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12 ご冗談を
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「ごきげんよう、お姉様?」
自分の容姿が可愛い、とわかっているからこそ出来る可憐な微笑みを浮かべ。
私を『お姉様』と、嘲笑うような声で呼んだのはやはり妹リリアン。
妹の性格上。
私から奪った幸せを、見せつけるその為だけに顔を見せにくるだろうな。
とは、思っておりました。
ですが王宮にある私の部屋までわざわざやって来るなんて予想外で、驚くと同時に少々戸惑いました。
「えっ、リリアン……どうして王宮に?」
「どうしてって、お姉様の顔を見に来てあげたんじゃない。でも、意外と元気そうね? 残念」
「……リリアン帰って下さい。私は貴女の顔なんてもう二度と見たくありません」
私が元気そうで、リリアンはいったい何がそんなに残念なのでしょう。
私は実の妹にここまで憎まれるような事を、知らない内にしてしまっていたのでしょうか?
「あれ、もしかしてお姉様まだ怒ってるのー? それともまだ私のオズワルド様が好きとかだったりして……あははっ! うける……」
「そんなつまらないことを私におっしゃる為にわざわざ王宮にまでやっていらしたのですかリリアン? ここは貴女のような世間知らずが来ていいような場所ではありません、だから早く家に帰りなさい」
田舎の社交界ならばいざ知らず。
この王宮は、リリアンのような世間知らずが気軽に来てもいいような場所ではありません。
ここは国王陛下や王族の方々が住まわれる特別な場所で、たった一つの不敬で簡単に首が飛んでいってしまいます。
それに飛ぶのが自分の首だけならばまだ全然いい方でございまして、その責は家門にまで及ぶことも。
ですので、貴族教育を殆ど受けていない。
容姿が可愛いだけのリリアンがここに来てはいけないことくらい、お父様もお母様もわかっていらっしゃる筈ですのに。
何故野放しにしていらっしゃるのでしょうか?
もう妹の面倒なんてみたくないのですが。
「なによお姉様の癖に、この私に命令なんかしないで? それに、王宮に来たのはついでよ、つ・い・で! 王都に来たついでに王宮に遊びに来たのよ、もうすぐ私とオズワルド様の結婚式だから」
「結婚式!?」
「それにしても相変わらず地味ねー? そんなんだからオズワルド様に飽きられて捨てられるのよ、お姉様は……」
いくらお腹の中に子どもがいるからといって、婚約期間も何も無しに結婚式?
今のリリアンを見ます限り、侯爵家にお嫁にいくのはどう考えても無謀で。
せめて数年、淑女教育等を行って最低限のマナーや作法を覚えてからではないと侯爵家の家門に泥を塗る事になると私は思うのですが。
よくあのお義母様がそれを許可なさいましたね、やはり子どもがいるからでしょうか……?
「リリアン、貴女結婚式って……」
「フン! 教えてあげなーい、嫉妬に狂って結婚式ぶち壊されたりなんかしたら嫌だもん。それに私達もう他人だし? お姉様、お父様に逆らって絶縁されちゃったんでしょ。ほーんと馬鹿ね」
……馬鹿なのは貴女でしょうリリアン。
貴族としての最低限の礼儀作法も何も出来てない、言葉遣いもまるで幼子のよう。
「もういい加減にして下さい。それに私の事を他人だとおっしゃるなら、私も貴女を他人として扱いますが……リリアンは本当にそれでよろしいんですね?」
「な……なによ、それがどうしたっていうの?」
「……出て行きなさいリリアン・ハインツ、ここは部外者が許可なく立ち入ってもいい場所じゃありません。自らの足で出て行かぬと言うのなら人を呼びます」
「っお姉様なんかが、この私に命令するなんて生意気よ! オズワルド様に捨てられた癖に……地味で役立たずなお姉様の癖にっ……!」
何がそんなに気に入らないのか。
