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9 大事な仕事
しおりを挟む「……そういえば君の父親が下に来ていたそうだけど、もしや君……一生会わないつもりか? ブランシェ」
「はい、一生お父様と会うつもりはございません! 元より絶縁を宣言して家を出ておりますので私」
アレクセイ様と婚約した話をどこから聞いたのか、お父様が魔塔に面会にやって来られました。
ですが私は会いません、絶対に。
こんな若い娘をオジサンと結婚させようとしたお父様なんて、一生絶縁でも大丈夫です。
そしてお父様は私に会えず、魔塔付近をうろうろしていらっしゃるらしいです。
でもこの魔塔は一般人の立ち入りが禁止されていますので、私が会いたくなければ誰にも会わずに済む。
ここはなんて素敵な隠れ家なのでしょう?
それに私は成人していますので、親の同意が無くても好きなように結婚が出来てしまう。
だって平民だから……!
「そうか……? まあ好きにするといい、君の親だからな、強制するつもりはない」
「はい、好きにさせて頂きます! 結婚も親の同意必要ありませんからね、私って平民なので……!」
「私と結婚すれば君も貴族だがな?」
「う゛……まあ、そうですね……」
「ブランシェは貴族になるのは、嫌か?」
「うーん、どうなんでしょう……? 平民と違って貴族の方は自由が無いので大変そうだなと思いますが」
……アレクセイ様と結婚して貴族になれば。
新しい婚約者のご令嬢と一緒にいるエクトル様に、きっとどこかで会ってしまうのでしょう。
私はそれが少しだけ怖い。
どんな顔をしてエクトル様に会えばいいのか。
でもそのエクトル様は、捨てた私のことなんてもうなんとも思っていないのでしょうけど。
「平民に比べたら貴族は自由がないだろうな、責任も大きいし……その代わりやりがいはあるよ」
「やりがい……ですか?」
「ああ。領地の運営等、平民には決して出来ない仕事が領地持ちの貴族にはある」
「それ責任重大過ぎてやりたいとは思えませんが? 私には魔塔のお仕事のお手伝いしか出来ません」
アレクセイ様の研究のお手伝いと魔物の間引き、それくらいしか私には出来ません。
それでさえ私は足手まといかもしれなくて。
責任重大なお貴族様のお仕事なんて、平民の私には出来る気が全く致しません。
「魔塔の仕事も責任重大だぞ? 私達が定期的に行う魔物の間引き、あれを行わなければ一般市民が魔物に襲われる確率が格段に上がるからな」
「あーまあ、そうですね……」
魔物の間引きは適当に詠唱して魔法を放つだけなので、そんなに大変ではない。
普段の書類整理の方が私にとっては難解だ。
「だからブランシェは自分のやっている仕事に誇りを持ちなさい。君は普通の人間には出来ない大事な仕事をしているんだ」
「アレクセイ様……」
そんな事を誰かに言って貰えたのは初めてだった。
だってエクトル様には。
『魔法が多少使えるからといってブランシェは平民で、女の君が魔塔で働けば邪魔になるだけだから結婚したら魔塔は辞めなさい。本当は今すぐにでも辞めさせたいんだけどね……?』
そう、ずっと言われていたから。
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