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第9話 気持ちの変化

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 私は考えた。なんでこんなにも胸が痛いのか。
 どうして、そのタイミングで、何が原因で……。
 考えても考えても、私は過呼吸にすらならなくて、何かがおかしい。
 飲み込むことを忘れられた、口の中にたまった唾液をゴクリと一気に飲み込むと、私の喉をじんわり落ちていって少しだけ焼ける気がした。
 私の謎は同時にストンと落ちた。

 え……。これで合ってる……? この解釈で合っているのかな?

 そう思いながら手を伸ばしたのは歩夢あゆむ先生が置いてくれた一冊の小説、恋愛小説だった。
 胸が痛む描写や異性といるところを見た時の胸のざわつきの描写が今の私と重なって、この思いが、この感情が歩夢先生への恋心なんじゃないかって思った。思ってしまった。
 でもこの本の主人公と私はあまりにも違いすぎる。表紙に描かれた主人公の笑顔は、私が持っていない世界で一番幸せっていう笑顔だ。
 私はこんな風にはなれない。……笑えない。

 というか、あのかわいらしい人は歩夢先生の彼女さん……?
 ズキッ。
 胸にガラスが刺さったみたい……。
 発作より苦しいよ。恋が病気より苦しいなんて──。

 こうして私は初恋の辛さに驚きながらも、この気持ちが確かなものなのか確認するようになった。確認するまでもなかったけれど。

 歩夢先生が部屋に来たときには身体がおかしくなったのかと思うくらい熱くなったり、ドアが開くたびにドキドキしたり、勝手に身体が反応した。私の身体が気持ちを自覚させようとしているかのように。

 だから私の回復は停滞した。

 だから……? 違う。
 停滞してしまったのは恋をしてしまったからではない。意志の方向が〝あのかわいらしい女性が歩夢先生とどういう関係なのか知りたい〟という風になったからだ。
 元気になろうとする意志から私が逸れたのだ。

 思えば、歩夢先生に本を読んでもらった日からは〝このままでいいから生きてみよう〟という風に思っていた。歩夢先生が私の意思をそう変えてくれた。

 前向きだった意志がこんなにも醜い意志になってしまった。しかもその片思いの意思はここ、病院で歩夢先生に直接確認するしか達成できない。
 だから回復が停滞してしまった、退院したいと思わなくなったのだ。

 まるでこの病は私の本音通りに進む、自分勝手な魔法みたいだ。
 そう思い、自分のずるさにため息を落とす。
 歩夢先生にあの女性のことを聞いてみてもいいかな……。

 そう思いながら2か月が経過した。
 私がたまたま窓へと視線を向けた時、そこには歩夢先生とあのかわいらしい女性が並んでいた。
 この時の私は自然と息をひそめていただろう──。


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