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26 その笑顔
しおりを挟むまさか直ぐにその立場を、思い知らされるとは思っていなかった。
「え……フェリクス陛下が、ですか?」
「はい、ユーフェミア様お一人にお話があるので、お部屋にいらして欲しいと仰られております。ので……その……」
ちらちらとアレクサンドの方を気にしながら近衛騎士は、フェリクス国王が呼んでいるから私に一人で来て欲しいと言って来た。
王妃時代なら簡単に拒否ができた。
でも今は。
「……わかりました、直ぐに参ります」
「ユーフェミア!?」
「アレクサンド、少し陛下の所へ行って参ります。ですからここで待っていてくださいね?」
「……わかりましたユーフェミア」
今は前のように拒否が出来る立場ではない。
王城、ここも勝手知ったるなんとやら。
だが国王の私室になんて王妃をやっていた10年間、夫婦だったのに一度も来た事がなかった。
なのに廃妃になったらそこに呼ばれるなんて、本当に私は運が悪いみたいだ。
近衛騎士が入室の許可を取って私は一人その部屋に入っていく、想像していた部屋より広い室内。
だけど雑然と積み重なった書類の山がいくつもそこにはあって、国王の忙しさがうかがい知れる。
そして部屋に入ればフェリクスが、とても忙しそうに書類にサインを書いていた。
「あ、ユーフェミア少しだけ待ってて? この書類だけ書いたら直ぐに……」
「……ごゆっくりどうぞ、お待ちしております」
アレクサンドが宰相を辞して、今はこの大国ガーディンの国政を国王フェリクス一人でほぼ全て担ってるとさっき聞いたけど。
私室にまで仕事を持ち込むなんて……。
「……お待たせ、急に呼び出して悪かったね?」
「いえ……お忙しいようで」
「まあ今はのんびりと夜会を楽しむ暇はないかな? でも今日は久しぶりに元気そうな君に会えて嬉しかったんだ」
本当に嬉しそうな顔をして、フェリクスはユーフェミアに笑いかける。
「……そうですか」
「近衛から聞いた、頭のおかしな男に君が乱暴されそうになったって……大丈夫だった?」
「はい、アレクサンドが助けに来てくれましたから」
「うん、それも聞いた……でもユーフェミアが心配で」
「ご心配頂きありがとうございます、でも貴方もアレと似たようなものでしょ……?」
……お前も私に似たような事私にしてたじゃん?
それ、どの口が言う?
夫婦だからといって、相手に何の許可もなく勝手に一人で盛り上がって抱こうとするとかあり得ない。
「っ……あの時はごめん! ユーフェミアの事……どうしても手離したくなかった」
「何を今さら! 貴方はずっと私の事ほったらかしにしていたくせに……アレクサンドに邪魔されていたとはいえ、公務中も話すらしてくれなかった」
……会話どころか、私の顔すら見なかったよな?
愛し合う夫婦にはなれなくても、友人や家族くらいにはなりたかったのに。
「そうだね……ごめん……どう君に接したらいいか、私にはわからなくて」
「なんですか、それ……私の事、好きなんですよね?」
……これ自分で言ってて恥ずかしい。
かなりの自意識過剰発言である。
「自分でも正直わからない、今もあれは君への恋心だったのか、家族愛なのか……すごく微妙な所で」
「微妙って……お前……」
……微妙ってなに!?
「だって私は末っ子だったから……妹とかいないし?」
「……妹って、それもう答え出てるじゃないですか」
「……え、あ……あはは? あれー?」
「殴りたいその笑顔……!」
本当に殴りたい……!
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