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31 懲りない貴族

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「ご結婚おめでとうございます、アレクセイ王弟殿下。いやぁこれは実にめでたい!」

「ええ、本当におめでたいですわ! これで国王陛下もご安心なされますわね」

 下品に付けすぎた香水や白粉、酒臭い口臭などの悪臭を撒き散らしながら。

 先日ブランシェへの無礼な行いの為に。

『魔物の間引きをしない』

 と、アレクセイに宣言されてしまった一部の貴族達は。

 呼ばれてもいないのに、蛆虫のようにわらわらとアレクセイとブランシェの周囲に集まり。

 我先に押し合い圧し合い、まるで競いあうように上部だけの祝いの言葉を述べる。

 だが、下心を滲ませた笑顔で媚びへつらうように祝いの言葉を並べ立てる貴族達は。

 アレクセイの隣にいるブランシェには挨拶すらせずに、まるでそこに居ない者のように扱った。

 それは明らかに平民出身のブランシェを、軽んじるような行動で。

 アレクセイは怒りを隠す事なく、冷たい目で貴族達を睨み付けた。
 
 その睨みは睨みだけで人を殺してしまえそうなほど冷たく、身体の芯まで凍ってしまいそうなほど。

「あ……そ、それとご夫人の侯爵位の陞爵おめでとうございます……流石は魔塔の魔法使いですわね」

「あはは……そ、そうですな! うん、実にめでたい。これでこの国も安泰だ……」

「いやぁよかったよかった! おめでたい事が二つも! あとは公爵家の跡継ぎになるような元気な男児を産むだけですな!」

 アレクセイの睨みに貴族達は、焦ったようにブランシェの侯爵位の陞爵を祝うような言葉を口に出す。

 だがその言葉の端々に、ブランシェをアレクセイの付属品として見下すような物言いを貴族達はした。

 だから。

「……よほどお前達は私の気分を害したいらしいな?」

 アレクセイは淡々と、それでいて血も凍りそうな冷たい声でその一言だけを周囲に群がった貴族達に向けて発して。

 夜会の警備をしていた近衛に目配せをした。

 その目配せに気付いた近衛達は、直ぐ様アレクセイの元へと駆け付けてくる。

「アレクセイ様、どうかされましたか?」
 
「この馬鹿共をここから追い出せ、気分が悪い」

「はい、かしこまりました」

 そして近衛が数名集まり、アレクセイとブランシェに群がっていた貴族達を取り囲む。

「なっ……!? アレクセイ様! これはいったい!」

「ちょっと、私を誰だと思っているの! 近衛風情が私に触るんじゃありませんよ!」

「アレクセイ王弟殿下! これはどういうことですかな!? 私達にこんな事をして許されるとでも……」

 口々に文句を垂れる貴族達は、まだ自分達が今どんなに危機的状況なのかわからないらしい。

 貴族に魔法の才を持つものが生まれにくくなってから、その才があれば平民でも爵位を授かる事が出来るという法律が出来てそれなりに時間は経つ。

 けれど平民出身というだけで、自分達より下に見る貴族は後をたたず。

 このような事は以前より度々起こっていた。

 その為。

 独り立ちをした平民の魔法使いに、爵位を与えて国が囲い込んでも。

 貴族達に陰湿な嫌がらせを受けたせいか、魔塔を辞めて行く者もそれなりにいて。

 魔塔と国は以前からこういった差別的な貴族達に、頭を悩ませて常々苛立っていた。

 それに今回はその相手がブランシェで、アレクセイの怒りが頂点に達した結果。

 近衛達によって数名の貴族達は、夜会が開かれている大広間から連れ出されたのである。
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