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19 幸せの絶頂から
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総レースのウェディングドレスには気品を添えるように銀糸の刺繍が所々に施されていて、花嫁の清楚な美しさを引き出してくれる。
筈なのに。
今やレースは無惨にも伸び切ってしまっているし、無理に着ようとしたせいで胸元のレースがほつれてしまっていた。
「あの……リリアンお嬢様、ウェディングドレスの留め具が閉まらないのですが……」
「なっ……お前は私が太ってるっていうの!?」
「い、いえ! そういうわけでは……」
実際リリアンは太った。
それは妊娠したからというのももちろんあるが、食事以外はオズワルドとずっとベッドの上で怠惰な生活をしているというのが一番の原因。
それに加えてこのドレスは日々侍女として忙しく働くマリアベル用にサイズ直しをされたもので、ウエストのサイズがかなり小さいのである。
だから妊娠前でもリリアンはギリギリ留め具が閉まるかどうかで、今では着る事自体が困難。
「コルセットをもっと閉めて!」
「そ、それは出来ません、リリアンお嬢様のお腹の中には大事なお子様がいらっしゃるんですよ?」
「は? そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 今日は大事な結婚式なの……! ドレスが入らないんじゃどうしようもないじゃないっ!」
幸せの絶頂。
今日は大事な結婚式、ウェディングドレスの予備など存在する筈はない。
だから何がなんでもリリアンは、このサイズの小さなドレスを着なければいけない。
コルセットをメイド二人がかりでキツく閉めて、どうにか留め具を一つ一つ力ずくで閉めていく。
だがどうメイド達が頑張っても、下半分までしか閉まらない留め具。
そして悲鳴をあげるウェディングドレスに、これ以上はもうどうしようも出来ないとメイド達は諦めて。
長いヴェールで、後ろの閉まらない留め具をそっと隠した。
純白のウェディングドレス。
その白い色には、ドレスを纏う花嫁の清純さや清楚さ等を表していると言われる。
だが今のリリアンの姿は清純とはどうしても言い難く、はち切れそうなドレスの胸元からは肉が溢れ目のやり場に困るほどで。
まるで酒場にいる娼婦のような花嫁の酷い姿に、ラフォルグ侯爵家の使用人たちは笑いを必死に堪えた。
そしてハインツ子爵家からリリアンの世話の為にやってきた二人のメイドもつい笑いそうになるが、ここで笑ったらクビが飛ぶ。
だから使用人達は必死に笑うのを堪える。
「私の可愛い花嫁リリアン! 結婚式の準備はもうできたかい?」
そんな緊迫?した状況化の中、颯爽とやってきたのはオズワルドで。
「あ、オズワルド様……」
「えっ……ん? あれ?」
そこには飾り立てられた美しい花嫁がいると、オズワルドは信じて疑わなかった。
なのにそこにいたのは、今にもはち切れそうなウェディングドレスを身に纏った酷い姿の花嫁で。
「どうですかオズワルド様? このウェディングドレス、リリアンに似合いますかしら……」
「え、ああ……うん。まあ大丈夫……」
引き攣る表情筋、どうにかオズワルドが絞り出した答えは『大丈夫』の一言のみで。
なにがいったい『大丈夫』なのかとリリアンは、オズワルドを冷たく見返した。
そして二人は笑いを堪える使用人達に見送られて馬車に乗る、けれど車内の空気は最悪。
オズワルドが一切リリアンの事を見ようとはしないのだ、いつもならば『可愛い、可愛い』と褒めてくれるのに。
そんな嫌な沈黙の流れる馬車に乗り、新郎新婦の二人がやってきたのは。
いくら金貨を積んでも借りる事が出来ないとされている、王族専用の教会で。
教会の周囲には沢山の招待客や両親達が新郎新婦の二人の到着を、今か今かと待ち構えていた。
そして馬車から降りるオズワルドとリリアンの所へ、一組の夫婦が駆け寄ってきた。
リリアンはお祝いの言葉をかけられると思い、にっこり可憐に微笑む。
――が。
「オズワルド! お前これはいったいどういうことだ! ちゃんと説明しろ、この馬鹿息子!」
「オズワルド、貴方、誰……その新婦は!? マリアベルさんはどこ……?」
「っ父さん、母さん……いや、これは……その……」
リリアンは招待客達の祝福の歓声に包まれて、馬車から優雅に降りてくる筈だった。
なのに耳に聞こえてきたのはオズワルドとリリアンを責め立てるような声の数々。
だがリリアンがよく話を理解すれば、この二人はラフォルグ侯爵夫妻だとわかり。
「あ、もしかしてお義父様? それにお義母様!? 私、リリアンです! ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません! お祝いに来て下さったのね! リリアン嬉しいー!」
リリアンは人懐っこくラフォルグ侯爵夫妻を、『お義父様』『お義母様』と呼んで挨拶しようとする。
だがラフォルグ侯爵は。
「なんだこの女は!? 初対面なのに馴れ馴れしい! オズワルド、これはどういう事だ!」
「あ……いや、はい」
可愛らしく微笑んで挨拶したリリアンのことを、ラフォルグ侯爵は見ること無く無視をして。
