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11 みすぼらしい平民
しおりを挟む玄関ホールにずらりと並んだ公爵家の使用人達は、満面の笑みで帰宅したアレクセイとブランシェを恭しく出迎えた。
どれほどこの日を待ち望んで来たことか。
素晴らしい容姿と高貴なる血筋を持ちながら、お仕事ばかりで女性に興味を全く示さないアレクセイ様。
そんな仕事中毒のアレクセイ様がやっと結婚する気になった、なんと喜ばしいことか。
だから屋敷の使用人は総出で二人をお出迎えした。
アレクセイ様のお心を射止めた女性に、この屋敷の女主人になる方にいち早くご挨拶がしたかったから。
だがそんな仕事中毒のアレクセイが、初めて屋敷に連れて帰ってきた婚約者は。
血色が悪くまるで病人のような、みすぼらしい服装をした明らかに平民の女性で。
出迎えた使用人達はみな一様に困惑した。
だってこの屋敷の使用人でももっとマシな服装をしているし、こんなにもやつれてはない。
だから二人を出迎えた使用人達は、アレクセイの隣にいるブランシェを見て顔を強張らせてしまう。
「お、お帰りなさいませ、アレクセイ様」
そんな使用人達の列から執事が一歩前に出る。
「ああ、彼女は私の婚約者だ……丁重にもてなしてやってくれ。これから謁見の際に着るドレスの試着をしてもらう予定だ」
「はい、かしこまりました……」
執事は表情を強張らせ動揺しながらも、どうにかアレクセイの指示を聞いた。
でも本当にこのみすぼらしい平民がアレクセイ様の婚約者なのだろうかと、その困惑を隠せずに執事はブランシェを二度見してしまう。
そんな風に見られてしまった方のブランシェは。
まあそうなるよね……という表情で。
なんとも言えない雰囲気がその場に漂っていた。
「まぁまぁ……! こちらの可愛いらしいお嬢さんがアレクセイ様の想い人ですのね? ばぁやはお会いできましてとっても嬉しいですわ!」
そんな何とも言えない雰囲気を壊すように、明るい笑顔で嬉しそうにアレクセイの元へやってきたのは。
優しい笑みを浮かべた老齢のふくよかな女性で。
「アルマ、こちらが婚約者のブランシェだ。謁見用のドレスの試着を手伝ってやってくれ」
「はい、承りました。ですがまあなんて可愛らしいお嬢さんですこと! これは久し振りに腕が鳴りますわね、ふふふ」
「あの、アレクセイ様? こちらのお方は……」
先ほどまでの使用人達の困惑の表情と、なんとも言えない雰囲気も居心地が大変悪かったが。
こんな風に笑顔で大歓迎されるのも、どうしていいのかわからなくてブランシェは苦笑いを浮かべる。
「アルマは私の乳母をしてくれていた女性だ、だからなにも気を使わなくていい」
『気を使わなくていい』とアレクセイに言われたとしても、王弟の乳母をするような方ということは。
この優しそうな女性は貴族の方だということで。
「乳母……」
「さぁさぁ、お嬢さんはこちらへどうぞ?」
「あ……はい、よろしくお願いします」
そして言われるがままに、ブランシェはアルマについて屋敷の奥へと消えていった。
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