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13 私は何も知らない
しおりを挟むアレクセイの屋敷で謁見に着ていくドレスを試着する、それだけだとブランシェは思っていた。
だけどアルマというアレクセイの乳母に案内されてやって来たのは、広々とした浴室で。
「あの……お風呂ですか?」
「ええ、このばぁやが腕によりをかけてブランシェ様を美しく磨き上げてさしあげましょうね!」
「えぇ? 磨く……」
そしてあれよあれよという間にブランシェは、着ていた服や下着をアルマとメイド達に脱がされて。
花弁が浮かんだいい香りのする湯船に浸けられて、身体や髪を丁寧に洗われて磨かれる。
ここ数日魔塔に寝泊まりしていて風呂に入っておらず、自分でもそろそろ臭うかなとブランシェも思っていた。
だから風呂に入れるのはとても有り難かった。
でも、もしかして。
直ぐ風呂に連れて行かれるくらい自分は臭かったのだろうかと、ブランシェはちょっと恥ずかしくなった。
だけど久し振りのお風呂はとても気持ちがいい、それはこのまま眠ってしまいそうなほど。
「ブランシェ様、お痒い所はございませんか?」
「あ、大丈夫です……」
洗い尽くされて全身スッキリのサッパリで、お痒い所など何処にもありません。
お湯加減も丁度よく極楽です。
それに他人に頭や身体を洗われるのは初めてでしたけど、これがなかなかに気持ちよくて。
つい大きなあくびが出てしまいます。
「そういえば……ブランシェ様はどちらでアレクセイ様とお知り合いになられたのです?」
「あ、アレクセイ様は私の上司です。魔塔で働かせて頂いているので……」
「あら……じゃあ、ブランシェ様は魔法使い様なのですか!? それはそれはすごいですわ!」
「はい、一応。でも私は平民ですし、まだ修行中の身なので。私に敬称は必要ありませんよ」
「なにをご謙遜を! ブランシェ様は特別な才をお持ちではないですか、それに魔塔に所属されております! 貴族でも魔法の才を持つ方は昨今生まれなくなっていて、貴重なのですよ」
「まぁ、そうらしいですね……」
ここ数十年魔法使いが殆ど生まれていない。
そのせいで人を襲う魔物を間引きできる人間が少なくなって、魔塔は常に大忙し。
だから魔塔はもう魔法の研究どころではない。
だけどうちの仕事中毒上司はそんな状況でも、魔法の研究ばかりしていらっしゃいますから部下の私が苦労させられておりまして。
そしてそんな大忙しの魔塔は現在白髪まじりのお爺様とお婆様ばかりで、高齢化が進んでしまっています。
でも数十年前までは、お貴族様はみんな魔法が使えていたらしいのです。
ですがそのお貴族様でも、今や魔法を使える人間はほぼいらっしゃらないらしくて。
これはかなり危機的な状況らしいです。
そんな魔塔で最年少が二十歳の私ブランシェで、その次が魔塔の主であるアレクセイ様でございます。
アレクセイ様のご年齢を私は詳しく存じあげませんが、たぶん二十代半ばくらいでしょう。
そういえば私って。
アレクセイ様の事を何も知らない、五年も上司と部下として一緒にいましたのに。
「でも魔塔の魔法使い様でございましたか、あのアレクセイ様がご自分で伴侶を見つけられるなんて大変驚きましたが……よき理解者を得られたようでとても安心致しました」
「あはは……」
「アレクセイ様がお生まれになる前から、ばぁやはずっと仕えて参りました。ですがこんなに嬉しい事は初めてでございます。ブランシェ様、お嫁に来て頂きありがとうございます」
「あ、いえいえ……そんな……」
まだ結婚してないです。
「ばぁやはこれから、誠心誠意ブランシェ様にもお仕えさせていただきます。ですからなんなりとお申し付け下さいませ」
「はい……」
……契約結婚だなんて絶対に言えない。
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