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7 道端の廃妃
しおりを挟む「あいたたたっ……」
二日酔いによる頭痛で目が覚めた朝。
カーテンを閉め忘れた窓からは、朝の温かな日差しが部屋に入り込んできていて眩しいし。
王宮で使っていた天蓋付きのふかふかの寝台とは違って、固くて寝心地の悪いマットレスは身体が痛い。
その不自由全てがユーフェミアに、ここは自分を縛るものは何もないと教えてくれる。
不安なんて全然ない、あるのは期待だけ。
この街の孤児院や病院には慈善活動で何度も訪れた事があったから、多少の土地勘はある。
本当は王都の外に出た方がいいと思うし、いっそ国外に出た方がいいとも思う。
だけど私は世間知らずのお姫様。
何も知らず一人で旅なんて、それは自殺行為。
とりあえずこの王都で一人で生きていく練習をしていこうと、今後の方針を決めた。
そしてユーフェミアは身支度をさっと済ませて、大きなトランクケース片手に王都の街へと繰り出した。
新しい生活への期待に満ちたアクアマリンの瞳で見る王都は、全てが新鮮できらきら輝いて見える。
平民と同じ簡素なワンピースにヒールのない靴はユーフェミアの心のように軽やかで、いくらでも歩けるそんな気がしていた。
だがその軽やかなユーフェミアのご機嫌な歩みは、直ぐに終わりを迎える。
生まれながらに最高級品だけをその身に纏うユーフェミア、いくらヒールのない歩きやすい靴といえどそれは平民達が使う粗末なもので。
「靴擦れした……!」
ユーフェミアは広場の隅っこに座り、靴を脱いで血が滲む足首をどうしようかと思案していると。
見知った顔を発見した。
そして相手もユーフェミアを発見し。
呆然と見つめ合う二人。
だがどちらも一人でこんな所にいるはずがない、やんごとなく高貴な人間で。
「……人違い?」
「たぶん人違いだと思います!」
キッパリ人違いだとユーフェミアは断言した。
友好の為に訪れた隣国の王太子ユリウスと輿入れしてくるという王女レオノーレに、王宮で開いた夜会で一度会った事がユーフェミアにはある。
だけど一度夜会で会っただけだし?
本人だという確証はない。
「声まで同じで、人違いって、それあると思う?」
「でもですね? ナサリアの王太子がこんな所にお一人でいらっしゃるとか、おかしいじゃないですか?」
こんな所に隣国ナサリアの王太子がいるはずがない、それに護衛無しでなんて。
それは絶対にありえない。
「この国の王妃が、護衛も伴わずたった一人で道端に座り込んでる方が絶対におかしいって、自覚ある?」
「あ! 私、もう用済みだということで廃妃になりましたので、王妃じゃなくなりました! だから妹さんがフェリクス様に輿入れされるんですよね?」
ふふん、残念でした!
私はもう王妃ではない!
廃妃である!
「……私は君が側妃に下がるもんだとばかり思ってた、でもどうしてこんな所に? それに足、怪我してるの? 大丈夫?」
「私も突然廃妃だと言われるなんて思ってもみませんでした! 廃妃とか幽閉されるので現在逃亡中です! これはただの靴擦れなので何もお構い無く!」
ではでは!
いそいそ靴を履き直して、その場から立ち去ろうとするユーフェミアの手を。
ナサリアの王太子が掴み引き止める。
「ねぇ待って! これもまあ……何かの縁だ、足の手当てくらいはさせて? 痛いでしょ、それ。血が滲んでるよ?」
「え……?」
「私もいま一人だから、何も気にしなくて大丈夫だよ? ほらそこ座ってて!」
……え、それのなにが大丈夫?
というか何故隣国の王太子が一人で護衛もつけず、他国の王都ほっつき歩いてんの?
そんなユーフェミアの疑問は。
隣国ナサリアの王太子ユリウスのお節介によって、消え去った。
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