【完結】契約結婚。醜いと婚約破棄された私と仕事中毒上司の幸せな結婚生活。

千紫万紅

文字の大きさ
上 下
37 / 40

37 不満

しおりを挟む


 王都から程近いオクレール伯爵家の領地でスタンピートが発生したという突然の報せが、アレクセイとブランシェの結婚を祝うこの夜会の会場に突然届いた。

 その突然の報せに。

「まあ……スタンピートですって! こ、ここは無事なの!? 早く安全な所に逃げなければ……」

「いったい今まで何をやっていたんだオクレール伯は! それに魔塔は……」

 等と、騒ぎだす貴族達。

 そしてそんな報告を受けたオクレール伯爵も慌てふためき、まるで縋るように国王に乞う。
 
 そんな伯爵の姿に貴族としての体裁はまるでなく。

 国王は先程までの苛立ちを忘れ、哀れみすら覚える始末。

「伯爵、わかったから少し落ち着きなさい」

「陛下っ! 領地が……私の領地がっ……」

 おんおんと情けなく泣き、嗚咽を洩らす伯爵を国王は困惑しながらも宥め、そしてチラリとアレクセイを見た。

 けれど。
 アレクセイはもの言いたげな国王の視線の意図を、キチンと理解しているだろうに。

 にっこりと美しい笑みを、芸術品のような顔に浮かべるだけで。

「あー……アレクセイ?」

 困ったように国王はアレクセイの名を呼ぶ。

「はて……兄さん、何か?」

 ニコニコ、ニコニコ。
 その美しい弟の笑顔は『伯爵を助ける気などさらさら無い』と、分かりやすく物語っていて。

「アレクセイ……」

 こうなるとアレクセイは絶対に言う事を聞いてはくれない、それを兄である王はよくわかっていて。
 アレクセイでダメならば、と……隣にいる弟嫁ブランシェに国王は視線を移す。

 が。

 その国王の視線を遮るようにアレクセイは一歩前に出て、ブランシェを自分の身体で隠し。

「……ああ、スタンピートだなんて大変ですね? ですが私達はこれから新婚旅行に出発する予定ですし、それに魔塔の職員達にはその間休暇を出してしまっているので……お手伝い出来そうにありませんね。残念です」
 
 と、言い放つアレクセイの声は全然残念だと思っていなさそだし、どこか嬉しそうで。

  兄である国王は『コイツこうなるってわかってたな』と、その笑顔と声色だけで確信した。

 実際そろそろこうなるスタンピートが起きるだろう、とアレクセイは予想していた。

 だって魔物の間引きを魔塔は止めて、その領地を持つ貴族達自身にやらせたのだから。

 自分の領地や領地民の事を大切に思わず、魔物の間引きの為に予算を出さない領地では遅かれ早かれこうなる。

 だがまさかこの絶好のタイミングでとは。
 たまには魔物達も役に立つなと、アレクセイは更に美しくにっこりに微笑む。

 そんなやり取りをする国王とアレクセイの様子に、オクレール伯爵は。

「なっ、なにが新婚旅行だ! うちでスタンピートが起きたんだぞ! それにもとを正せばお前達魔塔が魔物の間引きをサボって止めるからこんなことになったんだ! 魔塔が……魔塔主が全責任をとって討伐しろ!」

 と、オクレール伯爵は。
 自分が領地に魔物を間引きする為の予算を出さなかった事を棚に上げて、アレクセイを批判した。

 その言葉に。

「……私に責任? 国から賜った自身の領地を蔑ろにして魔物を溢れさし、この王都まで危険に曝しているのはフロベール伯爵、貴方でしょう。この責任を取るのは貴方ですよ?」 
 
「なっ……!?」

「それに魔塔は善意で魔物の間引きを行っていただけで、それが魔塔の仕事ではありません。そんな、国からは頂いてませんし? ね、国王陛下?」

 と、アレクセイは兄王に話をふった。

「……確かに、この責任はオクレール伯にある。その地は現在伯爵家の所有で、国の管轄でも魔塔の管轄でもないからな」

 と『予算』という単語に国王は困った様な笑顔を浮かべ視線をそらし、アレクセイに同意する。

 それもそのはず。
 国内で無数に湧いて出てくる魔物達を間引きする予算など、国が出せばそれはもう国庫は大赤字。
 だから国王のこの反応は仕方ないのである、無い袖は振れない。

