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38 爽やかな朝に
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――早朝。
まだ日も完全に明け切らぬうちからいつものように身支度を手早く整え、銀獅子宮に出勤しようと部屋の扉を開けようとした。
その瞬間。
部屋の扉が軽快に叩かれた。
こんな時間に私の部屋を訪ねてくる方なんて心当たりが全くなく、いったい誰でしょうかとすこし訝しみながらも扉を開けて確認してみますと。
そこには爽やかな笑顔のクロヴィス様が、両手に大きな包みの箱やバスケットの籠を抱えて立っていらっしゃいました。
「あれ、クロヴィス様?」
「おはようマリアベル、ちょっと……部屋いれて」
「えっ、あ、どうぞ散らかっておりますが……」
こんなに朝早くからなにがいったいどうされたのか不明でしたが、両手に大荷物のクロヴィス様を部屋へと招き入れます。
そして部屋に入ってきたクロヴィス様は。
テーブルの上に見るかに美味しそうな焼き菓子や軽食等を、先程まで抱えていた大きな包みの箱から一つずつ丁寧に取り出されます。
そして。
「よし、こんなもんかな?」
と、満足気に頷くクロヴィス様。
その視線の先を辿れば。
そこには優雅なブランチの、テーブルセッティングが出来上がっておりました。
「あの……これはいったい」
「マリアベルと一緒に朝食食べようかなと思って、さっき作ってきた」
「朝食……? 作ってきた? もしかして、これクロヴィス様がお作りになられたのですか!?」
『作ってきた』
その言葉に私は驚かされた。
だってクロヴィス様はかの有名な名家ルーホン公爵家の嫡男で、レオンハルト第一王子殿下の側近。
なのに自ら料理を作られた。
それにその出来栄えは、プロの料理人の方が作ったと言っても誰も信じて疑わないくらいとても美味しそう。
それに加えクロヴィス様は焼き菓子や軽食だけではなく食器やカトラリー、テーブルクロスまで持参されていらしたらしく。
テーブルセッティングまで完璧で、文句のつけ所がどこにもございません。
「俺さ、実は料理が趣味なんだ。今まで恥ずかしくて言ってなかったけど……とりあえず俺の事をマリアベルに少しでも知ってもらおうと思って。作ってきた」
「クロヴィス様」
「だからマリアベル、お茶入れて?」
「……昨日は断られた癖に」
ぽそりと本音が口をついて出る。
昨日の夜、クロヴィス様にお茶を断られたのがなんとなくですが私は寂しかった。
突然壁を作られてしまったみたいで。
「それは仕方ないだろ? 夜に女の子の部屋に男が入るなんて……危険過ぎる」
クロヴィス様はそんなこと、今まで一言もおっしゃらなかった。
なのに急に危険だなんておっしゃられて距離を置かれますと、私は嫌われてしまったんじゃないかと不安になります。
……私が結婚をお断りしようとしたから。
嫌になったんじゃないのかと。
「では朝なら男性が女性の部屋に入っても、大丈夫なのですか?」
「そこはまあ、俺限定で。他のやつはマリアベルの部屋に入れちゃ絶対に駄目だぞ、めちゃくちゃ危ないからな」
「ふふ、なんですかそれ……!」
ですがそれはただの杞憂でした。
クロヴィス様はオズワルド様のような利己的な方じゃない、私はその事を誰よりも近くで見て話して知っていたはずなのに。
「だから一緒に食べよう? 侍女長とレオンハルトには、マリアベルを借りるって許可もとってあるからさ」
「まあ、用意周到ですわね?」
「そりゃ……今からマリアベルの事口説き落とすつもりだかな!」
「それ、私に言わないほうがたぶん効果的だと思いますよ?」
「え、じゃあ今の忘れて?」
友人ではなく男として接するとか、口説くとか言うわりにクロヴィス様はいつも通り。
……それが私は嬉しい。
「クロヴィス様、私……結婚が怖いのです」
「そ、れは……」
困ったような悲しげなお顔。
こんな表情をクロヴィス様にさせたくはありませんが、私は伝えなければいけません。
胸にわだかまりを抱えたまま、このまま前に進むなんて不器用な私に出来ないのだから。
「あ、別にクロヴィス様との結婚が嫌と言う訳ではないのですよ? 結婚という行為自体が私はとても怖いのです」
「じゃあ……結婚が嫌なだけで、マリアベルは俺のこと嫌いという訳ではないのか?」
「……嫌いなわけないじゃないですか、私はクロヴィス様の事、お慕いしておりますのに」
「あ、そうなんだ! へぇ……え!?」
突然大きな声を出され驚かれるクロヴィス様、なにをそんなに驚かれる事があるのでしょうか。
「流石の私でも、嫌いな方にプロポーズされたらその場でお断り致しますよ?」
「っえ……まあ、そっか。そうだよな」
「昨夜一晩じっくりと考えたのです、これからクロヴィス様とどうしたいのかを。そして自分の気持ちに気付く事をずっと私は避けておりましたがクロヴィス様に惹かれている、その気持ちを受け入れたら気が少し楽になったんです」
「マリアベル」
「まだ結婚という決断は出来ませんが、それでもよろしかったら私とお付き合いしていただけませんか? クロヴィス様」
「なぜだろう。今日は口説くつもりで来たのに、逆に俺が口説かれてる……!?」
「はい、口説いてみました。それでお返事は……頂けますでしょうか?」
「それの答えはもう初めから決まってるよ、こちらこそよろしくマリアベル」
「……はい、ではお茶をお入れ致しますね?」
