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4 お給金一ヶ月分のドレス
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と、いうことでございまして。
王宮の侍女になることが出来ました私は、畏れ多くも第一王子殿下の元で働かせて頂ける事になり。
そして気持ちも新たに。
私がこれから誠心誠意お仕えする第一王子殿下がいらっしゃられます銀獅子の宮に、侍女長様にご案内して頂きました。
緊張しつつもやって参りますと。
そこにはまだ十二歳になったばかりの少年とは思えないほど大変聡明で、王族としての気品や威厳に満ち溢れたレオンハルト王子殿下が側近の方達といらっしゃられまして。
「君が私の新しい侍女?」
と、初めてお声を掛けて頂き。
「はい、ハインツ子爵家の長女マリアベルでございます。これから誠心誠意、この命が続く限り忠誠を誓いレオンハルト第一王子殿下にお仕えさせて頂きたく存じます」
「よろしくねマリアベル、でもここではあまり緊張せずのんびりしていていいんだよ? 私はあまり、堅苦しいのが好きじゃないんだ」
「はい、かしこまりました。レオンハルト王子殿下の仰せのままに」
「うん、まあ……気楽にやってね?」
「はい!」
初めてお会いしたレオンハルト第一王子殿下はまだ幼くていらっしゃるのに、下の者にも気さくに声をお掛けになるという慈悲深い方で。
この素晴らしき主に一生付いていこうと、この日私は胸に誓いました。
それからレオンハルト王子殿下の侍女として働かせて頂ける毎日は新鮮で楽しく、それでいて学ぶことも多く大変有意義で。
あっという間に、三年という月日が過ぎ去っていきました。
その三年の間で同僚の侍女達とも大変仲良くなり、レオンハルト第一王子殿下の側近の方達にもこの地味顔を覚えて頂きました。
この広い王宮で私は素晴らしい主や上司、優しい同僚に囲まれて充実した日々を過ごさせて頂きました。
そして狭い子爵家での憂鬱とした日々が、遠い昔のことに感じられるようになった頃。
――私はオズワルド様に出会ったのです。
それは我が主レオンハルト第一王子殿下と、エリザベス公爵令嬢との婚約発表の夜会。
齢十五歳になられましたレオンハルト王子殿下は、私がお仕えさせて頂きました二年前よりさらに一層お顔立ちが凛々しくご成長なさり。
王国一の美少女だと、有名なエリザベス公爵令嬢の隣に立たれましても全く引けをとられません。
いやいやそれ所か。
お似合いだという言葉が正にこのお二人方の為にあるものではないかと考えてしまうくらい、それはそれはお似合いのお二人で……!
この婚約発表の特別な夜会に、参加させて頂き立ち会う事が出来た喜びに、私が感動し涙ぐんでおりますと。
――パシャ。
「あっ……」
「え?」
よそ見でもしていらしたのか、私のドレスにオズワルド様が赤ワインを溢されてしまいました。
芳醇な香りの赤ワインがポタポタと滴る、私のドレスが完成した次第で。
「す、すまない!」
「あ、いえいえ……お気に為さらず」
オズワルド様は慌てて私のドレスをハンカチで拭われますが、赤いワインの染みはドレスの裾に広がっていくばかり。
侍女のお給金をはたいて買った一張羅のドレスは、見るも無惨な状態に。
「本当にすまない。君がいるのに気がついていなかった……美しいドレスなのに、駄目にしてしまったな」
「いえ、安物のドレスですので……」
私のお給金一ヶ月分。
レオンハルト王子殿下に恥はかかせられないと、一大決心をして買ったドレス。
でもこれはただの既製品。
この夜会に参加されているご令嬢達の豪華なオーダーメードのドレスに比べれば、これは安物のドレス。
「何を言う! とても美しいドレスじゃないか。それに君によく似合っている」
「え? あ、ありがとうございます……」
「……このドレスを元に戻せればいいが、たぶん出来そうにない。だから……代わりと言ってはなんだが新しいドレスを君に贈らせては貰えないだろうか?」
「え!? いえ、そんな事をして頂かなくても大丈夫……」
そして私がお断りをしようと致しますと。
「大丈夫なんかじゃない、それに私が君にドレスを贈りたいんだ! これはもちろんドレスを駄目にしてしまった詫びの意味もあるが、可愛い君とお近づきになりたくてね?」
「え……?」
「是非貴女の名前を私に教えてはくれないだろうか? 可愛い人」
誰かに『可愛い』と言われたのは、この時が生まれて初めての事。
ただのお世辞だろうとは私も思いましたが、それでもとても嬉しかった事を今でも覚えております。
そしてオズワルド様と私は、この夜会で出会ってしまったのです。
まあ、今にして思いますと?
