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1 一方的に告げられた別れ
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私はマリアベル・ハインツ。
この国の第一王子レオンハルト殿下の侍女をさせて頂いております、どこにでもいるような地味顔の二十三歳子爵令嬢でございます。
ただ地味顔とは一言に言いましても、私は決して不細工というわけではありません。
灰を被ったような銀髪に、切れ長な瞳という平凡な容姿なだけなのです。
なのでほんのちょっとばかり地味な容姿の私ですが、これでもそれなりにモテちゃったりするのでございます。
そう!
恋人に熱烈なプロポーズをされて、婚約をしてしまうく・ら・い・には!
……というわけで、私には素敵な婚約者がおります。
それは親が自分達の利益の為に決めた、いわゆる政略結婚の相手などではなく。
自分達自身が数多くの男女の中から選んで決めた、生涯の伴侶。
そうなのです。
私マリアベルは、この貴族社会では大変珍しい恋愛結婚をもうすぐする予定でして。
そしてあと三ヶ月もすれば、待ちに待った結婚式なわけで。
私マリアベルは仕事と結婚準備でそれはもう毎日忙しく、けれど充実した毎日を送っておりました。
そんな待望の結婚式まであと三ヶ月という所に押し迫った、とある日の穏やかな昼下がり。
いつものように慌ただしく侍女の皆と仕事をしておりますと、婚約者からの突然の呼び出し。
お付き合いを始めてからこれまで、勤務時間中の私の所へ婚約者が訪ねていらっしゃった事など一度もなくて。
いったいどうされたのだろうかと、侍女仲間に残りの仕事をお任せして急いで向かいますと。
そこには私の婚約者で、もうすぐ夫になられます侯爵家嫡男オズワルド様の姿が。
「ごきげんようオズワルド様。貴方にお会い出来てマリアベルはとても嬉しいですわ。ですが……どうされたのです? わざわざ王宮まで足を運ばれるだなんて、なにか私に火急の要件でございますか?」
「あ……マリアベル、その、すまない……」
……突然の謝罪。
何か思い詰めた様な難しい顔でオズワルド様は、前置きもなく突然私に謝罪。
その様子に私は驚き。
「あの、突然どうされたのですかオズワルド様……何かありましたか?」
そう私がオズワルド様にお聞き致しますと。
「……君とは結婚することが出来なくなってしまった。だから私とは別れてくれ」
「結婚、出来なくなった?」
はて?
私とは結婚出来なくなった……?
それはどういう……?
「私はリリアンと……君の妹と結婚することにした」
「え……は? リ、リアン? 私の妹と、結婚? それはいったいどういう……」
『リリアンと結婚する』
オズワルド様が何をおっしゃっていらっしゃるのか、私には到底理解が出来ない。
だってオズワルド様と私は、三か月後に王都にある教会で結婚式を挙げる予定で。
それなのに私の妹とオズワルド様が結婚する?
それって、つまり。
「リリアンのお腹の中には今、私の子がいるんだ。だからマリアベル、ここは大人しく引き下がってはくれないだろうか?」
「は!? リリアンのお腹の中に、オズワルド様の赤ちゃんがいらっしゃる……?」
「ああ、そうだ」
「え、それちょっと待ってくださいまし! それは、いつの間にです!?」
「いや、それは……」
「それにオズワルド様と私はまだ、軽いキスしかしたことありませんのに? いやそもそも、いつの間に2人は会っていらしたんですか?」
妹のいる実家の子爵家と、オズワルド様や私がいるこの王都は馬車で片道二日の距離で。
気軽に行き来出来るような距離では決してない。
「それは、その……だな……」
私の質問にオズワルド様は終始しどろもどろで、なかなかに要領を得ない。
それに。
『結婚出来ない、別れてくれ』なんて、そんなこと急に言われましても。
私達はお互いの上司や友人、親戚等にも結婚をすると報告済み。
それに式場も先日決まりましたし、ウェディングドレスも出来上がってきています。
それに招待状も招待客の皆様に既に送ってしまっていて、あとは三ヶ月後に式を挙げるだけの状態。
今さらそんなこと言われましても、ハイソウデスカなんて簡単に言えるわけがありません。
――そこへ。
「マリアベルお姉様、ごめんなさい……! 私がオズワルド様を好きになってしまったの! だからオズワルド様を責めないであげて? 彼は私とお腹の子の事を思って……」
