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18 悲しい日
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「マリアベル……なんで逃げるんだよ? ちょっと待てって……」
「それは絶対に無理です……!」
待てと言われましても待つわけがございません、だって私は今クロヴィス様をから必死に逃げているのですから。
急にあの告白が実は本気だったとか言われましても、あれはクロヴィス様の優しい嘘だと私はずっと思ってて。
私の地味な容姿が好みだったとか、綺麗だとかなんとか言われましても?
……混乱するのでございますよ。
なので少々考える時間を頂きたいのに、どうしてクロヴィス様は私を追いかけて来るのでしょう。
「なぁマリアベル……俺のこと男として嫌い?」
そう申されたクロヴィス様は逃げる私の前にサッと先回りして、行く道を塞がれます。
「……全然嫌いじゃないですが!? クロヴィス様の事は素敵だと私は思います……!」
「あ、そうなんだ……?」
「けれど……!」
「けれど?」
「一介の侍女で子爵令嬢の私では、公爵家の嫡男様であるクロヴィス様とは釣り合わないのです」
「君は伯爵令嬢になったよ?」
「まだ正式にはなっておりません、私が侍女をしている事を知った両親が邪魔しておりますので……」
……そう。
大変驚いた事に両親は、私がレオンハルト第一王子殿下の侍女をしている事実を全く知らなかった。
別に私はそれを隠していたわけでもない、手紙でも何度かご報告したはずなのです。
ですが、やはり両親は私に興味が無かったのかそれを知らなかったようで。
両親は私の事を王宮で働くただのメイドだと勘違いして、あの日あっさり絶縁を受け入れたみたいなのです。
けれどフォーレ伯爵家との養子縁組の件で、両親は私が侍女をしている事を知ってしまった。
そして知ってしまった両親は私という存在が惜しくなったのか、それを拒否して国に異議を申し立てたのでございます。
「それは此方でなんとかすると言っただろ? だからマリアベルは何も心配しなくていい」
「ですが……」
「それに俺はお前が子爵の人間でも、伯爵家の人間でも……本当はどちらでもいい。本当に好きなんだマリアベル」
「それは一時の気の迷いでございます。年上の女性に憧れるなんてよくあることでございますよ」
「一時の気の迷い? 俺はもう五年もマリアベルに片想いしてるのに?」
「えっ……五年?」
「……レオンハルトの所に新人侍女としてやってきたお前、たった四つしか歳が変わらないのに所作がすごく綺麗で言葉遣いも丁寧で大人っぽくて……あんなの好きにならない方がおかしいだろ?」
「あのう、クロヴィス様……?」
「だからずっと男として見てもらおうとアピールしてんのに、マリアベルは俺のことガキ扱い。そんでどうにか対等に扱ってもらえるよう友人になっても、やっぱり男としては見てくれない」
「えっ、え?」
「しまいには夜会であのクズ野郎にナンパされて付き合い出すし? なんか婚約するし? 結婚準備するお前楽しそうだし……俺の心はズタボロだった」
「あ……ごめんなさい?」
「でもお前が婚約破棄されて泣いてんの見て……最低だけど嬉しかったんだ。これはチャンスだと思った」
「クロヴィス様……」
「それで勇気振り絞って告白したのにさ? お前全然本気にしてなかったのな!?」
「だって、あり得ないんですもの……クロヴィス様が私を好きになるなんて。それに今も信じられなくて」
「わかった、なら行動で示すわ」
行動で示すとはいったい?
そうお聞きしたかった私の唇は、柔らかな感触で塞がれておりまして。
「ん……」
「っこれで、信じた……?」
「なっ、ここ……外っ……婚約者でもない相手にキスなんて……クロヴィス様!?」
「じゃあ俺と婚約するしかないな?」
悪戯に成功した子どものようににっこり微笑まれますクロヴィス様の頬はほんのりと赤くて、あの告白が本気だったと私はこの時初めて信じました。
「私が信じないからといって……! 馬鹿じゃないですか、貴方はルーホン公爵家の嫡男で悪評でも立ったら……」
「大丈夫大丈夫、マリアベルと噂になれるなんて俺嬉しいから!」
「いやそういう問題では……」
「あはは、やっぱりマリアベルといると楽しい」
クロヴィス様は宰相様の補佐をされるくらい賢い方なのに、時々こうやって悪戯をされる。
そんな所は年相応で可愛らしく、今は好ましいと思う次第で。
「私もクロヴィス様と一緒におりますと楽しいです、それに今日という日は私にとって悲しい日になる予定でしたのに……楽しい日になりました。ありがとうございます」
「……悲しい日?」
「今日は結婚式の予定日だったんです」
「あっ、今日だったか……」
今日はオズワルド様と私の結婚式の予定日で、この日の為に結婚準備をどれだけ頑張ったか。
ただ残念な事に婚約破棄をされてしまったので、一人泣く泣く全てキャンセル。
式場を貸して下さった神父のお爺さんには大変申し訳なく、婚約破棄されたと言い出すのに時間がかかりました。
「ええ。ほら、あちらに見えます教会で結婚式を挙げる予定で」
「マリアベル、あそこの教会は王族しか借りられないぞ?」
「え? 神父のお爺さんが快く貸して下さいましたよ? 『マリアベルちゃんにはいつも世話になってる』って言って頂きまして!」
「え……お爺さん?」
「はい、優しい朗らかな方ですよ」
ただお世話と一概に言いましても貧しい方達への炊き出しのお手伝いや、清掃活動のお手伝いくらいで大したことは出来ておりません。
それにあの教会にお手伝いに行っていますのも、昔家庭教師に来て下さいました先生が未亡人になられて今はあの教会にいらっしゃるのです。
なので昔の恩返しと申しますか、ただの偽善なのですがお手伝いに行っている次第です。
「というか……なんか揉めてない?」
「え、あ……あれはリリアンとオズワルド様?」
……どうしてあの二人があちらに?
「マリアベル……なんで逃げるんだよ? ちょっと待てって……」
「それは絶対に無理です……!」
待てと言われましても待つわけがございません、だって私は今クロヴィス様をから必死に逃げているのですから。
急にあの告白が実は本気だったとか言われましても、あれはクロヴィス様の優しい嘘だと私はずっと思ってて。
私の地味な容姿が好みだったとか、綺麗だとかなんとか言われましても?
……混乱するのでございますよ。
なので少々考える時間を頂きたいのに、どうしてクロヴィス様は私を追いかけて来るのでしょう。
「なぁマリアベル……俺のこと男として嫌い?」
そう申されたクロヴィス様は逃げる私の前にサッと先回りして、行く道を塞がれます。
「……全然嫌いじゃないですが!? クロヴィス様の事は素敵だと私は思います……!」
「あ、そうなんだ……?」
「けれど……!」
「けれど?」
「一介の侍女で子爵令嬢の私では、公爵家の嫡男様であるクロヴィス様とは釣り合わないのです」
「君は伯爵令嬢になったよ?」
「まだ正式にはなっておりません、私が侍女をしている事を知った両親が邪魔しておりますので……」
……そう。
大変驚いた事に両親は、私がレオンハルト第一王子殿下の侍女をしている事実を全く知らなかった。
別に私はそれを隠していたわけでもない、手紙でも何度かご報告したはずなのです。
ですが、やはり両親は私に興味が無かったのかそれを知らなかったようで。
両親は私の事を王宮で働くただのメイドだと勘違いして、あの日あっさり絶縁を受け入れたみたいなのです。
けれどフォーレ伯爵家との養子縁組の件で、両親は私が侍女をしている事を知ってしまった。
そして知ってしまった両親は私という存在が惜しくなったのか、それを拒否して国に異議を申し立てたのでございます。
「それは此方でなんとかすると言っただろ? だからマリアベルは何も心配しなくていい」
「ですが……」
「それに俺はお前が子爵の人間でも、伯爵家の人間でも……本当はどちらでもいい。本当に好きなんだマリアベル」
「それは一時の気の迷いでございます。年上の女性に憧れるなんてよくあることでございますよ」
「一時の気の迷い? 俺はもう五年もマリアベルに片想いしてるのに?」
「えっ……五年?」
「……レオンハルトの所に新人侍女としてやってきたお前、たった四つしか歳が変わらないのに所作がすごく綺麗で言葉遣いも丁寧で大人っぽくて……あんなの好きにならない方がおかしいだろ?」
「あのう、クロヴィス様……?」
「だからずっと男として見てもらおうとアピールしてんのに、マリアベルは俺のことガキ扱い。そんでどうにか対等に扱ってもらえるよう友人になっても、やっぱり男としては見てくれない」
「えっ、え?」
「しまいには夜会であのクズ野郎にナンパされて付き合い出すし? なんか婚約するし? 結婚準備するお前楽しそうだし……俺の心はズタボロだった」
「あ……ごめんなさい?」
「でもお前が婚約破棄されて泣いてんの見て……最低だけど嬉しかったんだ。これはチャンスだと思った」
「クロヴィス様……」
「それで勇気振り絞って告白したのにさ? お前全然本気にしてなかったのな!?」
「だって、あり得ないんですもの……クロヴィス様が私を好きになるなんて。それに今も信じられなくて」
「わかった、なら行動で示すわ」
行動で示すとはいったい?
そうお聞きしたかった私の唇は、柔らかな感触で塞がれておりまして。
「ん……」
「っこれで、信じた……?」
「なっ、ここ……外っ……婚約者でもない相手にキスなんて……クロヴィス様!?」
「じゃあ俺と婚約するしかないな?」
悪戯に成功した子どものようににっこり微笑まれますクロヴィス様の頬はほんのりと赤くて、あの告白が本気だったと私はこの時初めて信じました。
「私が信じないからといって……! 馬鹿じゃないですか、貴方はルーホン公爵家の嫡男で悪評でも立ったら……」
「大丈夫大丈夫、マリアベルと噂になれるなんて俺嬉しいから!」
「いやそういう問題では……」
「あはは、やっぱりマリアベルといると楽しい」
クロヴィス様は宰相様の補佐をされるくらい賢い方なのに、時々こうやって悪戯をされる。
そんな所は年相応で可愛らしく、今は好ましいと思う次第で。
「私もクロヴィス様と一緒におりますと楽しいです、それに今日という日は私にとって悲しい日になる予定でしたのに……楽しい日になりました。ありがとうございます」
「……悲しい日?」
「今日は結婚式の予定日だったんです」
「あっ、今日だったか……」
今日はオズワルド様と私の結婚式の予定日で、この日の為に結婚準備をどれだけ頑張ったか。
ただ残念な事に婚約破棄をされてしまったので、一人泣く泣く全てキャンセル。
式場を貸して下さった神父のお爺さんには大変申し訳なく、婚約破棄されたと言い出すのに時間がかかりました。
「ええ。ほら、あちらに見えます教会で結婚式を挙げる予定で」
「マリアベル、あそこの教会は王族しか借りられないぞ?」
「え? 神父のお爺さんが快く貸して下さいましたよ? 『マリアベルちゃんにはいつも世話になってる』って言って頂きまして!」
「え……お爺さん?」
「はい、優しい朗らかな方ですよ」
ただお世話と一概に言いましても貧しい方達への炊き出しのお手伝いや、清掃活動のお手伝いくらいで大したことは出来ておりません。
それにあの教会にお手伝いに行っていますのも、昔家庭教師に来て下さいました先生が未亡人になられて今はあの教会にいらっしゃるのです。
なので昔の恩返しと申しますか、ただの偽善なのですがお手伝いに行っている次第です。
「というか……なんか揉めてない?」
「え、あ……あれはリリアンとオズワルド様?」
……どうしてあの二人があちらに?
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