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19 相対評価

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 屋敷に帰る用意をするラファエル公爵を、ソファに座ってただ待つ簡単なお仕事。

 近衛隊長の執務室はそれなりに広く、革張りの応接室セットに大きな机に椅子、壁際には大きな本棚もあって、花なんかもキレイに飾られていてお洒落でそこそこ居心地が良い。

 ただ机の上にうず高くつまれた書類の山に、ラファエル公爵が多忙なのだろうことが窺えた。

 キョロキョロと執務室を物珍しく見ているとラファエル公爵が声をかけてきて。

「アイリス、どうした?」

「あ、いえ珍しくて……」

「……そうか、では屋敷にかえるか?」

「はい、公爵様」

 ラファエル公爵の後ろに続いて王城の廊下を歩いていると、ぴたりと急に立ち止まるからどうしたのかと思って見ていると。

「アイリス、隣を……歩いてくれないか? 君は使用人ではなく……その……私の妻だろう?」

 何を言い出すかと思えばラファエル公爵は、隣を歩いて欲しいと恋する乙女みたいな事を言う。

「畏まりました、ご命令とあらば……」

「……妻に命令などしない」

「結婚式の日に公爵様に私は命令されましたが?」

「っ……!? す、すまない……、反省している」

 一気に顔色を悪くしたラファエル公爵の隣を歩こうとして一歩前にでたらスッ……と、腕を出してくる。

 ラファエル公爵はエスコートがしたいらしい。

「……あの、公爵様?」

「エスコート、させてくれないか?」

 恐る恐る私に『エスコートさせてくれないか』と聞いてくるラファエル公爵は、そんなに嫌いじゃない。

 きっと今日あの糞親に久々会ったからだろう。

 つまりは相対評価。

 アレよりはだいぶマシ。

 私の気持ちを尊重する姿勢を見せてくれる所は、好ましいと思う、だが。

 尊重するならば、領地に帰して以前のようにほっといてくれと言いたいがそれは駄目か。

「……では、お願いいたします」

「ああ、任された」

 近衛騎士の制服の上からでも触るとわかる、ガッチガチの筋肉がなんかすごい。

 早朝からあんなに鍛えてればこうなるのか。

 ラファエル公爵は歩幅を私に合わせて歩きやすいように調整し、完璧なエスコートをする。

 さすがラファエル公爵は高位貴族、やることが洗練されていて美しい。

 のに対して、私は初めてのエスコートにおっかなびっくりで挙動不審で。

 ……とにかく野暮ったい。

 自分でもわかる、これは全然美しくない。

 格の違いをいま見せつけられている……!

 そして馬車に乗るのに初めての私はエスコートをされた、なんと乗りやすいことか!

 心の中でいつも『どっこいしょー!』して乗っていたのが、嘘のようである。

 まあ、乗りやすくてもお尻は痛いのだけど。

 そして私はいつものようにクッションを使い、もぞもぞ座りやすい位置を探していたら。

 ひょいっ……と公爵に膝の上に座らせられた。

「ひえ……!? こ、公爵様おろして下さい!」

「……座りにくいのだろう? ならアイリスは私の膝の上にいるといい、支えておくから」

 いやいやいやいや!

 ちょ……待って……?!

 私っ……子どもじゃないんだから……!

「で、ですが……これは、あの」

 これは恥ずかし過ぎる!

 やめろ、どこのバカっプルだよ?!

 これは陰キャには無理すぎる。

「屋敷に着くまででいい、強引なのはわかっているし、君に嫌われているのはわかっているが……どうしても君に近付きたい」

「……嫌い、ではありません、ですが公爵様の事は好きでもありません、この間は私も言い過ぎたと反省しております」

 反省してる、だから出来れば私を領地の屋敷に帰して静かに引きこもらせて。

 働きたくないし、なるべくなら動きたくない。

 ……もうお家に帰りたいし外に出たくない。

 私は一日中ごろごろ寝ている人生がいい。

「君が反省などする必要はない、アイリスが言った事はその通りの事で……私が全部悪い、出来るなら君を傷付けた三年間を償わせて欲しいと思っているよ」

 女ったらしで人の気持ちがわからないヤツだと思っていたけど、実はラファエル公爵良い人?

 でもどうせなら領地の屋敷に帰りたいな?

 ラファエル公爵に伝われ!

 引きこもりのこの熱い思い!

「……公爵様」

「だから……機会を私にくれないか?」

「えっ……機会ですか?」

「君に償う機会と、本当の夫婦になる為の機会を」

 ……本当の夫婦って、既に夫婦ですが?

 結婚式したでしょう?

 これ高位貴族独特の何かの言い回しか?

「……わかりました、ですが、あのお膝からおろして頂けませんか? その、これはとても恥ずかしくて」

「……いやだ」

「いやって……え?」

 ……前言撤回やっぱり嫌い。
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