【完結】用済みと捨てられたはずの王妃はその愛を知らない

千紫万紅

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5 性悪宰相

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 王城に用意された宰相用の執務室で。

 アレクサンド宰相が今日中にやっておきたい書類を、一人黙々と片付けていると。

 扉が激しく叩かれた。

 今日はもう誰とも会う約束はしていない、疑問に思いながらも入室許可をだせば。

 そこには近衛騎士の姿。

 そして、どうしたのかと問えば。

 それは王宮を警備する近衛騎士からの緊急の報告。

「ユーフェミア様が王宮から消えた、だと……?」

「はい……ユーフェミア王妃殿下の侍女達が晩餐に現れない王妃殿下を不審に思いお部屋に呼びに行った所、どこにもいらっしゃらなかったらしく……!」

「いらっしゃらなかったって……お前達はいったい何をしていたんだ! 王宮の警備はどうなっている!?」

「申し訳ございません、宰相閣下! いつも通り万全を期して王宮を警備していたのですが……」

 万全を期していたらユーフェミア様が王宮から消えるはずがないだろうという指摘は、今さらやっても意味がないし時間の無駄。

「……王宮内は全て探したんだろうな? ユーフェミア様がどこに行かれたかわかる何か手掛かりは?」

「我々も王宮内を現在も捜索中ですがユーフェミア王妃殿下は見つからず、もしかしたら王宮外に出られた可能性も、なきにしもあらず……ですので王妃殿下の捜索の許可を!」

 近衛騎士は部屋で休んでいたはずのユーフェミア王妃が王宮から忽然と消えて、王宮外捜索の許可が欲しいと言う。

 国民から愛され慕われる王妃ユーフェミアが王宮から消えたなど、国政に関わる問題で。

 迂闊な判断は出来ない。

 そしてアレクサンド宰相は、いま考えられる全ての不測の事態を想定した。

 だが、考えれば考えるほど。

 他国によるユーフェミア王妃の拉致等、考えたくない事ばかりが浮かんできて。

 アレクサンド宰相は、もしもユーフェミア様の身に何かあったらと想像してしまい。

 ゾッと背筋が凍るような嫌な感覚を覚えた。
 
 ……あと少しでこの王宮から。

 国王フェリクスの元から、ユーフェミアを取り返す事が出来るはずだったのに。

 王位継承争いで国が荒れなければ、王妃ユーフェミアは自分の妻になるはずだった。

 なのに馬鹿な王族共が己の利益の為に醜い争いを起こし、この大国を荒らし臣下に下っていた王弟シュバリエを怒らせてしまった。

 怒った王弟シュバリエの私兵によって馬鹿な王族や、それに追随した貴族は全て粛清され。

 第一王子と第二王子は断頭台で処刑された。

 残ったのは無力な公妾の子と、馬鹿げた争いに追随せずに国政に尽力していた貴族達だけで。

 そして後ろ楯も国を動かす能力もない少年が、大国の国王へと押し上げられた。

 それによって親同士が決めた、自分とユーフェミアの間に結ばれていた婚約は破棄されてしまい。

 王弟シュバリエが後ろ楯になるために少年王の王妃に、ユーフェミアがなってしまった。

 だから王弟シュバリエにあの日嘆願し、荒れ果てたこの国を安定させる事を自分が出来たなら。

 ユーフェミアを王妃の座から下ろし、自分の妻にすると王弟シュバリエとフェリクス国王に約束させて。

 その身体に指一本でも汚い手で触れやがったら、自分が反乱を起こし国家転覆を謀るとフェリクス国王を脅した。

「わかった許可を出そう。……ただし! ユーフェミア様を捜索しているとは国民に絶対に悟られるな!」

「はっ!」

 王宮外の捜索に宰相の許可が出された近衛騎士は、一礼だけして急いで執務室を出ていった。

 ……ユーフェミアをこの手に取り戻す為だけに。

 腹が立つがフェリクスの側近をやって、死に物狂いで国を安定させてきたというのに。

 どうしてこうも邪魔ばかりが入るのか。

「顔も見たくはないが、一応フェリクスとシュバリエ公爵にも報告しとくか……」

 ぼそりとアレクサンド宰相はそう呟いて、眉間に皺を寄せながら王城にある自分の執務室を出た。
 
 嫌味ばかり言って、性悪とユーフェミアに罵られるアレクサンド宰相の真実は。

 あまりに無力だった少年が、国難というどうしようもない現実に初恋を拗らせてしまったから。

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