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48 他所でやれ
しおりを挟む妻を泣かせるという醜態を、その妻の家族であるヴァロア男爵家一同に目撃されて、恥ずかしさに悶えたラファエル公爵。
そして必死に慰めようと奮闘するラファエル公爵を横目に、思う存分に泣きじゃくって満足したアイリス。
そんな二人は今、ヴァロア男爵家の前で地味な攻防を繰り広げていた。
「アイリス、私と一緒に屋敷に帰ろう?」
「絶対に嫌です! ラファエル様なんて一人で寂しく帰ればいいんですっ……私は本気で怒ってたのに笑うなんて!」
「……本当にすまなかった! 怒る君が可愛い過ぎて、つい……な?」
という犬も食わない痴話喧嘩。
端からみればそれは仲の良い恋人同士が、いちゃいちゃしてるようにしか見えない。
だからこんなところ玄関前で戯れてないで、自分達の屋敷に帰ってしろとヴァロア男爵家の人々は思った。
……でも、アイリスの今生の両親であるヴァロア男爵夫妻や、姉のアナイスはそんな二人を見てとても安心した。
いつもひとり部屋に閉じ籠ってばかりいて、家族とも録に会話すらしなかったアイリス。
そんな子を男爵家の領地が財政難だからといって、資金援助に釣られ恋人のいる男と結婚させてしまった。
それにアイリスはこの当時、デビュタントを迎えたばかりのまだ十五歳の子どもで。
そんな子を夫となる男に愛される事はないし、不幸になる可能性の方が高いとわかっていながら売るようにしてフォンテーヌ公爵家に嫁がせた事をヴァロア男爵夫妻は悔やんでいた。
なのにアイリスは、夫となったラファエル・フォンテーヌ公爵と喧嘩しているように見えて、幸せそうに笑っているから。
ヴァロア男爵夫妻はそんなアイリスとラファエル公爵の二人をみて、安心することが初めて出来た。
……ただやっぱり。
いちゃいちゃするなら屋敷に帰ってからやれよと、未だにヴァロア男爵家の前で言い合いを繰り返す二人を溜め息混じりにアイリスの家族は眺めた。
軋むフォンテーヌ公爵家の豪華な馬車の中で、対面に座り見つめ合う二人は現在戦っていた。
「……アイリス? 一人で馬車の固い座席に腰かけるのは君には辛いのだろう? ほら私の所においで」
と言ってラファエル公爵は、自身の膝をポンポンと叩いてアイリスを手招きする。
そんなラファエル公爵にアイリスは。
「嫌です、私なんて本当はいなくてもラファエル様は気にもならないくせに……!」
……私はまだ怒っている、別に会いに来てくれなくて寂しかったわけじゃないけど?
一日や二日じゃなくて十日も私の事を放ったらかしにしてた癖に、何を今さらこの男は言うのか!
だから絶対にそのお膝になど乗らない!
嫌だとラファエル公爵に言うアイリスは、子猫が尻尾を素早くパタパタと動かして『私は怒っているんだぞ!』と、飼い主にアピールするようにわかりやすく拗ねていた。
だからラファエル公爵は走る馬車の中で、アイリスの隣の席に移動してゆっくりと腰をかけた。
「アイリス、私は君がいなくてとても寂しかったよ? 色々と片付けることがあって、迎えに来るのが遅れてしまったんだ」
……本当はもうその身体に勝手に触れたりを強要するつもりは無かったが、ちらちらとラファエル公爵の様子を窺うように、視線を向けてきて構って欲しそうにするから。
軽々とアイリスの身体をラファエル公爵はそっと抱き上げてその膝に乗せ、包み込むようにその逞しく鍛え上げられた腕で抱きしめた。
「っラファエル様!?」
「ん……アイリス少し痩せたか? また食事をキチンと摂ってなかったのか……?」
……十日ぶりのラファエル様のお膝抱っこ!
ラファエル様の落ち着いた低い声が耳にっ!
いや、まて……なに抱っこされて喜んでんの私?
「は、離して下さい! 勝手に私に触らないって約束っ……お忘れになったのですか……!」
「忘れてはないけど、アイリスは私が触るのは……嫌か? なら、降ろすが……」
……別にもう嫌ってわけじゃない、ただそれをされて喜んでしまっている自分が嫌。
ラファエル様に絆されてしまってる、好きになってしまっている自分に腹が立つ。
それに元々怒ってないし、迎えに来てくれた喜びの方が明らかに放ったらかしにされた怒りに勝っていて。
「別に……ラファエル様のお膝の上は、嫌じゃないですけど……?」
と、拗ねてツンツンしていたアイリスがラファエル公爵の上から退きたくないと、その逞しい腕をぎゅっと掴んでそんな事をポツリと言うから。
「……どうしよ、これ……私の理性持つかな?」
「え……?」
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