……と言って。
実家にいるはずの妹リリアンが、オズワルド様と私の前に突然現れた。
「リリアン、どうして君がここに……? マリアベルと話すのは私一人で大丈夫だと言っただろう。君は家でゆっくりしていないと駄目じゃないか」
「その、ごめんなさいオズワルド様! 貴方の事が私、とても心配で……」
そしてリリアンは、肩を震わせて大粒の涙をポロポロと流す。
そんなリリアンの姿に。
「リリアン! 君はなんて優しくて健気な子なんだ……! 大丈夫、君と腹の子は私が絶対に守ってみせる。だから泣かないでくれ」
「オズワルド様っ……」
勤務中の私を突然呼び出して。
別れを一方的に告げてきたオズワルド様は、私に対して終始冷たい態度。
なのに突然現れたリリアンには優しくて、心臓が握り潰されるように苦しくなった。
そしてオズワルド様は私の心を踏みにじるように、私の目の前でリリアンを優しく抱き締めた。
「君には悪いことをしてしまったと思っている、だがリリアンは妊娠中で今はとても大事な時期なんだ、虐めないでやって欲しい」
「私はこのくらい大丈夫ですわオズワルド様、ほんと心配性なのだから……!」
もうここは2人だけの世界だとでも言うように、オズワルドとリリアンは幸せそうに見つめ合う。
婚約者であるマリアベルの目の前で。
そしてオズワルドは。
「それに先程も言ったと思うが、こうなってしまった責任は全てこの私にある、だから責めるなら私を責めてくれないだろうかマリアベル?」
私はまだ何も碌に発言しておりません。
オズワルド様にほんの少し事情を伺っただけ。
なのになぜ私が、オズワルド様とリリアンを責め立てた事になってしまっているのでしょうか。
「どうして……どうしてですかオズワルド様? 愛していると、永遠の愛を誓うと、あの日私にプロポーズしてくださいましたのに! あれは嘘だったのですか!?」
「私は真実の愛を知ってしまった。リリアンのように愛しいと思う女性がこの世界にいるなんて、私は彼女に出会うまで知らなかった。だから私は……本当に愛するリリアンと結婚する。マリアベル、君とは結婚出来ない」
と、オズワルド様は私に告げられました。
……はい、そうですね。
つまり私は、婚約者を妹に奪われてしまったみたいです。
私はマリアベル・ハインツ。
この国の第一王子レオンハルト殿下の侍女をさせて頂いております、どこにでもいるような地味顔の二十三歳子爵令嬢でございます。
ただ地味顔とは一言に言いましても、私は決して不細工というわけではありません。
灰を被ったような銀髪に、切れ長な瞳という平凡な容姿なだけなのです。
なのでほんのちょっとばかり地味な容姿の私ですが、これでもそれなりにモテちゃったりするのでございます。
そう!
恋人に熱烈なプロポーズをされて、婚約をしてしまうく・ら・い・には!
……というわけで、私には素敵な婚約者がおります。
それは親が自分達の利益の為に決めた、いわゆる政略結婚の相手などではなく。
自分達自身が数多くの男女の中から選んで決めた、生涯の伴侶。
そうなのです。
私マリアベルは、この貴族社会では大変珍しい恋愛結婚をもうすぐする予定でして。
そしてあと三ヶ月もすれば、待ちに待った結婚式なわけで。
私マリアベルは仕事と結婚準備でそれはもう毎日忙しく、けれど充実した毎日を送っておりました。
そんな待望の結婚式まであと三ヶ月という所に押し迫った、とある日の穏やかな昼下がり。
いつものように慌ただしく侍女の皆と仕事をしておりますと、婚約者からの突然の呼び出し。
お付き合いを始めてからこれまで、勤務時間中の私の所へ婚約者が訪ねていらっしゃった事など一度もなくて。
いったいどうされたのだろうかと、侍女仲間に残りの仕事をお任せして急いで向かいますと。
そこには私の婚約者で、もうすぐ夫になられます侯爵家嫡男オズワルド様の姿が。
「ごきげんようオズワルド様。貴方にお会い出来てマリアベルはとても嬉しいですわ。ですが……どうされたのです? わざわざ王宮まで足を運ばれるだなんて、なにか私に火急の要件でございますか?」
「あ……マリアベル、その、すまない……」
……突然の謝罪。
何か思い詰めた様な難しい顔でオズワルド様は、前置きもなく突然私に謝罪。
その様子に私は驚き。
「あの、突然どうされたのですかオズワルド様……何かありましたか?」
そう私がオズワルド様にお聞き致しますと。
「……君とは結婚することが出来なくなってしまった。だから私とは別れてくれ」
「結婚、出来なくなった?」
はて?