これはナンパというヤツ、だったのかもしれません。
と、いうことでございまして。
王宮の侍女になることが出来ました私は、畏れ多くも第一王子殿下の元で働かせて頂ける事になり。
そして気持ちも新たに。
私がこれから誠心誠意お仕えする第一王子殿下がいらっしゃられます銀獅子の宮に、侍女長様にご案内して頂きました。
緊張しつつもやって参りますと。
そこにはまだ十二歳になったばかりの少年とは思えないほど大変聡明で、王族としての気品や威厳に満ち溢れたレオンハルト王子殿下が側近の方達といらっしゃられまして。
「君が私の新しい侍女?」
と、初めてお声を掛けて頂き。
「はい、ハインツ子爵家の長女マリアベルでございます。これから誠心誠意、この命が続く限り忠誠を誓いレオンハルト第一王子殿下にお仕えさせて頂きたく存じます」
「よろしくねマリアベル、でもここではあまり緊張せずのんびりしていていいんだよ? 私はあまり、堅苦しいのが好きじゃないんだ」
「はい、かしこまりました。レオンハルト王子殿下の仰せのままに」
「うん、まあ……気楽にやってね?」
「はい!」
初めてお会いしたレオンハルト第一王子殿下はまだ幼くていらっしゃるのに、下の者にも気さくに声をお掛けになるという慈悲深い方で。
この素晴らしき主に一生付いていこうと、この日私は胸に誓いました。
それからレオンハルト王子殿下の侍女として働かせて頂ける毎日は新鮮で楽しく、それでいて学ぶことも多く大変有意義で。
あっという間に、三年という月日が過ぎ去っていきました。
その三年の間で同僚の侍女達とも大変仲良くなり、レオンハルト第一王子殿下の側近の方達にもこの地味顔を覚えて頂きました。
この広い王宮で私は素晴らしい主や上司、優しい同僚に囲まれて充実した日々を過ごさせて頂きました。
そして狭い子爵家での憂鬱とした日々が、遠い昔のことに感じられるようになった頃。
――私はオズワルド様に出会ったのです。
それは我が主レオンハルト第一王子殿下と、エリザベス公爵令嬢との婚約発表の夜会。
齢十五歳になられましたレオンハルト王子殿下は、私がお仕えさせて頂きました二年前よりさらに一層お顔立ちが凛々しくご成長なさり。
王国一の美少女だと、有名なエリザベス公爵令嬢の隣に立たれましても全く引けをとられません。
いやいやそれ所か。
お似合いだという言葉が正にこのお二人方の為にあるものではないかと考えてしまうくらい、それはそれはお似合いのお二人で……!
この婚約発表の特別な夜会に、参加させて頂き立ち会う事が出来た喜びに、私が感動し涙ぐんでおりますと。
――パシャ。
「あっ……」
「え?」
よそ見でもしていらしたのか、私のドレスにオズワルド様が赤ワインを溢されてしまいました。
芳醇な香りの赤ワインがポタポタと滴る、私のドレスが完成した次第で。
「す、すまない!」
「あ、いえいえ……お気に為さらず」
オズワルド様は慌てて私のドレスをハンカチで拭われますが、赤いワインの染みはドレスの裾に広がっていくばかり。
侍女のお給金をはたいて買った一張羅のドレスは、見るも無惨な状態に。
「本当にすまない。君がいるのに気がついていなかった……美しいドレスなのに、駄目にしてしまったな」
「いえ、安物のドレスですので……」
私のお給金一ヶ月分。
レオンハルト王子殿下に恥はかかせられないと、一大決心をして買ったドレス。
でもこれはただの既製品。
この夜会に参加されているご令嬢達の豪華なオーダーメードのドレスに比べれば、これは安物のドレス。
「何を言う! とても美しいドレスじゃないか。それに君によく似合っている」
「え? あ、ありがとうございます……」
「……このドレスを元に戻せればいいが、たぶん出来そうにない。だから……代わりと言ってはなんだが新しいドレスを君に贈らせては貰えないだろうか?」
「え!? いえ、そんな事をして頂かなくても大丈夫……」
そして私がお断りをしようと致しますと。
「大丈夫なんかじゃない、それに私が君にドレスを贈りたいんだ! これはもちろんドレスを駄目にしてしまった詫びの意味もあるが、可愛い君とお近づきになりたくてね?」
「え……?」
「是非貴女の名前を私に教えてはくれないだろうか? 可愛い人」
誰かに『可愛い』と言われたのは、この時が生まれて初めての事。
ただのお世辞だろうとは私も思いましたが、それでもとても嬉しかった事を今でも覚えております。
そしてオズワルド様と私は、この夜会で出会ってしまったのです。
まあ、今にして思いますと?
これはナンパというヤツ、だったのかもしれません。
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