【完結】契約結婚。醜いと婚約破棄された私と仕事中毒上司の幸せな結婚生活。

千紫万紅

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「アレクセイ、これはなんだ? 余の所へなかなか挨拶に来ないと思って此方からやって来てみれば……なんだか騒がしいな?」

「……兄さん」

 異母兄弟のアレクセイとは顔はあまり似ていないし美形とはまた違うが、国王もそれなりに美丈夫な方である。 

 顔は精悍で凛々しく、そして鍛え上げられた大きな身体は武人のようで対面すれば威圧感がある。

 そんな国王に訝しげな表情で見下ろされたオクレール伯爵は顔を強張らせ、咄嗟に一歩後ろに下がった。

「国王陛下っ……!」

「えっ!? 国王陛下!」

 国王の登場に何故か笑顔で喜ぶダフネ。

 そんな娘とは反対に、これは不味いとオクレール伯爵は顔面を蒼白にさせる。

 王族と言っても、継承権を放棄したアレクセイだけならば多少怒らせても問題はない。

 けれど国王陛下は別だ。

 陛下の前で娘が先程のような言動をすれば、ダフネが嫁いだ男爵家だけでは止まらずこちら伯爵家にまで類が及ぶ。

 だからアレクセイにまとわりついている娘を連れて、この場から一刻も早く離れなければならない。

 ダフネは美人な母親の方に似て、見目麗しく幼い頃は伯爵も高位貴族や王家にも嫁げるのではないかと期待していた。

 だが可愛い可愛いと夫婦揃って甘やかし過ぎたせいで、性格が我が儘でなんでも自分の思い通りになると思っている節がある。

 それに勉強嫌いのダフネは、淑女教育を嫌がって最低限の礼儀作法が出来なかった。

 その為にまともな縁談がダフネには来なかった。

 だから政略結婚はとうの昔に諦めて、可愛い娘が選んだ相手の元に嫁がせる事にした。

 貧乏なフロベール男爵家ならば礼儀作法が上手く出来なくても、領地に籠りきりで王都には来ない。

 愛娘にあまり会えなくなるのは寂しかったが、こればかりは仕方がない。

 王都にさえ来なければ礼儀作法など出来なくても、跡継ぎさえ産めば大した問題にはならない。

 それがダフネの為で最善策だと伯爵は思っていた、実際にそれが一番良い。

 なのに領地にいるはずのダフネが、夫であるエクトルとどうしてこの夜会にいるのかオクレール伯爵にはわからない。

 ダフネは国王陛下の前に出しても大丈夫な人間ではないと、エクトルも知っているはずなのに。

「ああブランシェ、結婚式以来だな? 息災にしていたか?」

「陛下……はい、アレクセイ様のおかげでなに不自由なく快適に過ごさせて頂いております」

「そうか、それはよかった。何か困った事があったら余に言いなさい、可愛い義妹の為だ出来る事ならなんでも力になろうぞ」

「過分なお気遣い感謝致します、陛下」

 アレクセイの側にいるダフネをちらりと一瞥だけした国王は、押し退けられたブランシェに親しげに声をかける。

 それはまるで、そこにオクレール伯爵やダフネがいないものとするかのように。

 だがその言葉は、そこで顔面を蒼白にするオクレール伯爵とダフネに向けてのもので。

 だがその言葉の意味を理解出来ていないのか。

「国王陛下! お初にお目にかかります! 私、オクレール伯爵家のダフネと申します! お会い出来てとっても嬉しいですわ」

 と、許可もなくダフネは国王にも声をかけた。

 もう男爵家に嫁いでいるにも拘わらずダフネはフロベール男爵夫人ではなく、オクレール伯爵家の令嬢として挨拶する。

 そんなダフネに、夫であるエクトルは一瞬目を向けはしたが何か言ったりする事はない。

 この二人もまだまだ新婚だったが、もうその夫婦仲は完全に冷めきってしまっていたから。
 
「……なんだコレは、おかしなのが混ざっているな?」

 だがそれ以上に冷たいのは国王の視線。

 国王はまさか自分にこんな軽い態度を取る貴族がいるとは、思わなかったから。
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