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19 見つけた カシウス視点
しおりを挟む「……忍び込むって、どうやって?」
「このまま帰たったフリして馬車を降りる、あとは隠れて動くだけ? 私、隠れるの上手いよ?」
「……そんなん知ってるわ! 俺達近衛騎士からも隠れて一人好き勝手やってるもんな!? お前さ、皇太子の自覚ある?」
皇太子の側近そして幼馴染みであるライアスは、護衛の騎士としていつもカシウスの側にいる。
だが、よくこの皇太子カシウスに撒かれている。
カシウスは皇太子の癖に、その溢れ出す高貴な存在感を消し人から隠れるのがとても上手い。
だからあの月の無い夜も。
媚を売り纏わりついてくる面倒な令嬢達や護衛の騎士から逃げてアンジェリークと出会い、一夜の過ちをカシウスはしてしまったわけで。
「だからライアス、外で待ってて? ちょと見てくるから……」
「は……!? 俺も行くに決まってんだろ!」
そしてカシウスとライアスの二人は、レニエ伯爵家の屋敷を見て回る。
カシウス一人なら屋敷内を動き回っても見つからない自信があるが、ライアスも一緒なのでとりあえず外周を見て回る事にした。
「んー……やっぱり屋敷の中に入らないとダメかな? でもライアスが一緒にいると中は使用人に見つかりそうなんだよね……」
「なに、俺……邪魔!? というかカシウスお前、隠れて侵入するの手慣れ過ぎだろ……皇太子なんかより暗殺者に向いてると思う」
「あはは、お褒めいただきありがとう!」
「……褒めてないぞー?」
無駄に広い敷地に爵位に見合っていないレニエ伯爵家の豪邸の外周を、どうしたものかと眺め二人が歩いていると。
屋敷の裏手に古めかしい小さな平屋があった。
あまり手入れされていないと一目見てわかるその平屋の壁には蔦が絡まり、そこだけが異質だった。
「使用人小屋か……?」
「かもな? でも、こんな豪邸の裏に……?」
カシウスとライアスの二人が、訝しげにその古めかしい平屋を観察していると。
「え……? カシウス様?」
女の子の声、それは聞き覚えのある声で。
その声の聞こえた方にカシウスが視線を向ければ。
「え……あ、君……!?」
「っあ」
目が合ってしまった探し求めていた少女は一歩後退り、くるりと踵を返して。
その場から逃げた。
「待って……!」
カシウスはその後ろを追いかける。
やっと見つけた。
そして少女か逃げた先は、テラス。
少女が慌てて出入り口の扉を閉めようとするが、それを閉め終わる前に扉を掴みどうにかカシウスは阻止した。
「あのっ……離して下さい……」
青ざめた顔でそれでも扉を少女は閉めようとしてくるが、その程度の力ではびくともしない。
どうしてそんなに必死に自分から逃げようとするのか、カシウスはわかりたくない。
「逃げないで、アンジェリーク……?」
「私の名前……どうして……」
「……君に、会いに来たから」
「え……と……?」
「どうして逃げた? 本当は……嫌だった?」
あの夜、嫌だとは言わなかった。
けど彼女は酒に酔っていて正常な判断が出来なかった、それに漬け込んだ自覚が自分にはある。
「あ、いやそれは……」
伏せられた瞼、曇る表情に。
酒に酔った彼女を凌辱してしまったという罪悪感が、沸き上がった。
きっと、この想いは彼女にとっては迷惑以外の何ものでもないのだろう。
でも。
「……まあ君が嫌でも? 一緒に城に来てもらうよ、もう逃がさない、やっと見つけたんだ」
「……い、嫌です! 私……行けません!」
「……どうして?」
「私、明日……こ、婚約者のお屋敷に行くのです……来月結婚するので……! あ、お嫁にいくので……!」
婚約者……他の男になんて渡さない。
たとえ相手の男を君が愛していたとしても。
「……行かせない、君は私のモノだ。君に選択の自由はもうないんだよ?」
「え……?」
もう逃がさない。
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