突然怒り出したリリアンに、飛びかかられて髪を鷲掴みされた瞬間。
「おい、この馬鹿、やめろっ……!」
リリアンの細腕を掴み、私から引き離してくれたのはクロヴィス様で。
「あ……クロヴィス様?」
「何やってるんだ、お前マリアベルの妹だろ!? いい加減にしないと衛兵に突き出すぞ」
「あっ……お、お姉様の馬鹿っ! 大キライ!」
クロヴィス様に怒鳴られて。
驚いたのかリリアンは掴まれた手を振りほどき、妊娠中だというのに走って逃げていきます。
……どうしてあんなわがまま放題に育ってしまったのか、残念ながら私にはわかりません。
「お前……それ、大丈夫か?」
クロヴィス様の長い指が、労るように私の頬をそっと優しく撫でる。
その大きな手は少年のものではなく、大人の男性のもので。
「ひゃっ……」
「え!? あ、ごめ……っ」
おかしな声が出ました。
今のは私の声だったのでしょうか。
「い、いえ……大丈夫です。その、助けて頂きありがとうございます。ですがどうしてこちらに……」
「あ……いや、それより頬の傷、大丈夫か……?」
「はい、このくらいでしたら何ら問題ありません。ご心配をおかけしてしまい申し訳ございません」
左頬がピリピリと痛みます。
さっきのでリリアンに引っ掻かれたのでしょう。
「……あのさ、俺じゃダメ?」
「えっと? なにがでしょうか……」
「好きなんだけど、マリアベルのこと」
「はい、私も好きですよ? クロヴィス様の友人になれました事、大変光栄に思っております」
「……マリアベル違うんだ。俺がいま言ったのはそういう意味の好きじゃない」
「え? あ、では……どういった意味で?」
「恋愛対象として、俺はマリアベルの事が好きなんだ。というか大好き、愛してる、結婚したい、お前のこと守りたい、友達なんて本当は嫌だった」
「……クロヴィス様、ご冗談を」
「残念だが、これは冗談じゃない。だから俺の事、友達じゃなくて男として見て欲しい」
……確かにこれは残念です。
だって今の私には、冗談の方がよかったのですから。
「ごきげんよう、お姉様?」
自分の容姿が可愛い、とわかっているからこそ出来る可憐な微笑みを浮かべ。
私を『お姉様』と、嘲笑うような声で呼んだのはやはり妹リリアン。
妹の性格上。
私から奪った幸せを、見せつけるその為だけに顔を見せにくるだろうな。
とは、思っておりました。
ですが王宮にある私の部屋までわざわざやって来るなんて予想外で、驚くと同時に少々戸惑いました。
「えっ、リリアン……どうして王宮に?」
「どうしてって、お姉様の顔を見に来てあげたんじゃない。でも、意外と元気そうね? 残念」
「……リリアン帰って下さい。私は貴女の顔なんてもう二度と見たくありません」
私が元気そうで、リリアンはいったい何がそんなに残念なのでしょう。
私は実の妹にここまで憎まれるような事を、知らない内にしてしまっていたのでしょうか?
「あれ、もしかしてお姉様まだ怒ってるのー? それともまだ私のオズワルド様が好きとかだったりして……あははっ! うける……」
「そんなつまらないことを私におっしゃる為にわざわざ王宮にまでやっていらしたのですかリリアン? ここは貴女のような世間知らずが来ていいような場所ではありません、だから早く家に帰りなさい」
田舎の社交界ならばいざ知らず。
この王宮は、リリアンのような世間知らずが気軽に来てもいいような場所ではありません。
ここは国王陛下や王族の方々が住まわれる特別な場所で、たった一つの不敬で簡単に首が飛んでいってしまいます。
それに飛ぶのが自分の首だけならばまだ全然いい方でございまして、その責は家門にまで及ぶことも。
ですので、貴族教育を殆ど受けていない。
容姿が可愛いだけのリリアンがここに来てはいけないことくらい、お父様もお母様もわかっていらっしゃる筈ですのに。
何故野放しにしていらっしゃるのでしょうか?
