18 / 29
第18話 生きている
しおりを挟む
「佐々木さん失礼します。
どうしました~?」
いつも通りの香奈恵さんに私は深呼吸をしてから言葉を発した。
「香奈恵さん! 聞いてほしいことがあります」
私の言葉に「どうしたの?」とすんっと真面目な顔にして近くにあったお見舞い人用の椅子に座る。
「実は──」
ここまで言って何から伝えたらいいか、少し迷った。
でも体は制御が聞かず、多分1番頭の中にあったものが言葉になった。
「私、学校に行きたいです」
そう言った途端、私の中のリミッターが解除された。
「学校に行って、進学して、看護師になりたいんです。
誰かの支えになるようなことがしたい。苦しくても、明るい未来があるって伝えたいんです……!
私自身がそうだったからこそ、私にできることがしたいんですよ。
だから、だから……!」
やりたいこと、あふれる思いがどんどん、どんどん言葉になった。
一気に話し過ぎて息が上がろうが、止まらなかった。止まれなかった!
「香奈恵さん、どうやったら看護師になれますか?」
はぁはぁ。
――私、生きてるな。
なんでか、この時そう感じた。
香奈恵さんはというと、やっと止まった私の感情の暴走に、目を大きく見開いていた。
「佐々木さん、こんなことを言うのはあれなんだけど、ちょっとびっくりしちゃって……。大夢先生を呼んでもいいかしら……?
今の佐々木さんを大夢先生にも見てもらいたいの」
「はい。大丈夫です」
「今、すぐ呼んでくるわね」
そういって小走りで部屋を出ていく香奈恵さんを見送りながら、私はまだわずかに震えている手を握った。
震えている――。
多分声にしたとき〝変わりたい〟という気持ちがあふれて、興奮していたからだろう。
それに夢を公言したら〝絶対叶えたい〟って想いが強くなった。
「佐々木 麗桜さん。失礼します」
私が息を整えている間に大夢先生がやってきた。後ろに香奈恵さんもいる。
「大夢先生! 私――」
「そう急がないでください。大丈夫です、ちゃんと全部聞きます。
その前に少しだけ……。
歩夢はしばらく入院することになりました。なのでこれから、僕が深く佐々木さんに関わっていくと思うので、改めてよろしくお願いします。看護師は変わらず安藤香奈恵さんにお願いしました」
落ち着いた大夢先生の言葉に、私は前のめりになった体を元に戻す。
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします。
でも私、
うつ枯れ病が治り――」
「うつ枯れ病が治った」
重なる大夢先生の言葉にびっくりした私は、思わず言葉を止めてしまう。
「やっぱり。なんとなくそう言う気がしました。
うつ枯れ病の回復例はまだ出ておらず、佐々木さんが初の回復患者になるかもしれません。それに関して、しばらくこちらにご協力していただきたいんです。
もちろん、こちらも佐々木さんの願うことは精進を重ねますのでご安心を。
立派な看護師になれるように努めます」
「なんで、それを……?」
「わかりますよ。約1年診てきましたから。
とにかく、今日は部屋から出ることができて、こうしてやりたいことができて、佐々木さんの持っている力を見ることができて、僕は安心しています。
看護師になるためにも焦り過ぎるのはいけませんから。
明日、ご実家に行きましょう。勉強道具を取りに」
私を見透かす大夢先生の言葉に「はい」と返事をした。
その日の夜は雪が舞って、どこか落ち着かない私の心を空が表現していた。
〝早く明日になってほしい〟
数えられないほどの時を経て、私はそう思える夜を迎えたのだ――。
どうしました~?」
いつも通りの香奈恵さんに私は深呼吸をしてから言葉を発した。
「香奈恵さん! 聞いてほしいことがあります」
私の言葉に「どうしたの?」とすんっと真面目な顔にして近くにあったお見舞い人用の椅子に座る。
「実は──」
ここまで言って何から伝えたらいいか、少し迷った。
でも体は制御が聞かず、多分1番頭の中にあったものが言葉になった。
「私、学校に行きたいです」
そう言った途端、私の中のリミッターが解除された。
「学校に行って、進学して、看護師になりたいんです。
誰かの支えになるようなことがしたい。苦しくても、明るい未来があるって伝えたいんです……!
私自身がそうだったからこそ、私にできることがしたいんですよ。
だから、だから……!」
やりたいこと、あふれる思いがどんどん、どんどん言葉になった。
一気に話し過ぎて息が上がろうが、止まらなかった。止まれなかった!
「香奈恵さん、どうやったら看護師になれますか?」
はぁはぁ。
――私、生きてるな。
なんでか、この時そう感じた。
香奈恵さんはというと、やっと止まった私の感情の暴走に、目を大きく見開いていた。
「佐々木さん、こんなことを言うのはあれなんだけど、ちょっとびっくりしちゃって……。大夢先生を呼んでもいいかしら……?
今の佐々木さんを大夢先生にも見てもらいたいの」
「はい。大丈夫です」
「今、すぐ呼んでくるわね」
そういって小走りで部屋を出ていく香奈恵さんを見送りながら、私はまだわずかに震えている手を握った。
震えている――。
多分声にしたとき〝変わりたい〟という気持ちがあふれて、興奮していたからだろう。
それに夢を公言したら〝絶対叶えたい〟って想いが強くなった。
「佐々木 麗桜さん。失礼します」
私が息を整えている間に大夢先生がやってきた。後ろに香奈恵さんもいる。
「大夢先生! 私――」
「そう急がないでください。大丈夫です、ちゃんと全部聞きます。
その前に少しだけ……。
歩夢はしばらく入院することになりました。なのでこれから、僕が深く佐々木さんに関わっていくと思うので、改めてよろしくお願いします。看護師は変わらず安藤香奈恵さんにお願いしました」
落ち着いた大夢先生の言葉に、私は前のめりになった体を元に戻す。
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします。
でも私、
うつ枯れ病が治り――」
「うつ枯れ病が治った」
重なる大夢先生の言葉にびっくりした私は、思わず言葉を止めてしまう。
「やっぱり。なんとなくそう言う気がしました。
うつ枯れ病の回復例はまだ出ておらず、佐々木さんが初の回復患者になるかもしれません。それに関して、しばらくこちらにご協力していただきたいんです。
もちろん、こちらも佐々木さんの願うことは精進を重ねますのでご安心を。
立派な看護師になれるように努めます」
「なんで、それを……?」
「わかりますよ。約1年診てきましたから。
とにかく、今日は部屋から出ることができて、こうしてやりたいことができて、佐々木さんの持っている力を見ることができて、僕は安心しています。
看護師になるためにも焦り過ぎるのはいけませんから。
明日、ご実家に行きましょう。勉強道具を取りに」
私を見透かす大夢先生の言葉に「はい」と返事をした。
その日の夜は雪が舞って、どこか落ち着かない私の心を空が表現していた。
〝早く明日になってほしい〟
数えられないほどの時を経て、私はそう思える夜を迎えたのだ――。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説


断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる