妹に婚約者を結婚間近に奪われ(寝取られ)ました。でも奪ってくれたおかげで私はいま幸せです。

千紫万紅

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13 侍女長様の養女

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 侍女長様の養女になる。
  
 その決断を下すまで私はとても悩みました。
 私が養女になる事で、侍女長様にご迷惑をおかけしてしまうのではないか。
 それに伯爵家の養女に私がなるなど、身分不相応なのではないのかと悩んでいました。
 
 ですがそんな時。
『そんな事はない。貴女が私の娘になってくれるなんて、こんなに喜ばしいことはない』
 と侍女長様はおっしゃられ、悩んでいた私の背中をそっと押してくださいました。
 
 その優しい言葉に私マリアベルは、侍女長様の養女になることを決心致しました。
 その願ってもない申し出をありがたくお受けすると、侍女長様にお伝え致しました所。

「まあ……嬉しいわマリアベル、でしたら直ぐに養子縁組の手続きを行いましょう!」

 と申されて、侍女長様はとても喜んで下さいました。
 そして本当に直ぐに、養子縁組の手続きを侍女長様は進めてくださいました。

「養親になる者と養子になる者、双方合意によりこの養子縁組を成立させる」
   
 ――そして私は、マリアベル・フォーレになった。
 フォーレ伯爵家との養子縁組みに伴い、身分も子爵令嬢から伯爵令嬢になり。 
 侍女服も黒と白のお仕着せから、伯爵令嬢の身分に合わせまして華美ではない清楚なドレスを着用する事になりました。

 ですが正直な所。
 ドレスを来て侍女のお仕事をするというのは大変でございまして、元のお仕着せの方が私は都合がよろしいのです。
 侍女長様が毎朝私の部屋にドレス持参で来られまして、それはそれは楽しそうに私の着替えを手伝ってくださるので。
 そんなことは口が裂けても言えない、という現状でして。

 そして養子縁組から十日。
 侍女長様に連れられてやってきましたのは、フォーレ伯爵家のお屋敷。
 どうしてフォーレ伯爵家のお屋敷を訪れたのかと申しますと、多忙の為養子縁組の席に来られなかったフォーレ伯爵と本日初顔合わせをする予定なのでございます。

 ですが、訪れたフォーレ伯爵家は私が想像しておりましたお屋敷よりも何倍も立派で。
 ……私の足は震え出してしまいました。
 
 私が養女に来ましたフォーレ伯爵家という家門は、この国で知らぬ者は一人もいないと言われるほど有名な家門。
 本当に私がこの家の養女になってもよかったのかと、この立派なお屋敷を見てしまいますと不安になってしまいます。

 ……やはり不相応。
 今からでもお断りするべきではないのかと、私が考えておりますと。

「マリアベル、なにをそんなに暗い顔してるんだ? お前ほんと大丈夫か……」

 と言って、私の背中をポンと叩かれましたのは。

「あっ……クロヴィス様……」

「……そんな嫌そうな顔すんなよマリアベル、普通に傷つくから」

「……申し訳、ございません」

 そんなこと言われましても、別にわざと嫌そうな顔をしているわけではございません。
 最近はクロヴィス様の顔を見ますと、ついそうなってしまうだけなのです。

 ……ですがそれもこれも、あんなことをクロヴィス様が突然おっしゃるから。

「あー……それで侍女長、ものは相談なんだけど……俺もフォーレ伯爵とマリアベルの顔合わせに同席していい?」
 
「私が駄目といってもクロヴィス貴方、勝手に同席するつもりでしょう?」

「なんだ、バレましたか? 流石は侍女長」

  
 ――そこへ。

「やあ、こんにちは。君がマリアベルさんだね?」

 エントランスで立ち話をしていた三人の元に。
 朗らかな笑顔を浮かべて、ゆったりとした動作でやってきたのは。

 フォーレ伯爵その人で。 

「お初にお目にかかりますフォーレ伯爵、この度フォーレ伯爵家のご厚意により養女に迎えて頂きましたマリアベルと申します、ご挨拶が遅くなってしまい大変申し訳なく思っております」

 ふわりとドレスのスカートの裾を摘み、そして片足を後ろに引き、膝を曲げて軽やかに微笑む。
 そのカーテシーは教わって直ぐ出来るものではない、長年の積み重ねで完成された完璧なもの。
 
 マリアベルが見せた完璧なカーテシーに、フォーレ伯爵はとても満足そうに微笑む。

「ブリジットには前々から君の話は聞いていたけど、確かに聡明なお嬢さんだ。ブリジットが君を娘に迎えたいと言っていた意味がわかったよ」

「お褒め頂き光栄でございますフォーレ伯爵。これも日頃侍女長様にご教授して頂いた成果でございまして、私一人の力ではなせなかった事にございます」
 
 言葉選びから言葉遣い、所作に至るまで全て完璧で、まだ二十代だとは思えない落ち着いた雰囲気。
 それはフォーレ伯爵が長年こんな娘が欲しいなと思い描いていた、理想の娘そのもので。
 たった一言交わしたその会話だけで、フォーレ伯爵はマリアベルを気に入ったのだった。
 
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