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25 身分不相応
しおりを挟むアンリエットは裕福な商家の娘で、美しい容姿と明るく天真爛漫な性格もあいまって誰からも愛されるような恵まれた女の子だった。
そして将来は優秀な商人の婿をとり家を継いで、なに不自由なく生きていくだろうと皆が思っていた。
だがある日の暑い夏の昼下がりに、アンリエットは実家が経営する商会で運命の出会いをしてしまうことになる。
その日アンリエットは、社会勉強として実家が経営する商会の店前で客の案内をまだ辿々しい接客だったが、明るい笑顔で元気よくこなしていた。
そこにアンリエットが今まで一度も見たことが無いほど見目麗しい面立ちに艶やかな黒髪、黄金の瞳を持つ青年が友人達と連れ立って楽しそうに買い物にやってきていた。
自分も周りから綺麗だとよく言われるが、それ以上の美しい青年にその胸は激しく高鳴り、ついアンリエットのほうから食事でもどうかと青年に声をかけた。
最初青年は女性からの誘いにとても驚いていたが、アンリエットの必死さが伝わったのか快く了承してくれて。
それから2人は食事や逢瀬を何度も重ね、直ぐに愛し合うようになり、周囲の激しい反対をよそにその関係を続けた。
貴族相手に平民が恋をした所で絶対に妻にはなれないとアンリエットも頭ではわかってはいたが、ラファエルの事を諦めるなどもうその頃には出来なくなってしまっていた。
平民の男達と違って物腰も洗練されていて見目も麗しく、溢れる財力に貴賤に関係なくラファエルは接してくれて夢のようなひととき。
それに美しいと甘く優しく囁いてくれるから、段々とアンリエットは勘違いをしていく。
もしかしたら貴族であるラファエルにこれだけ美しいと言われ愛される私ならば、貴族のご令嬢達のようにドレスを着て憧れの夜会に出席しても何の問題ないのではないか……と。
そしてラファエル公爵に豪華なドレスをねだり、宝飾品をねだり、夜会に一緒に行きたがり、公爵邸に一緒に住むことをねだるアンリエット。
段々と身分不相応な要求が増していくアンリエットには、もう最初の頃の天真爛漫で明るい笑顔の可愛い女の子の面影はない。
だが、ラファエル公爵は結婚をしてやれない負い目からか、アンリエットの我が儘を全てを許していく。
そんな時に両親に迫られて形だけの白い結婚を男爵令嬢とすることになったラファエル公爵に、アンリエットは怒り狂う。
だってアンリエットはラファエルに心から愛される私ならば、平民でも……妻に、公爵夫人になれるのではないかと……思っていたから。
その契約結婚が、自分達の為だと何度丁寧に説得されても、公爵婦人になれると思い込んでいたアンリエットは毎日のように怒り狂いラファエル公爵に詰めよって。
そして2人は終わりを迎える事になる。
だが、アンリエットは自分のものになる筈だった公爵夫人の地位を奪ったアイリスに強い恨みを持つことになる。
見目麗しいラファエルを奪った事も腹立たしかったが、アンリエットにとっては自分がなる筈だった公爵夫人の地位と贅沢な生活をアイリスに横取りされたことが、何よりも腹立たしかったから。
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