秘密のお茶会

まこ

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秘密のお茶会

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温かい木漏れ日が射す庭園。
色とりどりの花達に囲まれた中に、
小さなテーブルと椅子が二つ並んでいた。
真っ白なテーブルクロスの上には、美しい模様が描かれたティーセットと、甘い香りが漂う洋菓子が、ケーキスタンドに飾られていた。

そんな庭園に、美しいドレスを着た女性が、
サクサクと早歩きで、テーブルが置かれた
方へと歩いてくる。
「マリア・ギレーヌ・ブルーメリア様!」

彼女の声の先には、美しいドレスを着た一人の
女性が、鮮やかで色とりどりの花達を
眺めていた。

声に気付いたのか、女性は声の聞こえた方へ
振り返る。

「あら、ローズ・マリー・シャルロッテ様!」
彼女は、微笑みながら自分の名前を呼んだ女性
へ答える。

「お待たせしました。大事なお茶会に、遅れて
しまうなんて…わたくし、なんとお詫び
したら…」

その言葉を聞いていた彼女は、クスクスと
笑いながら持っていた懐中時計で時間を確認した。

「そんな、落ち込まないで下さい。
ローズ・マリー・シャルロッテ様。たかが10分
の遅刻じゃないですか。
私は、気にしておりませんわ。
それに、この美しい庭園に見惚れていて、
時間など忘れていたぐらいです。」

彼女の言葉と笑顔に、ローズも少し安堵した。

「それに、用意しておりました紅茶や洋菓子も
こうして、準備ができましたし」

「マリア・ギレーヌ・ブルーメリア様… 」

「さあ、お茶会を始めましょう。
その前に、」

マリアは、ローズの両手を優しく包むように
握りしめる。
「二人きりの時は、『マリア』ってお呼びに
なって。
私も、『ローズ様』とお呼びしますわ」

マリアの言葉に、ローズは頬を桃色に染まらせ
ながら、答える。
「はい、『マリア様』 」

美しい庭園で、二人だけのお茶会が開催された。

マリアは器用に、ティーポットからカップへと
紅茶を注いでいく。
カップへ注がれる紅茶は、ほんのり甘い香り
を漂わせ、香りを嗅いだローズが優しい溜息を
吐いた。

「はぁ… こちらの紅茶の香り、とても甘い香りが
致しますね。心が落ち着く。そんな気持ちに
なります」

「ふふふっ、香りだけで喜んで頂けるなんて
嬉しいですわ。
ローズ様、是非、味もご堪能下さい」

マリアは、紅茶を注いだティーカップを、
ローズの前へ置いた。
「頂きますわ。マリア様」

手元に置かれたティーカップを優しく持つと
ローズは、ほんのり赤く色づいた紅茶を眺め、
ゆっくりと口元へ運び、ごくりを一口飲み込んだ。

「この紅茶… とても、美味しいですわ!」

ローズは、一口飲み込んだ紅茶を眺めると、
視線はマリアへ向かう。

「そうでしょう!こちらは、以前ローズ様の好み
を聞いた時に、気に入ると思って、今回のお茶会に
ご用意致しましたの。味も喜んで頂けて、とても
嬉しいですわ」

「まぁ。私の為に?マリア様、ありがとうございます!
私、この紅茶、とても気に入りましたわ」

ローズは、マリアにお礼を言うと、再び紅茶を
飲み込んだ。
甘い香りなのに、味はほんのり苦く、でも
優しいフルーツの甘さがお陰で引き立つ。
飲んだ後には、温かな気分にしてくれる。
マリアが、自分を思って選んだ気持ちも含めて
ローズは、嬉しくなり、口元が緩む。

「そうだわ!私もマリア様にお渡ししたい物が
ございますの」

そう言うと、ローズは、持ってきたカバンから
綺麗に包装された包みを取り出した。

「こちらを、マリア様に」

手渡れた包みをマリアは、不思議そうに眺めると
、するりとリボンをほどき、包みがゆっくりと
開かれる。
そこには、鮮やかな色合いの小さな洋菓子が入っていた。

「こちらは… ?」
「こちらは、マカロンというお菓子です。
マリア様、是非とも、一口お食べ下さい。」

「…… はい。では、戴きます」

薄青く彩られたマカロンを、ぱくりと一口かじると
小さく顎を動かして、ごくりと飲み込む。

「…美味しい!」
思わず、零れた言葉に、マリアは答える。
「こちらは、ブルーベリーのお味になります。」

ブルーベリーの甘酸っぱい味がローズの口に広がる。飲み込んだ後も、その味は口内にとどまり、
優しい甘さが彼女を笑顔に包んでいく。

「いかがでしたか?」
「えぇ、とても美味しく、今でもほんのり甘い味が
私を包んでおります」

「喜んで頂けたみたいで、安心しましたわ。」

「他のマカロンは、どんなお味なのですか?」

「こちらの、赤いマカロンは、木苺のお味。
黄色は、レモン。そして緑のは… 、ふふっ
一度お食べになって下さい。」

そう促されると、マリアは、緑色のマカロンを
手に取り、じっくりと眺めてから、ゆっくりと
口に含んだ。

もぐもぐと、顎を小さく動かし、喉へ飲み込んだ。
口内では、ほんのり苦く茶葉のような味と
甘いクリームが混ざり合い、互いの良さを引き立てていた。
どことなく、懐かしさが込み上げてくる。

