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9 王弟
しおりを挟む宰相アレクサンドは由緒正しい侯爵家の嫡男で、家の財力も申し分なく才能にも恵まれていて真面目で容姿も良い。
それにユーフェミアとは5歳違いで年回りも良く婚約者に丁度いいと、10年前シュバリエ公爵は侯爵家と縁組みを整えていた。
だがシュバリエの兄である前国王が病に倒れ崩御し、悲しむ暇もなくあの醜い王位継承争いが起こった。
王位継承争いなんてどこの国にでもよくある話で、たまたまシュバリエと前国王の間には起こらなかった。
でもそんなものは直ぐに終わるだろうとシュバリエは思っていたし、自分はもう王位継承権を放棄し臣下に下った身で。
シュバリエは王位継承争いを静観していた。
だがそれは罪もない平民達までも巻き込んで国を荒らし、国政を滞らせた。
そしてあまりにも酷い惨状に。
自分はもう臣下に下った者だとしてその様子を静観していたシュバリエだったが、流石にこのままでは国が終わる。
もうこれ以上静観してはいられないとして、シュバリエは私兵を率いて立ち上がり。
首謀者達を次々に粛清し、継承争いを起こした王子達を断頭台に送り処刑した。
そして王位継承争いに唯一参加していなかった、公妾の子であるフェリクスを王へと押し上げて即位をさせた。
だが後ろ楯のない少年王。
それは貴族達に傀儡の王にしてくれと言わんばかりの格好の餌食、というか鴨葱で。
シュバリエ公爵自らが、その少年王の後ろ楯となるしかもう残された選択肢はなかった。
後ろ楯となるには姻戚関係を結ぶのが手っ取り早く、まだ幼いユーフェミアを王妃にするのは躊躇われたが。
内々に決まっていたアレクサンドとの婚約を破棄し、王家に愛娘ユーフェミアを嫁がせ王妃とした。
だがそのシュバリエの決定に、ユーフェミアと婚約を破棄されられたアレクサンドが否と唱えた。
王弟である自分の元にたった一人で赴いて、アレクサンドは必死に嘆願してきた。
『荒れ果ててしまったこの国を、自分が立て直す事が出来た暁にはユーフェミアを王妃の位から下ろし、自分の妻に欲しい』
それにはシュバリエ公爵は大変驚かされたが、そこまで愛娘を想う気持ちがこの男にはあると知って。
国王フェリクスがユーフェミアの事を何とも思っていなのをフェリクス本人から聞いていて知っていたシュバリエ公爵は。
アレクサンドの切なる願いを聞き入れる。
自分を愛してくれる男の元にいるほうが、たった10歳でこの大国の王妃にしてしまったユーフェミアに自分がしてやれる唯一の償いだったから。
……だがこのお馬鹿。
言うに事欠いて、何を愛娘ユーフェミア相手に宣ったのか。
アレクサンドは頭は良いし仕事も出来る。
粗野な所もあるが根は真面目で愛情深い。
だが恋愛は下手らしく、好きな癖にユーフェミア相手にネチネチと嫌味を言ったりするから煙たがられて社交界では『犬猿の仲』という噂まで。
馬鹿なやつだとアレクサンドの事をシュバリエ公爵は思っていたが、そうなってしまった一因に自分の決定も含まれていて。
ユーフェミアが王妃から退く日が来れば、流石のコイツも素直になるだろうとアレクサンドの恋愛下手をシュバリエ公爵は楽観視していた。
だがこのアレクサンドという男は。
とんでもない恋愛下手だった。
「……なぜ私の愛娘ユーフェミアちゃんに肝心な事を何も言わず、何故そんな勘違いされるような事をお前は言ったんだ……! この馬鹿!」
「え?」
「王に私の後ろ楯が必要なくなったから廃妃になるとか言ったらそれ……自分は幽閉されると普通は思うはずだぞ? そして邪魔になったら最悪殺されると想像したはずだあの子は、聡い子だからな! 私の愛娘は!」
「そ、そんなつもりは……! これからの予定と、状況をユーフェミア様に説明しただけで」
「それにだアレクサンド! お前が普段ユーフェミアちゃんに対してとっている態度がいかん! お前がそんな事をいったら……もう確実になにか謀ってると思うだろうて……」
「それは……」
「アレクサンドお前、ユーフェミアちゃんを自分で探してこい! そして謝れ! 求婚しろ! 宰相の仕事はこの私が! シュバリエが代わってやる! さあ行け! この馬鹿!」
「っ……はい!」
シュバリエ公爵に発破をかけられた宰相アレクサンドは、ユーフェミアを探しに王都の街へ取るものも取らず大急ぎで駆け出した。
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