはまだ……」
宰相や大臣達、多方面から今回の不手際を指摘されてラフォルグ侯爵は今や針のむしろ。
オズワルドのやらかしが想像以上の大事になってしまっていて、弁解の余地もなし。
そして延々平謝りで、ラフォルグ侯爵の顔色は段々と悪く紙のように白くなっていく。
――そこへ。
「教会や国民達からはそなたや子爵の爵位の降格や取り上げ、厳罰等などの声が上がってきている」
その一部始終を黙って見守っていた国王は、ふと思い出したようにラフォルグ侯爵にそう告げた。
「そ、れは……」
「私としては爵位の降格と教会へ賠償金の支払いが妥当かと考えている。その位はしないと国民感情もきっと落ち着かないだろう」
「そんな、国王陛下っ!」
「……これでも長年国に騎士として仕えてくれたお前に留意している、お前の騎士仲間からの嘆願もあったしな。それに今回の一番の被害者であるマリアベル本人からも『侯爵様は私を守ってくださった』としてあまり重い罰は下さないようにと、王子を通して私に伝えてきた」
「マリアベルさんが?」
「それとハインツ子爵も今王宮に呼び出していて、あちらは爵位と領地を取り上げるつもりだ。それに加えてあちらには厳罰を科す。今回領地で療養していて何も知らなかったお前とは違い、あちらは最初から知っていたからな」
「なっ、最初から!?」
大きく目を開きラフォルグ侯爵は驚いた。
普通それを知っていたなら親なら止めるだろうし、そんな男と娘の結婚を認めたりなどしない。
「ああ、最初からだ。ハインツの奴は初めから知っていてそれを容認していた、お前とは訳が違う」
「なんて馬鹿な真似を、ハインツ子爵……!」
あまりの事実にラフォルグ侯爵はぐったりと項垂れ、ふらりとよろめいた。
「だからラフォルグ、お前は早く嫡男を廃嫡して家門から追い出してしまえ。そして静かに余生を領地で過ごせ。爵位は降格させるが領地までは奪わん」
「っ……陛下、ご配慮ありがとうございます」
「ああ、この程度しかしてやれなくてすまない」
深々と臣下の礼を取るラフォルグ侯爵に、国王シュナイゼルは言葉少なに謝罪した。
ハインツ子爵をもっと早く処罰して全てを公表していれば、もしかしたらこの事態は防げたのかもしれないのだから。
2,943
お気に入りに追加
4,907
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

奪われたものは、もう返さなくていいです
gacchi
恋愛
幼い頃、母親が公爵の後妻となったことで公爵令嬢となったクラリス。正式な養女とはいえ、先妻の娘である義姉のジュディットとは立場が違うことは理解していた。そのため、言われるがままにジュディットのわがままを叶えていたが、学園に入学するようになって本当にこれが正しいのか悩み始めていた。そして、その頃、双子である第一王子アレクシスと第二王子ラファエルの妃選びが始まる。どちらが王太子になるかは、その妃次第と言われていたが……
釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません
しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。
曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。
ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。
対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。
そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。
おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。
「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」
時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。
ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。
ゆっくり更新予定です(*´ω`*)
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる