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都市伝説【白椿の墓守】弐
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見つかったのだが、居る。
ざんばらな髪に、ところどころ血のようなものがついた古めかしい袴を履いた、着物のたいそう大柄な男だ。
ぼろぼろに錆つき、欠けた刃の刀を地面に突き立て、それに縋りながら何事かを呟いている。その土だらけの両手が何かを探すように地面の上を流離っているのに、けしてその場から動こうとしない。
「いたね」
「そうだな、今日のところはこれで――」
「突撃だぁー!」
「このマヌケ!」
相手は刃物を持っていて、話が通じるかもわからない。今までの都市伝説たちは通じたが、今度の護衛は人斬りだ。にも関わらず、突然に突撃していったスクナを罵倒しながら追う。
「ねぇねぇ、君は護衛さん?」
「……」
「またお姫さまに会いたくない?」
スクナがそう口にしたときのことだった。突如として地面に尻を付け座り込んでいた男が、よろめきながら刀を杖代わりに立ち上がった。
その時に初めてみた男の顔は両目を一文字に切られていた。
目がなくとも、その大柄な体躯全体から吹き出すような威圧で言い放った。
「目が……」
「姫様の、姫様の安息を穢させはせんぞ小僧!」
目が開かれていないにも関わらず、スクナに向かって地面に刺さっている刀を抜こうとしている男。それより先に、アイルがスクナの腕を引っ張り走り出した。
「何をしている、馬鹿が!」
「でも、あいるん、あの人……」
「いい、行くぞ!」
ほうほうの体で逃げるためその場から立ち去ったアイルたちには、男が寂しげに呟いた言葉など当然届いてはいなかった。
「お会いしとうないわけなかろう……姫様」
声と気持ちだけは今にも泣きそうなのに、目からは一滴の涙も流れてはくれない。
男は軽く頭を振って、引き抜こうとしていた刀から手を離し。元の通り雪の中に座り込んだのだった。
逃げた先の無人駅で、アイルは人の話も聞かずに飛び出したスクナを叱ろうと繋いだ手を振り払った。
だが、叱咤しようとした言葉は実際には口から出てくることはなかった。
スクナが大粒の涙をこぼしていたからである。やがて、嗚咽をこぼし始めて。
泣きたいのはこちらだという気持ちとなぜ泣いているのかという気持ちと吐き気にもにた自己嫌悪が少々。
思わず出た言葉は不格好にも震えていた。
「ど、どうした」
「あいるん……あいるん」
「なんだ」
「あのひと、泣いてた」
「は?」
「涙出てなかったけど。でも、泣いてたよ。ぼくが「お姫さまに会いたい?」って聞いたから。会いたくないはずないのに。ぼく、ぼく、あの人のこと泣かせちゃった。ひどいこと、言っちゃった……」
両手で顔を隠してわんわんと泣きながら「ひどいこと言ってごめんなさい」と謝り続けるスクナに、何と声をかけたものか悩んだアイルは。
「その無念を解きに来たのだろう」
「うぇ……?」
「会いたがっているのならば、会わせてやれば良い。そのために来たのだから。……わかったら帰るぞ」
「!! ……うん!」
ざんばらな髪に、ところどころ血のようなものがついた古めかしい袴を履いた、着物のたいそう大柄な男だ。
ぼろぼろに錆つき、欠けた刃の刀を地面に突き立て、それに縋りながら何事かを呟いている。その土だらけの両手が何かを探すように地面の上を流離っているのに、けしてその場から動こうとしない。
「いたね」
「そうだな、今日のところはこれで――」
「突撃だぁー!」
「このマヌケ!」
相手は刃物を持っていて、話が通じるかもわからない。今までの都市伝説たちは通じたが、今度の護衛は人斬りだ。にも関わらず、突然に突撃していったスクナを罵倒しながら追う。
「ねぇねぇ、君は護衛さん?」
「……」
「またお姫さまに会いたくない?」
スクナがそう口にしたときのことだった。突如として地面に尻を付け座り込んでいた男が、よろめきながら刀を杖代わりに立ち上がった。
その時に初めてみた男の顔は両目を一文字に切られていた。
目がなくとも、その大柄な体躯全体から吹き出すような威圧で言い放った。
「目が……」
「姫様の、姫様の安息を穢させはせんぞ小僧!」
目が開かれていないにも関わらず、スクナに向かって地面に刺さっている刀を抜こうとしている男。それより先に、アイルがスクナの腕を引っ張り走り出した。
「何をしている、馬鹿が!」
「でも、あいるん、あの人……」
「いい、行くぞ!」
ほうほうの体で逃げるためその場から立ち去ったアイルたちには、男が寂しげに呟いた言葉など当然届いてはいなかった。
「お会いしとうないわけなかろう……姫様」
声と気持ちだけは今にも泣きそうなのに、目からは一滴の涙も流れてはくれない。
男は軽く頭を振って、引き抜こうとしていた刀から手を離し。元の通り雪の中に座り込んだのだった。
逃げた先の無人駅で、アイルは人の話も聞かずに飛び出したスクナを叱ろうと繋いだ手を振り払った。
だが、叱咤しようとした言葉は実際には口から出てくることはなかった。
スクナが大粒の涙をこぼしていたからである。やがて、嗚咽をこぼし始めて。
泣きたいのはこちらだという気持ちとなぜ泣いているのかという気持ちと吐き気にもにた自己嫌悪が少々。
思わず出た言葉は不格好にも震えていた。
「ど、どうした」
「あいるん……あいるん」
「なんだ」
「あのひと、泣いてた」
「は?」
「涙出てなかったけど。でも、泣いてたよ。ぼくが「お姫さまに会いたい?」って聞いたから。会いたくないはずないのに。ぼく、ぼく、あの人のこと泣かせちゃった。ひどいこと、言っちゃった……」
両手で顔を隠してわんわんと泣きながら「ひどいこと言ってごめんなさい」と謝り続けるスクナに、何と声をかけたものか悩んだアイルは。
「その無念を解きに来たのだろう」
「うぇ……?」
「会いたがっているのならば、会わせてやれば良い。そのために来たのだから。……わかったら帰るぞ」
「!! ……うん!」
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