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20 久し振りの夜会へ

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 『招待状を貰ったから王宮の夜会に行く』

 そう、侍女達に告げれば。

 最初こそ侍女達に反対されたが、歓迎の宴当日になれば朝から全身を磨き上げてくれて。

 美しく飾り立ててくれた。

 久し振りの夜会。

 今日の主役は私ではなく王女殿下だから、派手になり過ぎないようにドレスも宝石も控えめで慎ましいものを選んだ。

 王妃だった頃は夜会なんて仕事でしかなかったから、心が弾むなんて事は一度も無かったけど。

 今はどうしてだかウキウキしている。

 たぶんきっと王女殿下を歓迎する宴の招待状を送った人物は、嫌がらせのつもりで送ったのだろう。

 それにまさか廃妃となった私が、その夜会に出席するなんて……夢にも思わないと思う。

 けど私は、売られた喧嘩は買う質なんだ。

 元王妃で前王弟の娘である私に、廃妃となったからといって平民のような生活はさせられない。

 そう当たり前の事を説得されてしまい。

 私は一生を一人で、このガーディンの貴族社会で生き抜いていくと決めたから。

 ……そんなつまらない嫌がらせをするような相手に舐められたままでは終われない、貴族社会なんて舐められたら終わりだから。

 まあでも?

 歓迎の宴に廃妃が行けば、針のむしろだろうけど!

「ユーフェミア様! エスコート役の殿方無しで本当に夜会に行かれるのですか!?」

「ええ、廃妃のエスコートなんて誰もしたくないでしょう? お父様はお忙しいし……お兄様は婚約者の方とご出席なさるだろうし……ね?」

「そんなこと……ユーフェミア様……」

 正直どっちも此方から願い下げである。

 あの二人に借りは絶対に作りたくない。

 いくら廃妃は政略結婚に使わないと宰相が言っていたとしても、あの二人ならやりかねない。

「じゃあ、王宮に行って参りますね、お留守番よろしくお願い致しますよエマ、それにニーナ?」 

「はい……ユーフェミア様」

「ユーフェミア様お気をつけて! 何かもしもの事があれば大きなお声で近衛を呼んで下さいね!」

 そして馬車に揺られてやってきたのは、少し前までここにいるのが嫌で嫌で仕方なかった王宮で。

 豪華絢爛で煌びやかなはずなのに、やっぱり私にここ王宮は輝いては見えなくて。

 馬車から降りて、さあ夜会の会場へ!

 そう意気込んで、一歩を踏み出せば。

「ユーフェミア様……? こんな所で貴女、いったい何をしていらっしゃるのです!?」

 と、驚きを含んだ声で話しかけられた。

 聞き覚えのある懐かしいその声音に、振り向けばそこには宰相アレクサンドがいて。

「っ……さ、宰相様? どうして馬車停めなんかに!? この刻限ならもう既に、夜会の会場で王の側にいるはず……」

「……もう宰相ではありませんよ? 辞めましたから」

「え、辞めた!? どうして……」

「私が宰相をやっていたのはユーフェミア様、貴女を手に入れる為……でしたから」

 ……そういえばそんな事、言ってた。
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