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17 恋愛感情がないから
しおりを挟む王宮をエスコートされて歩く。
まさか平民の私が王宮にやって来ることになるだなんて、今までの人生で一度も考えた事はありませんでした。
でも意外と緊張はしませんし不安もありません。
だってアレクセイ様に魔塔に初めて連れて来られた時の方が遥かに不安でしたし、緊張も致しました。
それにこれくらいの事でいちいちビクビクしていたら、魔物の間引きなんて魔塔のお仕事は出来ません。
「ブランシェ、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です! アレクセイ様のおかげで、たっぷりと休養させて頂きましたから」
あれから数日。
アレクセイ様のお屋敷でゆっくりと休養させて頂いて、お肌はすべすべのもちもち。
それに髪もばぁやさんに毎日お手入れして頂いたので、艶々のサラサラで。
私はもうボロボロではありません。
そして本日はアレクセイ様に謁見用にご用意して頂いた宝石が散りばめられたブラックのドレスも着ていますし、目が眩むような宝飾品もつけているので。
私の戦闘力はきっと高いはず。
だからたぶん、私はもう大丈夫なのです。
「私が今言っているのは体調の事だけではなく、緊張しているんじゃないかと思って聞いたんだが……?」
「私は全然大丈夫ですよ? 緊張なんか全然していませんし、体調もすこぶる良いです」
……でも少しだけ怖いことがある。
それはエクトル様と新しい婚約者さんに、この王宮で会うかもしれないということ。
もし会ってしまったら私はどんな顔をして対応したらいいのか、わかりません。
「だがもう絶対に無理はするな。何かあったら私にすぐ言いなさい、わかったね? ブランシェ」
「あ、はい……」
……アレクセイ様が最近とっても変です。
それはあの日、アレクセイ様が私の事を『美しい』とおっしゃられてから。
今まで決められた日だけにしかお仕事を休む事を、アレクセイ様は許さなかったのに。
何日もお休みの許可をくださいました。
そしてまだ結婚もしていないのに、アレクセイ様のお屋敷に私の部屋をご用意して頂けまして。
魔塔のソファで寝泊まりする必要がなくなり、お風呂にも毎日入れるようになりました。
それに魔塔でのお仕事量もかなり減らして頂けて、毎日夕方過ぎには終わるようになりました。
以前は日付を跨ぐ事もよくありましたのに。
そして極めつけは。
ことあるごとに私の事をアレクセイ様が『可愛い』とか『美しい』とか言ったりしてきまして。
やたらと褒めてくるんです。
しかも無駄に優しい。
なんだか別人みたいです。
最初は周囲への仲良しアピールなのかなと思って、軽く流していたのですが。
魔塔で二人きりの時も、そんな事を言ってきて。
住む場所を与えて頂けたのも、仕事を減らして貰えたのも大変有難いことではあるのですが。
無意味に容姿を褒めたり過剰に優しくしたりするのは、とても迷惑なので今すぐ止めて頂きたい。
だって私とアレクセイ様は結婚すると言いましてもそれはただの契約であって、そこに恋愛感情というものは一欠片も存在しないのです。
なのにそんな風に優しくされますと勘違いしてしまいそうで、とても怖いのです。
だって私はもう、エクトル様の時のような辛い恋は二度としたくありません。
これは契約結婚だから。
恋愛感情がないから結婚するとに決めたのに。
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