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第18話 生きている
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「佐々木さん失礼します。
どうしました~?」
いつも通りの香奈恵さんに私は深呼吸をしてから言葉を発した。
「香奈恵さん! 聞いてほしいことがあります」
私の言葉に「どうしたの?」とすんっと真面目な顔にして近くにあったお見舞い人用の椅子に座る。
「実は──」
ここまで言って何から伝えたらいいか、少し迷った。
でも体は制御が聞かず、多分1番頭の中にあったものが言葉になった。
「私、学校に行きたいです」
そう言った途端、私の中のリミッターが解除された。
「学校に行って、進学して、看護師になりたいんです。
誰かの支えになるようなことがしたい。苦しくても、明るい未来があるって伝えたいんです……!
私自身がそうだったからこそ、私にできることがしたいんですよ。
だから、だから……!」
やりたいこと、あふれる思いがどんどん、どんどん言葉になった。
一気に話し過ぎて息が上がろうが、止まらなかった。止まれなかった!
「香奈恵さん、どうやったら看護師になれますか?」
はぁはぁ。
――私、生きてるな。
なんでか、この時そう感じた。
香奈恵さんはというと、やっと止まった私の感情の暴走に、目を大きく見開いていた。
「佐々木さん、こんなことを言うのはあれなんだけど、ちょっとびっくりしちゃって……。大夢先生を呼んでもいいかしら……?
今の佐々木さんを大夢先生にも見てもらいたいの」
「はい。大丈夫です」
「今、すぐ呼んでくるわね」
そういって小走りで部屋を出ていく香奈恵さんを見送りながら、私はまだわずかに震えている手を握った。
震えている――。
多分声にしたとき〝変わりたい〟という気持ちがあふれて、興奮していたからだろう。
それに夢を公言したら〝絶対叶えたい〟って想いが強くなった。
「佐々木 麗桜さん。失礼します」
私が息を整えている間に大夢先生がやってきた。後ろに香奈恵さんもいる。
「大夢先生! 私――」
「そう急がないでください。大丈夫です、ちゃんと全部聞きます。
その前に少しだけ……。
歩夢はしばらく入院することになりました。なのでこれから、僕が深く佐々木さんに関わっていくと思うので、改めてよろしくお願いします。看護師は変わらず安藤香奈恵さんにお願いしました」
落ち着いた大夢先生の言葉に、私は前のめりになった体を元に戻す。
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします。
でも私、
うつ枯れ病が治り――」
「うつ枯れ病が治った」
重なる大夢先生の言葉にびっくりした私は、思わず言葉を止めてしまう。
「やっぱり。なんとなくそう言う気がしました。
うつ枯れ病の回復例はまだ出ておらず、佐々木さんが初の回復患者になるかもしれません。それに関して、しばらくこちらにご協力していただきたいんです。
もちろん、こちらも佐々木さんの願うことは精進を重ねますのでご安心を。
立派な看護師になれるように努めます」
「なんで、それを……?」
「わかりますよ。約1年診てきましたから。
とにかく、今日は部屋から出ることができて、こうしてやりたいことができて、佐々木さんの持っている力を見ることができて、僕は安心しています。
看護師になるためにも焦り過ぎるのはいけませんから。
明日、ご実家に行きましょう。勉強道具を取りに」
私を見透かす大夢先生の言葉に「はい」と返事をした。
その日の夜は雪が舞って、どこか落ち着かない私の心を空が表現していた。
〝早く明日になってほしい〟
数えられないほどの時を経て、私はそう思える夜を迎えたのだ――。
どうしました~?」
いつも通りの香奈恵さんに私は深呼吸をしてから言葉を発した。
「香奈恵さん! 聞いてほしいことがあります」
私の言葉に「どうしたの?」とすんっと真面目な顔にして近くにあったお見舞い人用の椅子に座る。
「実は──」
ここまで言って何から伝えたらいいか、少し迷った。
でも体は制御が聞かず、多分1番頭の中にあったものが言葉になった。
「私、学校に行きたいです」
そう言った途端、私の中のリミッターが解除された。
「学校に行って、進学して、看護師になりたいんです。
誰かの支えになるようなことがしたい。苦しくても、明るい未来があるって伝えたいんです……!
私自身がそうだったからこそ、私にできることがしたいんですよ。
だから、だから……!」
やりたいこと、あふれる思いがどんどん、どんどん言葉になった。
一気に話し過ぎて息が上がろうが、止まらなかった。止まれなかった!
「香奈恵さん、どうやったら看護師になれますか?」
はぁはぁ。
――私、生きてるな。
なんでか、この時そう感じた。
香奈恵さんはというと、やっと止まった私の感情の暴走に、目を大きく見開いていた。
「佐々木さん、こんなことを言うのはあれなんだけど、ちょっとびっくりしちゃって……。大夢先生を呼んでもいいかしら……?
今の佐々木さんを大夢先生にも見てもらいたいの」
「はい。大丈夫です」
「今、すぐ呼んでくるわね」
そういって小走りで部屋を出ていく香奈恵さんを見送りながら、私はまだわずかに震えている手を握った。
震えている――。
多分声にしたとき〝変わりたい〟という気持ちがあふれて、興奮していたからだろう。
それに夢を公言したら〝絶対叶えたい〟って想いが強くなった。
「佐々木 麗桜さん。失礼します」
私が息を整えている間に大夢先生がやってきた。後ろに香奈恵さんもいる。
「大夢先生! 私――」
「そう急がないでください。大丈夫です、ちゃんと全部聞きます。
その前に少しだけ……。
歩夢はしばらく入院することになりました。なのでこれから、僕が深く佐々木さんに関わっていくと思うので、改めてよろしくお願いします。看護師は変わらず安藤香奈恵さんにお願いしました」
落ち着いた大夢先生の言葉に、私は前のめりになった体を元に戻す。
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします。
でも私、
うつ枯れ病が治り――」
「うつ枯れ病が治った」
重なる大夢先生の言葉にびっくりした私は、思わず言葉を止めてしまう。
「やっぱり。なんとなくそう言う気がしました。
うつ枯れ病の回復例はまだ出ておらず、佐々木さんが初の回復患者になるかもしれません。それに関して、しばらくこちらにご協力していただきたいんです。
もちろん、こちらも佐々木さんの願うことは精進を重ねますのでご安心を。
立派な看護師になれるように努めます」
「なんで、それを……?」
「わかりますよ。約1年診てきましたから。
とにかく、今日は部屋から出ることができて、こうしてやりたいことができて、佐々木さんの持っている力を見ることができて、僕は安心しています。
看護師になるためにも焦り過ぎるのはいけませんから。
明日、ご実家に行きましょう。勉強道具を取りに」
私を見透かす大夢先生の言葉に「はい」と返事をした。
その日の夜は雪が舞って、どこか落ち着かない私の心を空が表現していた。
〝早く明日になってほしい〟
数えられないほどの時を経て、私はそう思える夜を迎えたのだ――。
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