私とは結婚出来なくなった……?
それはどういう……?
「私はリリアンと……君の妹と結婚することにした」
「え……は? リ、リアン? 私の妹と、結婚? それはいったいどういう……」
『リリアンと結婚する』
オズワルド様が何をおっしゃっていらっしゃるのか、私には到底理解が出来ない。
だってオズワルド様と私は、三か月後に王都にある教会で結婚式を挙げる予定で。
それなのに私の妹とオズワルド様が結婚する?
それって、つまり。
「リリアンのお腹の中には今、私の子がいるんだ。だからマリアベル、ここは大人しく引き下がってはくれないだろうか?」
「は!? リリアンのお腹の中に、オズワルド様の赤ちゃんがいらっしゃる……?」
「ああ、そうだ」
「え、それちょっと待ってくださいまし! それは、いつの間にです!?」
「いや、それは……」
「それにオズワルド様と私はまだ、軽いキスしかしたことありませんのに? いやそもそも、いつの間に2人は会っていらしたんですか?」
妹のいる実家の子爵家と、オズワルド様や私がいるこの王都は馬車で片道二日の距離で。
気軽に行き来出来るような距離では決してない。
「それは、その……だな……」
私の質問にオズワルド様は終始しどろもどろで、なかなかに要領を得ない。
それに。
『結婚出来ない、別れてくれ』なんて、そんなこと急に言われましても。
私達はお互いの上司や友人、親戚等にも結婚をすると報告済み。
それに式場も先日決まりましたし、ウェディングドレスも出来上がってきています。
それに招待状も招待客の皆様に既に送ってしまっていて、あとは三ヶ月後に式を挙げるだけの状態。
今さらそんなこと言われましても、ハイソウデスカなんて簡単に言えるわけがありません。
――そこへ。
「マリアベルお姉様、ごめんなさい……! 私がオズワルド様を好きになってしまったの! だからオズワルド様を責めないであげて? 彼は私とお腹の子の事を思って……」
……と言って。
実家にいるはずの妹リリアンが、オズワルド様と私の前に突然現れた。
「リリアン、どうして君がここに……? マリアベルと話すのは私一人で大丈夫だと言っただろう。君は家でゆっくりしていないと駄目じゃないか」
「その、ごめんなさいオズワルド様! 貴方の事が私、とても心配で……」
そしてリリアンは、肩を震わせて大粒の涙をポロポロと流す。
そんなリリアンの姿に。
「リリアン! 君はなんて優しくて健気な子なんだ……! 大丈夫、君と腹の子は私が絶対に守ってみせる。だから泣かないでくれ」
「オズワルド様っ……」
勤務中の私を突然呼び出して。
別れを一方的に告げてきたオズワルド様は、私に対して終始冷たい態度。
なのに突然現れたリリアンには優しくて、心臓が握り潰されるように苦しくなった。
そしてオズワルド様は私の心を踏みにじるように、私の目の前でリリアンを優しく抱き締めた。
「君には悪いことをしてしまったと思っている、だがリリアンは妊娠中で今はとても大事な時期なんだ、虐めないでやって欲しい」
「私はこのくらい大丈夫ですわオズワルド様、ほんと心配性なのだから……!」
もうここは2人だけの世界だとでも言うように、オズワルドとリリアンは幸せそうに見つめ合う。
婚約者であるマリアベルの目の前で。
そしてオズワルドは。
「それに先程も言ったと思うが、こうなってしまった責任は全てこの私にある、だから責めるなら私を責めてくれないだろうかマリアベル?」
私はまだ何も碌に発言しておりません。
オズワルド様にほんの少し事情を伺っただけ。
なのになぜ私が、オズワルド様とリリアンを責め立てた事になってしまっているのでしょうか。
「どうして……どうしてですかオズワルド様? 愛していると、永遠の愛を誓うと、あの日私にプロポーズしてくださいましたのに! あれは嘘だったのですか!?」
「私は真実の愛を知ってしまった。リリアンのように愛しいと思う女性がこの世界にいるなんて、私は彼女に出会うまで知らなかった。だから私は……本当に愛するリリアンと結婚する。マリアベル、君とは結婚出来ない」
と、オズワルド様は私に告げられました。
……はい、そうですね。
つまり私は、婚約者を妹に奪われてしまったみたいです。
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