妹に婚約者を結婚間近に奪われ(寝取られ)ました。でも奪ってくれたおかげで私はいま幸せです。

千紫万紅

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33 謁見の間、そして無慈悲な命令

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 話があると国王に呼ばれたクロヴィスとレオンハルト第一王子が通されたのは、謁見の間。
 いつもならクロヴィスに何か用件があっても通されるのは国王の執務室や応接室等の私的な空間なのに、これはいったいどうしたのかと二人は顔を見合わせた。

「どうして謁見の間……?」

「変だね、何かあったのかな」

 謁見の間が選ばれたということは、宰相や大臣達を交えた話し合いが行われる可能性があるということ。
 だが先の件でそこまでの大事になるのかといえば、たぶんならないだろう。
 
 あの程度ならばラフォルグ侯爵を呼び出し警告すれば教会の前で騒ぎを起こしたオズワルドの廃嫡は確実で、その暴挙を止めなかった責任を取らせる形で侯爵家自体にも何かしらの処罰が下せる。
 
 それは子爵家に至っても同様に。
 国に提出された絶縁に関する書類を鑑定すればそこに虚偽や不正はないと証明され、ハインツ子爵の言い分こそが虚偽であると暴かれるだろう。
 なのでマリアベルの養子縁組に関しても、何も問題が起きないはず。

「とりあえず入るか、ここで考えていても仕方ない」

「そうだね。父上もたまには謁見の間を使って生意気なクロヴィスを傅かせて遊びたい、みたいな事かもしれないし……」

「いや、それは絶対ないから。というか俺の事そんな風に思ってたの!?」

「……ん、それは内緒」

 何故そんな考えが浮かぶのか。
 いったいなにが内緒なのか。
 クロヴィスは時折、レオンハルトの頭の中をこじ開けて見てみたいという衝動に駆られる。
  
 基本的にレオンハルト第一王子は、品行方正で文句の付けようがない模範的な王子様。
 なのにたまにこういった突拍子もない発言や行動を見せるのは、確実にアイリーン王妃殿下譲り。 
 マリアベルが侍女になってからは立派な王子に見られたいのか多少隠すようにはなったが、時折こうやって出てくるから毎度クロヴィスは驚かされる。  
  
 謁見の間の扉の前に立つ衛兵に目配せすれば、重厚な扉はギギギッ……と音を立てて開いていく。

「レオンハルト第一王子殿下、そしてクロヴィス・ルーホン様、お越でございます」

 扉の前で衛兵は高らか声をあげる。
 すると謁見の間にいた国王や宰相達の視線は、レオンハルト第一王子とクロヴィスへと注がれる。
 
 普段ならばクロヴィスは国王に傅いたりなどはしないが一応ここは謁見の間、なので礼儀正しく臣下の礼をとり頭を垂れる。
 それは隣にいるレオンハルト第一王子も同じで、クロヴィスほど丁寧ではないが軽く頭を下げた。

 そんな二人に対して国王は。
「ああ、もうそんなのはいいから……早くこちらへ来なさい。急ぎでクロヴィスには話がある」

「急ぎとは……?」

「クロヴィス、君は侍女のマリアベル・ハインツ子爵令嬢……いや今はマリアベル・フォーレ伯爵令嬢に教会前で結婚をすると発言したそうだね」

「はい」

「その件についてなんだけど、少々問題が起きているんだ」

「問題、とは」 

「隣国のアウラの大使がマリアベルに対して求婚書を送ってきたんだ、彼女の婚約破棄を知ってね」

「……求婚?」

「二年前のレオンハルトの婚約発表の夜会でね、アウラの大使はマリアベルにとても親切にしてもらったらしく大層気に入ったみたいでね? ただ国が違うから相当悩まれたらしいんだけどその後こちらに求婚書を送ってきてたんだ。だけどもう既にその時にはマリアベルはラフォルグ侯爵家の嫡男と婚約してしまった後で、一度はお断りしたんだけど……」

「マリアベルの婚約破棄を知って、再びアウラから結婚の打診が来たと……」

「そう、私個人としてはクロヴィスの願いを叶えてあげたい。けどこの国の王としては……君達の婚姻は認められない。この機会にアウラとの友好を深めたい」

「っ……!」

「ただ先方としてはマリアベル自身がそれを望まないなら無理にとは言わないと、言っていてね?」

「……それで陛下は私にどう、しろと?」

「彼女と別れてくれないかな? アイリーンがね、君とマリアベルとの結婚に凄い乗り気でね、私からは正直に言えないんだよ」

 なんでもない事のようにクロヴィスに『マリアベルと別れろ』と命令する国王シュナイゼル。
  
 本心で言えばシュナイゼルも赤子の頃から可愛がっているクロヴィスの願いを叶えてあげたい。
 だが一国の王としては、私情よりも国の利益を優先させなければいけない。
  
「そ、れは……」

 無慈悲な命令にクロヴィスは言葉を詰まらせる、やっと片想いが叶ったばかりだと言うのに『別れろ』だなんて。
 
 いくら国王陛下の命令だからといって承諾出来る筈がない、だからクロヴィスは何も応えられない。

 そんなクロヴィスの強ばる肩をポンっと叩き、レオンハルト第一王子はどこか不敵に微笑む。

 ――そして。

「……父上、実はここには私もいるんですけど。もしかして、お忘れですか?」

 と、まるで脅迫でもするかのような口調で国王にゆったりと問いかけた。
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