先生、私は間違っていますか……?

雨宮 苺香

文字の大きさ
上 下
6 / 29

第6話 検査結果

しおりを挟む
 この、入院初日の出来事は、すぐに大夢ひろむ先生に伝達され、香奈恵かなえさんは夜になっても私に付き添ってくれた。データをとるためにも、安全を保つためにも、と言って。
 私は香奈恵さんの言葉に甘え、いつもと違うベッドで何も考えないようにして眠ったのだ。



 ──そして、翌朝。
 私は信じがたい今の状況を説明されることになる。


「佐々木さん、おはようございます。河野です。
 検査結果が出たのでお伝えに来ました」


 そう言って私の部屋に来た大夢先生の目にはクマができていた。


「佐々木さんの症状から〝うつ枯れ病〟だと診断致しました」

「うつ、枯れ病……?」

「はい。最も最近の精神病であり、世に知れ渡るのもすぐでしょう。
 この病気は去年11月から広まり始め、今ではかなりの患者数がいると見込まれているんです」


 いると見込まれている……? いるんじゃなくて?
 私が疑問を浮かべながら口を開かずにいると大夢先生はこう続けた。


「うつ枯れ病はうつ病にとても近く、それこそ枯れ始めるまで気づくことが出来ないケースがほとんどなんです。
 僕もまだ確信を持つことが出来ないのですが、佐々木さんはいつ枯れてもおかしくない状況だと判断しました」

「枯れる……、枯れるってなんですか?」

「……しおれたように、死ぬ。そう言われている。
 うつ枯れ病のいちばん怖い症状は枯れるように死ぬこと。生きる気力をなくしていつの間にか息を引き取ってしまう……」


 大夢先生は焦点の合わない目を地面に送った。虚ろな目はその悲惨さを表現するようで、私の胸はキュッと締まる。私に募る不安や怯えがそうさせたのだ。

 静かな時間が流れた。


「……でも治すと決めました。必ず、この悲劇の連鎖を止め、潤いで世界を満たす、と。
 そのためにも若い人の患者をどうにかしないといけません。佐々木さんでの研究はそれが目的です」

「でも、なんで若い人なんですか?」

「若い人はメンタルが弱かったり、目先のことで精神が簡単に崩れやすいんです。若い人っていっても10代後半から20代後半を指していて、経済をこれから先、回すことになる人を指しているんです。
 この病は世界恐慌による連鎖だと考えられています。つまり世界恐慌を乗り越えるために必要な労働者を確保しなければならないのです」


 大夢先生の言葉からこの世界の創りを教えられるようで、若年層がどれだけのものを背負っているのかを実感させられる。経済を回すことが最善な解決策だなんて、そう考えると、世の中の活動のせいで人が死ぬ世界のおかしさに私は震えた。
 黙ったままの私に大夢先生は「詳しい診断書を出してきますね。ゆっくりしていてください」と言葉を残し、私はぽつんと病院のベッドで座り込んでいた。

 しばらくして私のところに香奈恵さんがやってきて、大夢先生が作った診断書を渡される。それを見た私は思わず息を飲んだのだ──。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご
恋愛
夫に何かを期待するから裏切られた気持ちになるの。 もう期待しなければ裏切られる事も無い。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

処理中です...