「こちらのマカロンは、東方とうほうの国の
抹茶と呼ばれるお茶の葉を使い、作られて物に
なります。」

「 東方とうほうの国の抹茶ですか…。 
異国の国の文化に、自国の国の味を入れつつ、
お互いの良さを引き立てて合って、とても素敵に
仕上がってますわね。
私、とても気に入りましたわ」

「それは、良かったです!このマカロンは、
マリア様のお好みにきっと合うと思いまして、
今回のお茶会に、ご用意致しましたの。
気に入ってもらえて、とても嬉しいですわ」

「こちらこそ、私の為に、お菓子を選んで頂き
本当にありがとうございます」

二人は、お互いの想いを噛みしめ、優しく微笑む。

互いが用意した、洋菓子と紅茶を二人は優雅に戴く。

「今日は、良いお天気ですわね」
「本当に。良いお天気ですね」

温かな日差しが彼女達と庭園を照らす。
涼しい風が木々と花達を揺らし、火照った彼女達の
顔を吹き抜ける。

「風も気持ち良くて…、 お茶会日和とはこの事
ですわね。」

「ローズ様、紅茶のおかわりはいかが?」
「ありがとうございます。戴くわ」

マリアのカップに紅茶が注がれる。
「マリア様、マカロンのおかわりはいかがです?」
「ありがとうございます。では、この木苺のマカロンを戴きます。」

「マリア様、本日のお召し物とても素敵ですね。
マリア様に、とてもお似合いのドレスですわ」

「まぁ、ありがとうございます。
ローズ様も、本日のドレスがとてもお似合いですわ」」
「ありがとうございます。マリア様に言われて、
とても嬉しいですわ」

「ふふふ、本当の事ですもの。こちらは、どちらのお店の物なのですか?」

「こちらは、私自らが生地を選び、少しずつ作った物なんです。やはり、お店の物と比べられる物
ではありませんが、本日のお茶会にどうしても、
この生地のドレスで参りたくて…」

「まぁ!ローズ様、とても器用なのね!
もし良ければ、私のドレスも作って
頂けないでしょうか?
勿論、お礼は弾ませて頂きますわ」

「そんな!私、そこまで器用ではありませんし、
何より、マリア様に合うかどうか… 」

「貴女だから、作ってほしいの。貴女の作った
ドレスを私が着てみたいの。
……ダメかしら?」

「そこまで言われたら、お断わり出来ませんわ。
マリア様のドレス、お作り致しますね」

「ありがとうございます。ローズ様」

マリアは、ローズの手を握りしめた。
ローズは笑みで返したが、どことなく、暗い表情を浮かばせていた。

「何か、ありましたの?」

マリアの問いかけにローズは重い口を開く。

「実は… 親がもういい年齢だからと、
この前、お見合い… いえ、縁談のお話がありまして。いつかは、と思ってますが、私は… 
まだ、結婚なんてしたくは、ありませんわ!
マリア様との、この一時〈ひととき〉が、私の唯一の安らぎですのに。それなのに、私の親は…ッ。」

「私の親も同じよ。もういい年齢なのだからと、
縁談を持ちかけられたり、孫をせがまれたり。
どうして、女性に生まれただけで、母親にならなければ、ならないのかしら… 」

マリアは、ローズの肩を抱きしめ、二人は肩を寄せ合う。

「私も、この時間が永遠に続けばいいのに… 」

マリアは、悲しげに呟いた。

リリリリリーーーー。

庭園に、ベルの音が鳴り響く。

「マリア様、お時間の10分前になりましたわ」

「あら、もうこんな時間になってしまったのね。
楽しい時間は、あっという間に過ぎていくのね」

マリアとローズは、片づけをし始める。

「このような、話題で、せっかくのお茶会を
終わらせてしまうのは、悲しいですわね」

ぽつりと呟いたローズの言葉に、マリアが答える。

「私は、このお茶会も大好きですが…
何よりも、ローズ様と一緒にいられる事が、
私の幸せなんですのよ」

「マリア様!?」

「今もこれからも、ずっとね。
ローズ様は?」

「私も、マリア様と同じ気持ちですわ」

「嬉しい!!」

お互いの想いを知れて、人の女性は、
笑顔で手を取り合う。
彼女達を祝福したように、庭園の花々が風に
揺れて、さわさわと踊っていた。

「また、お茶会しましょうね」

「勿論ですわ!」

彼女達は、お互いのスマートフォンを取り出す

「お茶会は、終わりましたが、この後は一緒に
ショッピングしませんか?」

「名案ですね!この辺りですと、二駅先に、
大きなデパートがありますよ。そこに、行きませんか?」

「是非行きたいです。ついでに、先ほどの、
ドレスの生地も見ましょう!
ローズ様と、是非とも双子コーデをドレスで
したいですわ。」

「私も、マリア様と双子コーデしたいです!
では、早速参りましょう!」

「えぇ、参りましょう。」

鮮やかなドレスを身に纏った女性達は、庭園を
軽やかに去ってゆく。

彼女達の秘密のお茶会は、また続くであろう。

秘密のお茶会、それは、外で働く淑女達の
一時の安らぎの場

彼女達は、その夢のような一時(ひととき
の為に、場所を借りる

憧れたドレスを着て

童話のような花が咲き誇る庭園での、お茶会を
するの

誰にも知られず、ひっそりと

内緒の内緒の、お茶会を……。

            
《終わり》
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みんなの感想(1件)

さぷり
2024.07.22 さぷり

はじめ読み進めていくと中世の話なのかなと思っていましたが、途中から現在の中でこの空間だけ中世を装っているのかなと考えられるなど、面白い仕掛けのあるお話でした。

解除

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