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第21話 今(3)
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歩夢先生好きだと言ってしまいたいのに、音にならないのは私が私自身に自信を持てないからだ。
それに言っても困らせてしまうだろう……。
頭の中で歩夢先生に好きと伝えるシーンを想像しても「ごめんね」と悲しそうな笑みでこちらを見てくる先生の姿が容易く想像できた。
「歩夢先生」
「なに? 麗桜ちゃん」
嫌な想像を頭の中からかき消したいと思った私は、歩夢先生にたわいのない話をかける。
「私、今日の午後は病院の外に出てみるんです」
「ほんと!? すごいね!
じゃあ、手、こっちにちょうだい?」
「あ、はい」
言われた意味が分からず、私は言われるがままに歩夢先生へと手を伸ばす。
「手、小さいね。こうやって手を繋いで麗桜ちゃんと外に行きたかったなぁ」
「っ! そ、そうですね」
私はとりあえずで言葉を落としながら、歩夢先生から視線を離した。
手から、歩夢先生が私に触れたところからじわじわと体が熱くなる。
この手をいつ離せばいいのかわからない私は、歩夢先生の手が離れるまでそのまま預けていた。
コンコン。
きれいなドアの音にビクッとして私たちの手はあっという間に離れる。
残る体温に私はさみしさを覚えながら、その温度を逃がさないように手を結んだ。
「歩夢研修医お邪魔します。佐々木さんのお迎えに来ました」
ドアから香奈恵さんが顔を覗かせ、私に向かって手招きしている。
「今行きます。
歩夢先生、私……」
「ん?」
「歩夢先生が『一緒に外に行こう』って約束してくれて嬉しかったんです。だから、歩夢先生が元気になったら一緒に外に行きましょう?」
自信がなくて少し俯きながら、でも歩夢先生の反応が気になってチラッと見ながらそう言ってみる。わがままなのはもちろん分かっていたけど、歩夢先生にプレッシャーを与えてしまうかもしれなかったけど、歩夢先生ともう一度〝今〟という瞬間が重なってほしい。そう思ったら、言葉が勝手に音になった。
「うん、もちろん!
またいつでも来てね」
甘く、私の気持ちを煮詰めるような歩夢先生の声色が、頭の中に入って、そのまま何度かこだました。
私は「また来ます」と無理やり、好きという感情を出さないようにそう言って部屋を後にした。
部屋に出て、私の体温が少しづつ下がっていくのが分かった。
歩夢先生の前だと体が緊張して、ずっと熱を持っていたのだろう。
ふぅ。新鮮な空気を胸に取り込むと、香奈恵さんがフフッと笑った。
「歩夢研修医と何を話していたの?」
「検査のこととか、前にした約束とか、です」
「そっか。約束、叶うといいね」
あっさりとした香奈恵さんの言葉に、私の心臓はグッと押しつぶされる。
歩夢先生と外を歩く日が来てほしいけれど、そんな未来は訪れないかもしれない。
未来に歩夢先生がいない想像を私は拒否していた。
――幸せな未来、歩夢先生と笑い歩く未来は来るのだろうか。世界はこんなにも残酷なのに。
そんな私が知っている暗く怖い世界は、私のことを待っていた――。
それに言っても困らせてしまうだろう……。
頭の中で歩夢先生に好きと伝えるシーンを想像しても「ごめんね」と悲しそうな笑みでこちらを見てくる先生の姿が容易く想像できた。
「歩夢先生」
「なに? 麗桜ちゃん」
嫌な想像を頭の中からかき消したいと思った私は、歩夢先生にたわいのない話をかける。
「私、今日の午後は病院の外に出てみるんです」
「ほんと!? すごいね!
じゃあ、手、こっちにちょうだい?」
「あ、はい」
言われた意味が分からず、私は言われるがままに歩夢先生へと手を伸ばす。
「手、小さいね。こうやって手を繋いで麗桜ちゃんと外に行きたかったなぁ」
「っ! そ、そうですね」
私はとりあえずで言葉を落としながら、歩夢先生から視線を離した。
手から、歩夢先生が私に触れたところからじわじわと体が熱くなる。
この手をいつ離せばいいのかわからない私は、歩夢先生の手が離れるまでそのまま預けていた。
コンコン。
きれいなドアの音にビクッとして私たちの手はあっという間に離れる。
残る体温に私はさみしさを覚えながら、その温度を逃がさないように手を結んだ。
「歩夢研修医お邪魔します。佐々木さんのお迎えに来ました」
ドアから香奈恵さんが顔を覗かせ、私に向かって手招きしている。
「今行きます。
歩夢先生、私……」
「ん?」
「歩夢先生が『一緒に外に行こう』って約束してくれて嬉しかったんです。だから、歩夢先生が元気になったら一緒に外に行きましょう?」
自信がなくて少し俯きながら、でも歩夢先生の反応が気になってチラッと見ながらそう言ってみる。わがままなのはもちろん分かっていたけど、歩夢先生にプレッシャーを与えてしまうかもしれなかったけど、歩夢先生ともう一度〝今〟という瞬間が重なってほしい。そう思ったら、言葉が勝手に音になった。
「うん、もちろん!
またいつでも来てね」
甘く、私の気持ちを煮詰めるような歩夢先生の声色が、頭の中に入って、そのまま何度かこだました。
私は「また来ます」と無理やり、好きという感情を出さないようにそう言って部屋を後にした。
部屋に出て、私の体温が少しづつ下がっていくのが分かった。
歩夢先生の前だと体が緊張して、ずっと熱を持っていたのだろう。
ふぅ。新鮮な空気を胸に取り込むと、香奈恵さんがフフッと笑った。
「歩夢研修医と何を話していたの?」
「検査のこととか、前にした約束とか、です」
「そっか。約束、叶うといいね」
あっさりとした香奈恵さんの言葉に、私の心臓はグッと押しつぶされる。
歩夢先生と外を歩く日が来てほしいけれど、そんな未来は訪れないかもしれない。
未来に歩夢先生がいない想像を私は拒否していた。
――幸せな未来、歩夢先生と笑い歩く未来は来るのだろうか。世界はこんなにも残酷なのに。
そんな私が知っている暗く怖い世界は、私のことを待っていた――。
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