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23 犬猿の仲

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 夜会は国王フェリクスの挨拶で始まり、レオノーレ王女の紹介の後二人は中心で踊る。

 楽器の演奏が流れ、他の貴族達も次々に国王と王女の周囲で楽しげに踊る。

「私と踊って頂けますか?」

「…………喜んで」

 誘いの文句と共に差しのべられた手を取れば、中心近くまで進んで行きそして二人は踊り始めた。

 アレクサンドとユーフェミアは犬猿の仲として、このガーディンの社交界では知れ渡っている。
 
 犬猿の仲の二人が夜会に一緒に現れた事だけでも貴族達にとっては驚きなのに、手と手を取り合って見つめ会い踊る。

 それにこの二人は今や時の人だ。
 
 荒れた国に誕生した少年王の後ろ楯となる為だけに王家に幼くして嫁ぎ、また国の都合で人生を弄ばれ廃妃に落とされた可哀想な令嬢。

 そして若くして宰相という地位にまで上り詰め数年で荒れ果てたこの大国を持ち直させた辣腕、だが突然その職を辞して国政を混乱させている愚か者。

 そんな二人に貴族達の注目の視線が集まるが、そんな視線なんのそので。

 ユーフェミアとアレクサンドの二人は平然と踊り、楽しげに会話をする。

「ユーフェミアなんですか、さっきの間は。男性がダンスに誘ったら直ぐに答えなさい!」

「いや、性悪……アレクサンドと夜会でダンスなんて一生踊ることはないと思っていましたから、つい誘われた事に驚いてしまって……!」

「……私も貴女とこうして踊れるなど思っても見ませんでしたから、今は夢のようで幸せです」

 アレクサンドは本当に嬉しそうにそうユーフェミアに言って、柔らかく微笑んだ。

「あ、うん、そっかぁ……? あはは」

 その言葉にどう反応していいかわからず、ユーフェミアは視線をアレクサンドから外してはぐらかす。

「……それでユーフェミア? さっきの陛下に対するアレはなんですか……流石に可哀想ですよ? 確実に王女殿下にも聞こえてましたね」

 わかりやすくユーフェミアにはぐらかされたので、アレクサンドは話を変える。

「だって未練たらしく付きまとわれるのも面倒なだけですし? たぶん私に招待状送ってきたのはフェリクスだと思います!」

「まあ、その可能性は多いにありますが……」

「それに王女は放っておいても勝手に自爆するでしょうし、遊んであげても私の相手にならないからツマラナイのでわかりやすくソレ国王いらないよアピールしておきました!」

「……貴女と社交の場でやり合うのは骨が折れますからね。王女程度ではユーフェミアの相手にならないでしょう、私も貴女に嫌がらせするの大変でした……」

「……アレクサンドって本当に私の事好きだった!? 嫌味ったらしい事しか言われた記憶……ないけど」

「好きですよ。ユーフェミアの事は今でも想っています……もしも私が貴女にした事が許されるならば今直ぐに求婚したいくらいですね?」

 熱っぽく見つめてくるアレクサンドに、余計な話題を振ってしまったなと内心焦るユーフェミアは。

「ゆ、許すも何も、別にアレクサンドの事は恨んでませんし? 逆に廃妃にしてくれて感謝してます、だっていま私が自由に生きられてるのは貴方のおかげだから。ただ酒場に飲みに行けないのがちょっと不満ですけど! 下町で飲むエール、美味しかったな……」

「っ……そう、ですか。自由に生きられていますか、それは良かったです……ただ下町でエールってユーフェミア? 貴女、王宮から逃げ出してそんな所に居たんですか……? それじゃ近衛が見つけられないはずだ」

「ふふ、楽しかったですよ? また行きたかったな」

「……下町でエール、お付き合いしますよ? 貴女一人では危ないですが、私も一緒なら……」

「え、うそ! 本当に!? じゃあ明日行こう!」

「……はい、ユーフェミア。喜んで」

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