激しい剣幕でオズワルドの胸ぐらを掴み、宙に吊り上げたのだった。
総レースのウェディングドレスには気品を添えるように銀糸の刺繍が所々に施されていて、花嫁の清楚な美しさを引き出してくれる。
筈なのに。
今やレースは無惨にも伸び切ってしまっているし、無理に着ようとしたせいで胸元のレースがほつれてしまっていた。
「あの……リリアンお嬢様、ウェディングドレスの留め具が閉まらないのですが……」
「なっ……お前は私が太ってるっていうの!?」
「い、いえ! そういうわけでは……」
実際リリアンは太った。
それは妊娠したからというのももちろんあるが、食事以外はオズワルドとずっとベッドの上で怠惰な生活をしているというのが一番の原因。
それに加えてこのドレスは日々侍女として忙しく働くマリアベル用にサイズ直しをされたもので、ウエストのサイズがかなり小さいのである。
だから妊娠前でもリリアンはギリギリ留め具が閉まるかどうかで、今では着る事自体が困難。
「コルセットをもっと閉めて!」
「そ、それは出来ません、リリアンお嬢様のお腹の中には大事なお子様がいらっしゃるんですよ?」
「は? そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 今日は大事な結婚式なの……! ドレスが入らないんじゃどうしようもないじゃないっ!」
幸せの絶頂。
今日は大事な結婚式、ウェディングドレスの予備など存在する筈はない。
だから何がなんでもリリアンは、このサイズの小さなドレスを着なければいけない。
コルセットをメイド二人がかりでキツく閉めて、どうにか留め具を一つ一つ力ずくで閉めていく。
だがどうメイド達が頑張っても、下半分までしか閉まらない留め具。
そして悲鳴をあげるウェディングドレスに、これ以上はもうどうしようも出来ないとメイド達は諦めて。
長いヴェールで、後ろの閉まらない留め具をそっと隠した。
純白のウェディングドレス。
その白い色には、ドレスを纏う花嫁の清純さや清楚さ等を表していると言われる。
だが今のリリアンの姿は清純とはどうしても言い難く、はち切れそうなドレスの胸元からは肉が溢れ目のやり場に困るほどで。
まるで酒場にいる娼婦のような花嫁の酷い姿に、ラフォルグ侯爵家の使用人たちは笑いを必死に堪えた。
そしてハインツ子爵家からリリアンの世話の為にやってきた二人のメイドもつい笑いそうになるが、ここで笑ったらクビが飛ぶ。
だから使用人達は必死に笑うのを堪える。
「私の可愛い花嫁リリアン! 結婚式の準備はもうできたかい?」
そんな緊迫?した状況化の中、颯爽とやってきたのはオズワルドで。
「あ、オズワルド様……」
「えっ……ん? あれ?」
そこには飾り立てられた美しい花嫁がいると、オズワルドは信じて疑わなかった。
なのにそこにいたのは、今にもはち切れそうなウェディングドレスを身に纏った酷い姿の花嫁で。
「どうですかオズワルド様? このウェディングドレス、リリアンに似合いますかしら……」
「え、ああ……うん。まあ大丈夫……」
引き攣る表情筋、どうにかオズワルドが絞り出した答えは『大丈夫』の一言のみで。
なにがいったい『大丈夫』なのかとリリアンは、オズワルドを冷たく見返した。
そして二人は笑いを堪える使用人達に見送られて馬車に乗る、けれど車内の空気は最悪。
オズワルドが一切リリアンの事を見ようとはしないのだ、いつもならば『可愛い、可愛い』と褒めてくれるのに。
そんな嫌な沈黙の流れる馬車に乗り、新郎新婦の二人がやってきたのは。
いくら金貨を積んでも借りる事が出来ないとされている、王族専用の教会で。
教会の周囲には沢山の招待客や両親達が新郎新婦の二人の到着を、今か今かと待ち構えていた。
そして馬車から降りるオズワルドとリリアンの所へ、一組の夫婦が駆け寄ってきた。
リリアンはお祝いの言葉をかけられると思い、にっこり可憐に微笑む。
――が。
「オズワルド! お前これはいったいどういうことだ! ちゃんと説明しろ、この馬鹿息子!」
「オズワルド、貴方、誰……その新婦は!? マリアベルさんはどこ……?」
「っ父さん、母さん……いや、これは……その……」
リリアンは招待客達の祝福の歓声に包まれて、馬車から優雅に降りてくる筈だった。
なのに耳に聞こえてきたのはオズワルドとリリアンを責め立てるような声の数々。
だがリリアンがよく話を理解すれば、この二人はラフォルグ侯爵夫妻だとわかり。
「あ、もしかしてお義父様? それにお義母様!? 私、リリアンです! ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません! お祝いに来て下さったのね! リリアン嬉しいー!」
リリアンは人懐っこくラフォルグ侯爵夫妻を、『お義父様』『お義母様』と呼んで挨拶しようとする。
だがラフォルグ侯爵は。
「なんだこの女は!? 初対面なのに馴れ馴れしい! オズワルド、これはどういう事だ!」
「あ……いや、はい」
可愛らしく微笑んで挨拶したリリアンのことを、ラフォルグ侯爵は見ること無く無視をして。
激しい剣幕でオズワルドの胸ぐらを掴み、宙に吊り上げたのだった。
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