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35 切り捨て
しおりを挟む「……なんだコレは、おかしなのが混ざっているな?」
国王がついそう言ってしまうのも無理はない。
自国の王に対してこの馴れ馴れしい不敬な態度、これはいくらなんでもありえない。
それに下位貴族の妻だからといって礼儀知らずが許されるわけでもないし、それにこれではハッキリ言って平民以下。
その辺の街中を欠伸しながら歩いている平民でも、相手が国王相手だと知ればもう少しマシな態度をとることだろう。
それに礼儀知らずとかなんとか言う以前に、嘘偽りを王に答えるなどもってのほか。
だからこの茶番劇のような一部始終を、嬉々として眺めていた貴族達からもどよめきが起こる。
そしてその刺すような視線は、ダフネとオクレール伯爵へ向けて集中した。
「あ……あの陛下、これは……!」
顔面を蒼白にしてアワアワと慌てるようにしてオクレール伯爵は、ダフネと国王の間に割って入った。
……このままではとても不味い。
娘を早く陛下の御前から下げさせねば、不興を買ってとんでもない事になってしまうだろう。
それはダフネを嫁がせたフロベール男爵家だけに止まる事はなく、オクレール伯爵家にまで類が及ぶ。
それは考えずとも、この状況下では明白で。
「これはお前の娘かオクレール?」
「ええまぁ……そうですね、はい。ですが先日フロベール男爵家に嫁入りをさせましたので……なあ男爵?」
そんな国王の言葉に対して伯爵は。
もう嫁に出したからダフネはうちの家門ではありませんと言って、自分に類が及ぶのを避けた。
そのなんともまあ貴族らしいといえば貴族らしい伯爵の態度に、国王は眉間に皺を寄せる。
「……ふむ? だがオクレール伯爵家の者だと、今しがたこの娘は余に名乗ってはいなかったか?」
そして先程のダフネの言葉を伯爵に指摘した。
「っ……まだ結婚したばかりで、間違えてしまったのでしょう! あはは、少々抜けている子でして……! いやはや、もう嫁に送り出した後ですがお恥ずかしい限りです」
オクレール伯爵にとってダフネは、目に入れても痛くない可愛い娘だったはず。
なのに伯爵は。
ダフネを切り捨てるかのように、責任を逃れるような発言をした。
「ほう……抜けているか……確かに貴族として色々と抜けてしまっているようだな? 再教育が必要じゃないか?」
「……そうですね。ですがもう男爵家に嫁がせてしまいましたので、男爵にお任せするしかありません。ダフネはもう我が家門の者ではありませんから」
そんな風に保身に走る発言をするオクレール伯爵に、切り捨てられた娘のダフネは怒り心頭といった顔で捲し立てた。
「ちょ、お父様? 男爵家に嫁いでも私はオクレール伯爵家の、お父様の娘です! どうしてそんなことおっしゃるの!? 酷いわ!」
そんなダフネとオクレール伯爵の様子を、周囲の貴族達は冷ややかに。
エクトルは自分の妻なのに興味無さげに。
国王は呆れたように。
アレクセイは腹立たしげに。
そしてブランシェは悲しげに、見ていた。
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