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第一章 二度目の国外追放
16 英雄のもとへ
しおりを挟む今から約七年前。
アルス国の辺境にある小さな村で、ある恐ろしい奇病が見つかった。
それは突然の高熱から始まる。
最初は風邪か何かかとその村の医師は思っていたが、突然まるで全身を刃物で切り刻まれるような激しい痛みが患者の身体を襲う。
その痛みよるショックで、奇病を患った患者は失神まで起こした。
……そしてその奇病の患者は最終的には全身から血液が吹き出し、大量出血による出血性ショック死によって亡くなった。
という事例が初めて国に報告された。
それはすぐに、遠く離れた国々でも次々に報告され始めるようになる。
その謎の奇病、いや死病が次々と報告され始め。
死病を発症してしまてば、ほぼ全ての人間は十日以内に死に至るという。
たった二年たらずで、約二十万人がその死病カトレアによって亡くなり。
医師や治癒に特化した魔法使い達ですらその死病に全く太刀打ちできず、世界は恐慌状態に陥った。
初の事例報告から二年後。
たった十二歳の錬金術師の少女がどうすることもできなかったこの死病の特効薬を開発に成功する。
その薬によって世界は救われた。
その少女の名はカレン・ブラックバーン。
史上最年少で錬金術師になった天才だ。
世界の英雄
救国の錬金術師
薬神
など世界中で彼女の功績に感謝し賛辞が送られた。
まだ幼い錬金術師の少女は、元々は我が国の貴族として産まれたという。
だが魔力鑑定式により魔力がほんの僅かすらない全くのゼロだという事が判明し、魔力量が魔法の実力が絶対とするこの国アルスでは、魔力を持たない人間は存在価値無しの烙印を押され追放される。
そしてまだ産まれて十か月だというのに親元から無理矢理引き離され彼女は隣国に国外追放された。
その彼女がなぜか突然魔力が発現したという。
魔力や魔法を忌避する隣国イクスから彼女が国外追放になると聞いて、すぐに我が国で受け入れさせてくれとアルスは手を上げた。
なんとも自分勝手ではあるが、彼女は世界を救った英雄になられた。
是非とも自分の国で囲っておきたいと思うのは、仕方のない事だろう。
そして彼女を迎えるにあたり、警護並びに不馴れなアルスでの生活を補助する者が早急に必要になった。
それに俺は即座に手を上げた。
剣神と呼ばれて騎士団では団長の職を預かっていたし、魔法に置いても右に出るものはいない為警護するにはうってつけだった。
それに女きょうだいに揉まれて育ったおかげか、女性の扱いにも慣れており。
彼女には友人や家族、自分自身でさえも彼女が開発した薬によって命を救われた過去があり。
彼女には感謝しても感謝しきれないくらいの、多大な恩があった。
そしてその場で騎士団長の座を退き。
彼女のいるイクスに向けて急いで出発した。
そしてイクスに入国する為に魔力封印具を装着し、その話を受けてからニ刻程度でイクスに入国した。
イクスに入国してから、この国の管理局という司法機関に彼女の自宅の合鍵をあずかった。
彼女の自宅までは借り受けた馬で移動する。
イクスは建築様式や街並みがアルスとは全く違い、イクスはアルスより国土は狭いが栄えているという事が一目で見てとれたがのんびりしている暇はない。
それは彼女が魔力封印具による魔力暴走等の体調不良等で、倒れている場合が考えられる為。
馬で駆けて彼女の元へ急いだ。
魔力封印具は常に身体から余分な魔力を放出して均等を保つ身体に、放出する身体の機能すら封印して使えなくするというとても危険なものだ。
魔力操作に慣れた大人ならば空の魔石等に魔力を込めて放出したりできるが、魔力が発現したばかりの未成年ではそれが出来ない。
そして管理局から数十分ほどで彼女の住まうという、研究室兼自宅という建物に着いた。
英雄の自宅は二階建ての白亜の豪邸だった。
だが、何度も扉を叩くが彼女からの返事はない。
合鍵を預かっているとしても、さすがに十代の少女が一人暮らしする家。
それはなるべくなら使いたくはなかったが。
これは不測の事態かと、使いたくはなかった合鍵を使用し驚かせないように声をかけながら彼女の自宅の扉をあけた。
そこには予想だにしなかった光景が広がっていた。
ふわふわのハニーブロンドの少女が、服や髪が汚れる事なんて全く気にもせずに。
タイル張りの床にゴロンと寝っ転がり。
世界を救った英雄は。
うじうじといじけて文句を垂れながしていた。
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