「うん、もうお腹ぺこぺこ……それに安心したら余計にお腹すいた」
「ふふ、では急いで準備致します」
――早朝。
まだ日も完全に明け切らぬうちからいつものように身支度を手早く整え、銀獅子宮に出勤しようと部屋の扉を開けようとした。
その瞬間。
部屋の扉が軽快に叩かれた。
こんな時間に私の部屋を訪ねてくる方なんて心当たりが全くなく、いったい誰でしょうかとすこし訝しみながらも扉を開けて確認してみますと。
そこには爽やかな笑顔のクロヴィス様が、両手に大きな包みの箱やバスケットの籠を抱えて立っていらっしゃいました。
「あれ、クロヴィス様?」
「おはようマリアベル、ちょっと……部屋いれて」
「えっ、あ、どうぞ散らかっておりますが……」
こんなに朝早くからなにがいったいどうされたのか不明でしたが、両手に大荷物のクロヴィス様を部屋へと招き入れます。
そして部屋に入ってきたクロヴィス様は。
テーブルの上に見るかに美味しそうな焼き菓子や軽食等を、先程まで抱えていた大きな包みの箱から一つずつ丁寧に取り出されます。
そして。
「よし、こんなもんかな?」
と、満足気に頷くクロヴィス様。
その視線の先を辿れば。
そこには優雅なブランチの、テーブルセッティングが出来上がっておりました。
「あの……これはいったい」
「マリアベルと一緒に朝食食べようかなと思って、さっき作ってきた」
「朝食……? 作ってきた? もしかして、これクロヴィス様がお作りになられたのですか!?」
『作ってきた』
その言葉に私は驚かされた。
だってクロヴィス様はかの有名な名家ルーホン公爵家の嫡男で、レオンハルト第一王子殿下の側近。
なのに自ら料理を作られた。
それにその出来栄えは、プロの料理人の方が作ったと言っても誰も信じて疑わないくらいとても美味しそう。
それに加えクロヴィス様は焼き菓子や軽食だけではなく食器やカトラリー、テーブルクロスまで持参されていらしたらしく。
テーブルセッティングまで完璧で、文句のつけ所がどこにもございません。
「俺さ、実は料理が趣味なんだ。今まで恥ずかしくて言ってなかったけど……とりあえず俺の事をマリアベルに少しでも知ってもらおうと思って。作ってきた」
「クロヴィス様」
「だからマリアベル、お茶入れて?」
「……昨日は断られた癖に」
ぽそりと本音が口をついて出る。
昨日の夜、クロヴィス様にお茶を断られたのがなんとなくですが私は寂しかった。
突然壁を作られてしまったみたいで。
「それは仕方ないだろ? 夜に女の子の部屋に男が入るなんて……危険過ぎる」
クロヴィス様はそんなこと、今まで一言もおっしゃらなかった。
なのに急に危険だなんておっしゃられて距離を置かれますと、私は嫌われてしまったんじゃないかと不安になります。
……私が結婚をお断りしようとしたから。
嫌になったんじゃないのかと。
「では朝なら男性が女性の部屋に入っても、大丈夫なのですか?」
「そこはまあ、俺限定で。他のやつはマリアベルの部屋に入れちゃ絶対に駄目だぞ、めちゃくちゃ危ないからな」
「ふふ、なんですかそれ……!」
ですがそれはただの杞憂でした。
クロヴィス様はオズワルド様のような利己的な方じゃない、私はその事を誰よりも近くで見て話して知っていたはずなのに。
「だから一緒に食べよう? 侍女長とレオンハルトには、マリアベルを借りるって許可もとってあるからさ」
「まあ、用意周到ですわね?」
「そりゃ……今からマリアベルの事口説き落とすつもりだかな!」
「それ、私に言わないほうがたぶん効果的だと思いますよ?」
「え、じゃあ今の忘れて?」
友人ではなく男として接するとか、口説くとか言うわりにクロヴィス様はいつも通り。
……それが私は嬉しい。
「クロヴィス様、私……結婚が怖いのです」
「そ、れは……」
困ったような悲しげなお顔。
こんな表情をクロヴィス様にさせたくはありませんが、私は伝えなければいけません。
胸にわだかまりを抱えたまま、このまま前に進むなんて不器用な私に出来ないのだから。
「あ、別にクロヴィス様との結婚が嫌と言う訳ではないのですよ? 結婚という行為自体が私はとても怖いのです」
「じゃあ……結婚が嫌なだけで、マリアベルは俺のこと嫌いという訳ではないのか?」
「……嫌いなわけないじゃないですか、私はクロヴィス様の事、お慕いしておりますのに」
「あ、そうなんだ! へぇ……え!?」
突然大きな声を出され驚かれるクロヴィス様、なにをそんなに驚かれる事があるのでしょうか。
「流石の私でも、嫌いな方にプロポーズされたらその場でお断り致しますよ?」
「っえ……まあ、そっか。そうだよな」
「昨夜一晩じっくりと考えたのです、これからクロヴィス様とどうしたいのかを。そして自分の気持ちに気付く事をずっと私は避けておりましたがクロヴィス様に惹かれている、その気持ちを受け入れたら気が少し楽になったんです」
「マリアベル」
「まだ結婚という決断は出来ませんが、それでもよろしかったら私とお付き合いしていただけませんか? クロヴィス様」
「なぜだろう。今日は口説くつもりで来たのに、逆に俺が口説かれてる……!?」
「はい、口説いてみました。それでお返事は……頂けますでしょうか?」
「それの答えはもう初めから決まってるよ、こちらこそよろしくマリアベル」
「……はい、ではお茶をお入れ致しますね?」
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