23 / 29
第23話 人の笑顔
しおりを挟む
夕方、私の部屋に大夢先生がやってきた。
「佐々木さん失礼します。
約束していた通りご実家に向かおうと思うのですが、いいですか?」
「はい。よろしくお願いします」
私はそう返事をしてベッドから降りた。
「これ、安藤看護師からです」
大夢先生が私にブランケットを渡してくれる。
「ありがとうございます」
「マークシートも受け取りましたよ。明日診断結果を出しますね」
私は息を飲んで、その後「はい」と返事をした。
診断結果。前の結果は酷かったから、やっぱり怖い。また知らない病名が出てきたらどうしよう、なんてあの時の衝撃を思い出す。
でもその心の震えは冬の寒さで上書きされる。
「やっぱり外寒い!」
「あはは。昼間も寒かったですか?」
大夢先生が無邪気に笑うから、私は少し恥ずかしくなって「あ、はい」と控えめな返事をする。
「夜に向かってどんどん寒くなるので、ちゃんと暖かくしないとですね」
そう言って大夢先生は車のドアを開けてくれる。
私は「ありがとうございます」と言いながら乗り込んだ。
久しぶりの車に私は感動していた。
狭く落ち着く空間と、見える外の景色が私のワクワクを加速させる。
「これ、大夢先生の車なんですよね?」
私は大夢先生に向かって確認するように質問を投げた。
大夢先生は運転席でシートベルトを締めながら「そうですよ」と柔らかく返事をしてくれる。
「きれいですし、とってもいい匂いがします!」
「あ、これだよ」
大夢先生は液体の入った青い四角いものを指さす。そしてこう続けた。
「優姫乃が僕の今年の誕生日にくれたんだ。僕も気に入ってる」
「優姫乃さんが……! 素敵ですね!」
「いいセンスしてるよね。僕をイメージして専門店でブレンドしたんだって言ってた。
こうやって人のことを考えて行動できる優姫乃だから自慢のいとこなんだよ」
大夢先生の言葉に私は目を見開いた。
青いケースとすっきりとした香りは確かに大夢先生に似合っている。
私の中で優姫乃さんの好感度がぐんぐんと上がる。
「それじゃあ、出発するよ。30分くらいかかるからね」
私はハイブリッド車の静かなエンジン音と大夢先生の言葉に「はい」と返事をして、車がゆっくりと走り出した。
窓の外は雪が降っていて、クリスマスを連想させる赤や緑のライトアップに街が染まっていた。
そう、楽しそうに買い物袋を持つ一般人も……。
この人たちは違う。
私の頭の中でそう聞こえた。
苦労したことがなく、幸せで、人が怖いと感じたことがない人だと……。
考えただけ、私は息がうまく吸えなくなっていった。
こうなってしまった私に気づいた大夢先生は、対応ではなく、私のために治療をするのだった――。
「佐々木さん失礼します。
約束していた通りご実家に向かおうと思うのですが、いいですか?」
「はい。よろしくお願いします」
私はそう返事をしてベッドから降りた。
「これ、安藤看護師からです」
大夢先生が私にブランケットを渡してくれる。
「ありがとうございます」
「マークシートも受け取りましたよ。明日診断結果を出しますね」
私は息を飲んで、その後「はい」と返事をした。
診断結果。前の結果は酷かったから、やっぱり怖い。また知らない病名が出てきたらどうしよう、なんてあの時の衝撃を思い出す。
でもその心の震えは冬の寒さで上書きされる。
「やっぱり外寒い!」
「あはは。昼間も寒かったですか?」
大夢先生が無邪気に笑うから、私は少し恥ずかしくなって「あ、はい」と控えめな返事をする。
「夜に向かってどんどん寒くなるので、ちゃんと暖かくしないとですね」
そう言って大夢先生は車のドアを開けてくれる。
私は「ありがとうございます」と言いながら乗り込んだ。
久しぶりの車に私は感動していた。
狭く落ち着く空間と、見える外の景色が私のワクワクを加速させる。
「これ、大夢先生の車なんですよね?」
私は大夢先生に向かって確認するように質問を投げた。
大夢先生は運転席でシートベルトを締めながら「そうですよ」と柔らかく返事をしてくれる。
「きれいですし、とってもいい匂いがします!」
「あ、これだよ」
大夢先生は液体の入った青い四角いものを指さす。そしてこう続けた。
「優姫乃が僕の今年の誕生日にくれたんだ。僕も気に入ってる」
「優姫乃さんが……! 素敵ですね!」
「いいセンスしてるよね。僕をイメージして専門店でブレンドしたんだって言ってた。
こうやって人のことを考えて行動できる優姫乃だから自慢のいとこなんだよ」
大夢先生の言葉に私は目を見開いた。
青いケースとすっきりとした香りは確かに大夢先生に似合っている。
私の中で優姫乃さんの好感度がぐんぐんと上がる。
「それじゃあ、出発するよ。30分くらいかかるからね」
私はハイブリッド車の静かなエンジン音と大夢先生の言葉に「はい」と返事をして、車がゆっくりと走り出した。
窓の外は雪が降っていて、クリスマスを連想させる赤や緑のライトアップに街が染まっていた。
そう、楽しそうに買い物袋を持つ一般人も……。
この人たちは違う。
私の頭の中でそう聞こえた。
苦労したことがなく、幸せで、人が怖いと感じたことがない人だと……。
考えただけ、私は息がうまく吸えなくなっていった。
こうなってしまった私に気づいた大夢先生は、対応ではなく、私のために治療をするのだった――。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説



もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定


邪魔しないので、ほっておいてください。
りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。
お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。
義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。
実の娘よりもかわいがっているぐらいです。
幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。
でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。
階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。
悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。
それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

女騎士と文官男子は婚約して10年の月日が流れた
宮野 楓
恋愛
幼馴染のエリック・リウェンとの婚約が家同士に整えられて早10年。 リサは25の誕生日である日に誕生日プレゼントも届かず、婚約に終わりを告げる事決める。 だがエリックはリサの事を……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる