上 下
25 / 52

25 身分不相応

しおりを挟む


 アンリエットは裕福な商家の娘で、美しい容姿と明るく天真爛漫な性格もあいまって誰からも愛されるような恵まれた女の子だった。

 そして将来は優秀な商人の婿をとり家を継いで、なに不自由なく生きていくだろうと皆が思っていた。

 だがある日の暑い夏の昼下がりに、アンリエットは実家が経営する商会で運命の出会いをしてしまうことになる。


 その日アンリエットは、社会勉強として実家が経営する商会の店前で客の案内をまだ辿々しい接客だったが、明るい笑顔で元気よくこなしていた。

 そこにアンリエットが今まで一度も見たことが無いほど見目麗しい面立ちに艶やかな黒髪、黄金の瞳を持つ青年が友人達と連れ立って楽しそうに買い物にやってきていた。

 自分も周りから綺麗だとよく言われるが、それ以上の美しい青年にその胸は激しく高鳴り、ついアンリエットのほうから食事でもどうかと青年に声をかけた。

 最初青年は女性からの誘いにとても驚いていたが、アンリエットの必死さが伝わったのか快く了承してくれて。

 それから2人は食事や逢瀬を何度も重ね、直ぐに愛し合うようになり、周囲の激しい反対をよそにその関係を続けた。

 貴族相手に平民が恋をした所で絶対に妻にはなれないとアンリエットも頭ではわかってはいたが、ラファエルの事を諦めるなどもうその頃には出来なくなってしまっていた。

 平民の男達と違って物腰も洗練されていて見目も麗しく、溢れる財力に貴賤に関係なくラファエルは接してくれて夢のようなひととき。

 それに美しいと甘く優しく囁いてくれるから、段々とアンリエットは勘違いをしていく。

 もしかしたら貴族であるラファエルにこれだけ美しいと言われ愛される私ならば、貴族のご令嬢達のようにドレスを着て憧れの夜会に出席しても何の問題ないのではないか……と。

  そしてラファエル公爵に豪華なドレスをねだり、宝飾品をねだり、夜会に一緒に行きたがり、公爵邸に一緒に住むことをねだるアンリエット。
 
 段々と身分不相応な要求が増していくアンリエットには、もう最初の頃の天真爛漫で明るい笑顔の可愛い女の子の面影はない。

 だが、ラファエル公爵は結婚をしてやれない負い目からか、アンリエットの我が儘を全てを許していく。

 そんな時に両親に迫られて形だけの白い結婚を男爵令嬢とすることになったラファエル公爵に、アンリエットは怒り狂う。

 だってアンリエットはラファエルに心から愛される私ならば、平民でも……妻に、公爵夫人になれるのではないかと……思っていたから。

 その契約結婚が、自分達の為だと何度丁寧に説得されても、公爵婦人になれると思い込んでいたアンリエットは毎日のように怒り狂いラファエル公爵に詰めよって。

 そして2人は終わりを迎える事になる。

 だが、アンリエットは自分のものになる筈だった公爵夫人の地位を奪ったアイリスに強い恨みを持つことになる。

 見目麗しいラファエルを奪った事も腹立たしかったが、アンリエットにとっては自分がなる筈だった公爵夫人の地位と贅沢な生活をアイリスに横取りされたことが、何よりも腹立たしかったから。

しおりを挟む
感想 223

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

婚約者様は大変お素敵でございます

ましろ
恋愛
私シェリーが婚約したのは16の頃。相手はまだ13歳のベンジャミン様。当時の彼は、声変わりすらしていない天使の様に美しく可愛らしい少年だった。 あれから2年。天使様は素敵な男性へと成長した。彼が18歳になり学園を卒業したら結婚する。 それまで、侯爵家で花嫁修業としてお父上であるカーティス様から仕事を学びながら、嫁ぐ日を指折り数えて待っていた── 設定はゆるゆるご都合主義です。

侯爵家のお飾り妻をやめたら、王太子様からの溺愛が始まりました。

二位関りをん
恋愛
子爵令嬢メアリーが侯爵家当主ウィルソンに嫁いで、はや1年。その間挨拶くらいしか会話は無く、夜の営みも無かった。 そんな中ウィルソンから子供が出来たと語る男爵令嬢アンナを愛人として迎えたいと言われたメアリーはショックを受ける。しかもアンナはウィルソンにメアリーを陥れる嘘を付き、ウィルソンはそれを信じていたのだった。 ある日、色々あって職業案内所へ訪れたメアリーは秒速で王宮の女官に合格。結婚生活は1年を過ぎ、離婚成立の条件も整っていたため、メアリーは思い切ってウィルソンに離婚届をつきつけた。 そして王宮の女官になったメアリーは、王太子レアードからある提案を受けて……? ※世界観などゆるゆるです。温かい目で見てください

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

処理中です...