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29 腹が立つ

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 激しく叩かれる扉。

 ここは王の私室。

 そこに王と廃妃が二人きり。

 私が今ここにいる理由を知る者ならば、私達二人が一緒に居る所を見られても何ら問題はない。

 だけどその人物に私は『待っていて』と、伝えてからここに来たわけで来てくれる筈がない。

 じゃあそれ以外だと近衛騎士の可能性があるが、近衛がこんなにも激しく王の私室の扉を蹴破りそうな程に叩くだろうか?

 ……どう考えてもこんな風に王の部屋の扉を叩いたりはしないだろう、どう考えても不敬だし。

 ならばもう一つの可能性を想像すれば一番その可能性が高い人物で、一番厄介。

 なので扉の向こう側にいる人物に、今この状況を見られるのは非常に不味い。

 それに私は『一人で来い』という命令をフェリクスにされた為に侍女さえ伴わず。

 そのフェリクスはこの大国の王という自覚が無いのか、不用心にも近衛騎士すらも退席させていて。

 どこからどう見てもこれは禁断の逢瀬に見える。

「これは……ちょっと不味いねユーフェミア?」

「こんな事になるって少し考えればわかるんだから私一人を呼び出すな! この……あんぽんたん!」

「ユーフェミア、ちょっと君……性格変わった!?」

 私の性格なんて元からこんなもんだ。

 10年間お前が私の上っ面しか見て来なかっただけ。

 あの狸親父も私の事なんて何も知らないし、知ろうとなんて一度もしては来なかった。

 きっと私の本当の性格を知っているのは長年に亘って犬猿の仲と社交界で噂されるほどに争ってきたアレクサンドだけ。

 あの嫌味ったらしい言葉の数々には毎度腹が立った、けどそれでも……。


 ドカっ……

 蹴破られて吹き飛んだ扉。

「ユーフェミア!」

 そして私の名をもう当たり前のように敬称を付けず呼んで、物凄い剣幕で押し入るように王の私室にズカズカと足音を立てて入ってきたのは。

 『待ってて』なんてつい格好をつけて言ってしまったけど、本当は迎えに来てくれたら嬉しい方の人物で自然に顔がほころんでしまう。

「あ、アレクサンド……!」

 扉を蹴破って急ぎ駆け寄って来たアレクサンドは、いまだに私の腕を掴んだままのフェリクスの手を振り払う。

 そしてさも当たり前のように私を自分の方に引き寄せて、国王であるフェリクス相手に敵意の籠った視線を向ける。

「うん、なんだろうね? 友人だから許すけどさ……アレクサンドは私に対してとっても不敬だと言うことを少しは自覚しようね? ……本当に自覚してね?」

 そんなアレクサンドに対してフェリクスは、非難めいた眼差しを向けてそんな不満を口にした。

「まあまあ! そんな喧嘩腰じゃなくてアレクサンドは陛下と少しは仲良くする努力をしようじゃないか? 君は宰相としてこれから国王を支えてこのガーディンの国政を率先して取り仕切る立場なんだし!」

 まるで子どもの喧嘩でも仲裁するかのように、手をパンパンと打って余裕の表情を浮かべそんな事を宣うのはやっぱり狸親父で。

 ……心底腹が立つ。

 また勝手に自分の中でシナリオを書いて、人を手駒かのように操ろうとする。

「……お父様はまた何を勝手に他人の人生をご自分の都合の良いように考えて決めてらっしゃいますの?」

「え、ユーフェミア……? 別に私は自分の都合の良いようになんて考えて……」

「ではお父様は何故アレクサンドが宰相に戻る事が、さも当たり前のように仰っておいでなのです? もしや私の知らぬ所でお二人で決められましたか? そうでしたら謝りますわ」

「あ、まだアレクサンドに話しはしていないね? いやでもほら! 彼がいないと国政が滞ってしまうから……戻ってきて貰おうかと思って」

 シュバリエ公爵は、大変珍しく焦った顔でユーフェミアの質問に答える。

 だがその口調はさっきまでと大きく違って、余裕が全くなかった。
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