「ですので魔塔には何の責任もありません。それにそこはオクレール伯爵貴方の領地であって私の領地ではありませんし? 助けてあげる理由が……ねぇ?」

「そんな……じゃあどうすれば……領地が、領民が! そ、そなたらは国民を見捨てると言うのか!? 私はただ……助けを求める民達を救って欲しいだけだというのに! 血も涙もないのか!?」

 と、己のこれ迄の行いを棚に全てあげて。
 オクレール伯爵はアレクセイをまるで血も涙もないない人でなしのように言い掛かりをつけて、叫び批判する。

 そんなオクレール伯爵の批判に、周囲でやり取りに聞き耳を立てていた貴族達は。

「そうだそうだ! 魔塔は国民を見捨てるのか!?」

「何が魔法使いよ、血も涙もないわね!」

 などと貴族達は好き勝手に発言を始め、夜会の場は騒然としてもう夜会どころの騒ぎではない。

 そんな状況に。

「静まれ!」

 国王が堪り兼ねたように、一喝する。

 だが魔物の間引きを魔塔に中止されて、領地運営に関する費用が嵩み不満を持っていた貴族達からは非難の声が止まらない。

 そんな声に。

「でしたら領地を国に返されてみては!? そうすれば国が騎士団を派遣して討伐してくれるはずですし、大切な領民さん達は救えます!」

 と、ずっとアレクセイの隣で聞いていたブランシェが『領地を国に返す』という貴族にとって一番嫌な提案を行ったのだった。

しおりを挟む
感想 134

あなたにおすすめの小説

自称地味っ子公爵令嬢は婚約を破棄して欲しい?

バナナマヨネーズ
恋愛
アメジシスト王国の王太子であるカウレスの婚約者の座は長い間空席だった。 カウレスは、それはそれは麗しい美青年で婚約者が決まらないことが不思議でならないほどだ。 そんな、麗しの王太子の婚約者に、何故か自称地味でメガネなソフィエラが選ばれてしまった。 ソフィエラは、麗しの王太子の側に居るのは相応しくないと我慢していたが、とうとう我慢の限界に達していた。 意を決して、ソフィエラはカウレスに言った。 「お願いですから、わたしとの婚約を破棄して下さい!!」 意外にもカウレスはあっさりそれを受け入れた。しかし、これがソフィエラにとっての甘く苦しい地獄の始まりだったのだ。 そして、カウレスはある驚くべき条件を出したのだ。 これは、自称地味っ子な公爵令嬢が二度の恋に落ちるまでの物語。 全10話 ※世界観ですが、「妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。」「元の世界に戻るなんて聞いてない!」「貧乏男爵令息(仮)は、お金のために自身を売ることにしました。」と同じ国が舞台です。 ※時間軸は、元の世界に~より5年ほど前となっております。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。 父親は怒り、修道院に入れようとする。 そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。 学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。 ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。

泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される

琴葉悠
恋愛
 エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。  そんな彼女に婚約者がいた。  彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。  エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。  冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

私のお金が欲しい伯爵様は離婚してくれません

みみぢあん
恋愛
祖父の葬儀から帰ったアデルは、それまで優しかった夫のピエールに、愛人と暮らすから伯爵夫人の部屋を出ろと命令される。 急に変わった夫の裏切りに激怒したアデルは『離婚してあげる』と夫に言うが… 夫は裕福な祖父の遺産相続人となったアデルとは離婚しないと言いはなつ。 実家へ連れ帰ろうと護衛騎士のクロヴィスがアデルをむかえに来るが… 帰る途中で襲撃され、2人は命の危険にさらされる。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまで~痩せたら死ぬと刷り込まれてました~

バナナマヨネーズ
恋愛
伯爵令嬢のアンリエットは、死なないために必死だった。 幼い頃、姉のジェシカに言われたのだ。 「アンリエット、よく聞いて。あなたは、普通の人よりも体の中のマナが少ないの。このままでは、すぐマナが枯渇して……。死んでしまうわ」 その言葉を信じたアンリエットは、日々死なないために努力を重ねた。 そんなある日のことだった。アンリエットは、とあるパーティーで国の英雄である将軍の気を引く行動を取ったのだ。 これは、デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまでの物語。 全14話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

処理中です...