もう妹の面倒なんてみたくないのですが。
「なによお姉様の癖に、この私に命令なんかしないで? それに、王宮に来たのはついでよ、つ・い・で! 王都に来たついでに王宮に遊びに来たのよ、もうすぐ私とオズワルド様の結婚式だから」
「結婚式!?」
「それにしても相変わらず地味ねー? そんなんだからオズワルド様に飽きられて捨てられるのよ、お姉様は……」
いくらお腹の中に子どもがいるからといって、婚約期間も何も無しに結婚式?
今のリリアンを見ます限り、侯爵家にお嫁にいくのはどう考えても無謀で。
せめて数年、淑女教育等を行って最低限のマナーや作法を覚えてからではないと侯爵家の家門に泥を塗る事になると私は思うのですが。
よくあのお義母様がそれを許可なさいましたね、やはり子どもがいるからでしょうか……?
「リリアン、貴女結婚式って……」
「フン! 教えてあげなーい、嫉妬に狂って結婚式ぶち壊されたりなんかしたら嫌だもん。それに私達もう他人だし? お姉様、お父様に逆らって絶縁されちゃったんでしょ。ほーんと馬鹿ね」
……馬鹿なのは貴女でしょうリリアン。
貴族としての最低限の礼儀作法も何も出来てない、言葉遣いもまるで幼子のよう。
「もういい加減にして下さい。それに私の事を他人だとおっしゃるなら、私も貴女を他人として扱いますが……リリアンは本当にそれでよろしいんですね?」
「な……なによ、それがどうしたっていうの?」
「……出て行きなさいリリアン・ハインツ、ここは部外者が許可なく立ち入ってもいい場所じゃありません。自らの足で出て行かぬと言うのなら人を呼びます」
「っお姉様なんかが、この私に命令するなんて生意気よ! オズワルド様に捨てられた癖に……地味で役立たずなお姉様の癖にっ……!」
何がそんなに気に入らないのか。
突然怒り出したリリアンに、飛びかかられて髪を鷲掴みされた瞬間。
「おい、この馬鹿、やめろっ……!」
リリアンの細腕を掴み、私から引き離してくれたのはクロヴィス様で。
「あ……クロヴィス様?」
「何やってるんだ、お前マリアベルの妹だろ!? いい加減にしないと衛兵に突き出すぞ」
「あっ……お、お姉様の馬鹿っ! 大キライ!」
クロヴィス様に怒鳴られて。
驚いたのかリリアンは掴まれた手を振りほどき、妊娠中だというのに走って逃げていきます。
……どうしてあんなわがまま放題に育ってしまったのか、残念ながら私にはわかりません。
「お前……それ、大丈夫か?」
クロヴィス様の長い指が、労るように私の頬をそっと優しく撫でる。
その大きな手は少年のものではなく、大人の男性のもので。
「ひゃっ……」
「え!? あ、ごめ……っ」
おかしな声が出ました。
今のは私の声だったのでしょうか。
「い、いえ……大丈夫です。その、助けて頂きありがとうございます。ですがどうしてこちらに……」
「あ……いや、それより頬の傷、大丈夫か……?」
「はい、このくらいでしたら何ら問題ありません。ご心配をおかけしてしまい申し訳ございません」
左頬がピリピリと痛みます。
さっきのでリリアンに引っ掻かれたのでしょう。
「……あのさ、俺じゃダメ?」
「えっと? なにがでしょうか……」
「好きなんだけど、マリアベルのこと」
「はい、私も好きですよ? クロヴィス様の友人になれました事、大変光栄に思っております」
「……マリアベル違うんだ。俺がいま言ったのはそういう意味の好きじゃない」
「え? あ、では……どういった意味で?」
「恋愛対象として、俺はマリアベルの事が好きなんだ。というか大好き、愛してる、結婚したい、お前のこと守りたい、友達なんて本当は嫌だった」
「……クロヴィス様、ご冗談を」
「残念だが、これは冗談じゃない。だから俺の事、友達じゃなくて男として見て欲しい」
……確かにこれは残念です。
だって今の私には、冗談の方がよかったのですから。
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