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「その魔力を吸収するという魔法は扱える人間がほとんどいない、とても稀少なものなんだよ? 国に1人扱えるものが出たら万々歳で、水を操る魔法や治癒の魔法なんかとはくらべものにならないくらい難しいものなんだ」

「え? そんなの嘘です……だって……! これは役に立たない魔法だって……みんな」

 初歩の初歩である水を虚空から出して操る魔法。

 その初歩すら満足に出来ないにも拘わらず、出来損ないの私が使える唯一の魔法。

 それは自分以外の魔力が見えて、なんとなく邪魔そうに思えたから取ってあげた。

 ただそれだけで。

 自分自身魔法を使ったという自覚さえ最初はなく、それは何の役にも立たない魔法で。

 貴族令嬢には無用の長物な魔法のはず。

「……本来その魔法が扱えるとわかった時点で、国に報告されて君は国家をあげて厳重に守られるはずなのに。『役に立たない』ってそれ……に言われたの?」

「お父様と、マルタン公爵家の公爵様です。何の役にも立たないと……水を出す初歩の魔法も使えず、そんな役に立たない魔法だけが使えるなんて恥ずかしいから、絶対に誰にも見せるなって……」

「……あの公爵! アンジェリークを騙して隠してやがったな……?」

「えっ……か、カシウス様……?」

「えっ……あー……ごめん! ちょっとマルタン公爵に腹が立ってね? でもアンジェリーク、君は何も心配しなくていいんだよ? 全部この私が、君が望むようにしてあげるからね!」

 カシウス様が粗野な言葉遣いをなさるなんて、余程公爵様に怒っていらっしゃるご様子です。

「あ、はい……?」

「でもそれ今は横に置いといて、続き……しようね? アンジェリーク」

 するりと、カシウス様は私の頬を撫でられます。

 そんなカシウス様はとても優しく微笑まれて、神々しく黄金に輝くお髪がさらりと揺れて。

 ああ……眼福の極みっ……!

「え、続きって……おっしゃられますと?」

 ですが。

 続きって……続きって……?

「残念なんだけどアンジェリークに私が本気だってまだわかって貰えていないみたいだし、最後までするつもりはなかったんだけど……仕方ないよね?」

「だ、だめです! いけませんカシウス様! ……これ以上のお戯れは……それに私には婚約者がいます……」

 ついそのご尊顔に見惚れてしまい、カシウス様のお戯れのお相手をしそうになってしまいましたが。

 一度ならず二度までも、その過ちは犯せません。

 本当は……触れて欲しくても。

 私は公爵家に、オーギュスト様に嫁ぐ身だから。

「……戯れで、私が君に触れているとまだアンジェリークは思ってたんだ? それにか……そんなにオーギュストが……好き?」

「オーギュスト様の事を私が好きかどうかはそんなのは関係なくて、さっき言いました通り来月結婚する予定ですので、……あ、カシウス様!?」

 私を見下ろし微笑んでいたカシウス様の青い瞳が暗く濁ったような錯覚を覚えてゾクリとした。

 それにまたカシウスの目が笑ってなくて。

 でもそんな表情も素敵で。

 もっと濁らせたいと思ってしまう。

「……まだ他の男と結婚させて貰えると思ってたんだ? アンジェリークは馬鹿だなぁ……君はもう私から逃げられないのにね?」

「え、あの……カシウス様……?」

「ねぇアンジェリーク、私と可愛い赤ちゃん作ろうか? そうしたらもう他の男の所にお嫁になんて……絶対にいけないからね?」

「へ!? あ……赤ちゃん……!?」

 もしや私を、カシウス様は。

 にされるおつもりでしょうか!?

 たった一度の過ちでそんな公妾様なんて厚待遇を、出来損ないの私に与えようとするだなんて。

 カシウス様って責任感の強い方、なんだな。

 ただのお戯れで済ませばいいのに。

「だから、続き……ね?」

「カシウス様……」

「アンジェリーク、愛しているよ」

 カシウス様にそっと落とされる優しく蕩けるような甘い甘い口づけに、胸がざわめいた。

 偽りの『愛してる』なんかじゃなく。

 本当の『愛してる』が欲しい。

 本当にこの人のになりたい。

 どうしたら私はカシウス様の特別になれる?

 
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