剣と魔法の世界 酒場で声をかけられて

のん

文字の大きさ
上 下
11 / 21
酒場のビール

11

しおりを挟む
 ロウソクの明かりに照らされていても、やはり部屋を照らすには足りないものだ。


雪弥は表情のわかりにくい相手の様子を伺ってみる。


ジョナサンは雪弥の身体を支えてベッドに腰掛けさせると、横に自分も腰掛け雪弥が話し出すのを待ってくれている様だ。



『ジョナサン、疑ってたんじゃないの?』


いきなり態度が変わった相手に対して、少し警戒が抜けないみたいだ。ちょっとぎこちなく問いかけた。


するとジョナサンはふっと笑顔をみせた。

『もう、疑ってないさ。少し確かめただけだ。君が無害な事はすぐに分かったから。』

少し首を傾けて、考える様子をみせてから続けて説明する。


『人ってのは、偽っていても咄嗟の反応はなかなか隠せないと思ってな。それなりに訓練されている者だったりすると、殺気を感じたとたん反応するはずなんだ。緊張による筋肉の収縮とか。反撃や抵抗があればと思ったんだが。』

途端、こちらを見てニヤリと笑う。

『用心するんだな。雪弥』



目の奥がキラキラとと輝く瞳。
なんだか、むかつく。それなのに、かっこいいなんて思ってしまった。経験もあって力もある、歳上の男。雪弥はこっちの世界じゃ知らない事ばかりだし、かないっこないんだ。





『それはそうと、なぜ鏡を見たがったんだ?』

ジョナサンは、少し目を伏せてから
今度は真剣な目を向けて聞いた。


雪弥は鏡を手に取った時を思い返して、寂しい様な感覚を覚えながら答える。目線は迷う様に不安をかかえながら、自分の手を見つめていた。
『僕は、』


『僕は、たぶんここの世界とは違う所から来たんだ。』

ジョナサンの瞳が伺うように、言葉をうながした。その目に疑うような負の感情が見られなかったため、雪弥は続ける。

『今まで共に生きてきた人たちと、普通に生活してた世界がなくなってしまったんじゃないかと混乱して。』


上手く言葉にできず、考え混む。


『もし知らない世界に来たら、周りに僕を知ってる人は1人もいないでしょう?』

そうだな、とジョナサンが相槌をくれる。勇気づけられながら

『つまり、僕は自分を、証明できるものを無くしてしまったんだ。僕は、もとの世界は存在すらしていなかった物なんじゃないかって考えてしまって。本当は、夢だったんじゃないかって。混乱してたから』

だんだん声が震えて、声も小さくなってゆく。

また、目線を落としてしまう。
今でも少し、怖くて肩が震える気がする。
すごく不安になる。

ジョナサンは、僕が見つめている 握り込んだ両手に自分の左手をそっと乗せてくれる。一緒に共感してくれている様な姿に、少し安堵する。


『もし、自分の顔すらも変わっていたら。本当に僕が無くなってしまう感じがしたんだ。怖くて。今まで何も考えず平和に生きてきたけど、大切じゃない人生だったって訳じゃないから。』


考えてから、ぐるぐると不安は増すような辛さを与えてくる。一日中、知らない世界をさまよって見たけど元の世界はどうなったんだろう。


そうか、寂しいんだ。と雪弥は思った。
無くしてしまった物に気がついて寂しいのだと。




トサッと優しく頭を抱え込まれる。横にもたれる様な大勢になって、ジョナサンの胸におでこをくっつける。

『少しこうしてるといい。気にするな』

雪弥は少し驚いたが
疲れに、心地よい低音の声が染み込んでいく様だった。あまり干渉して来ない優しさも。

そこには何もかも受け入れてくれる様な説得力があったから、

何も考えずに身をゆだねて、甘えることにした。1人で抱えるには大きすぎたのかも。

心に居座る不安はぐるぐると去ってはくれなかったが、辛くはなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

アリスの苦難

浅葱 花
BL
主人公、有栖川 紘(アリスガワ ヒロ) 彼は生徒会の庶務だった。 突然壊れた日常。 全校生徒からの繰り返される”制裁” それでも彼はその事実を受け入れた。 …自分は受けるべき人間だからと。

光と闇の子

時雨
BL
 テオは生まれる前から愛されていた。精霊族はめったに自分で身籠らない、魔族は自分の子供には名前を付けない。しかしテオは違った。精霊族の女王である母が自らの体で産んだ子供、魔族の父が知恵を絞ってつけた名前。だがある日、「テオ」は消えた。  レイは生まれた瞬間から嫌われていた。最初は魔族の象徴である黒髪だからと精霊族に忌み嫌われ、森の中に捨てられた。そしてそれは、彼が魔界に行っても変わらなかった。半魔族だから、純血種ではないからと、蔑まれ続けた。だから、彼は目立たずに強くなっていった。  人々は知らない、「テオ」が「レイ」であると。自ら親との縁の糸を絶ったテオは、誰も信じない「レイ」になった。  だが、それでも、レイはただ一人を信じ続けた。信じてみようと思ったのだ。  BL展開は多分だいぶ後になると思います。主人公はレイ(テオ)、攻めは従者のカイルです。

○○に求婚されたおっさん、逃げる・・

相沢京
BL
小さな町でギルドに所属していた30過ぎのおっさんのオレに王都のギルマスから招集命令が下される。 といっても、何か罪を犯したからとかではなくてオレに会いたい人がいるらしい。そいつは事情があって王都から出れないとか、特に何の用事もなかったオレは承諾して王都へと向かうのだった。 しかし、そこに待ち受けていたのは―――・・

処理中です...