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都市伝説【白椿の墓守】
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『――――――――約束よ、翠樹』
冬の初旬に雪が降った日の翌日。スクナとアイルはかたん、かたんと小さく揺れる電車に乗っていた。雪が降ったため電車は止まるかと思っていたが、平常通り運行していた。
と言っても、向かう場所が郊外でわりと僻地なため二人しか乗客はいなかったが。
山ではスクナたちのところのように淡くどころか山を覆うほどに降っていたらしく、まだ雪の残る山合いに佇むボロ屋敷が遠目に見える。
……元は長者原という貴族が築いた豪奢な屋敷だったそうだが、一夜にして没落……家人が皆殺しにされ、盗人に入られ金目のものは盗られ。しかもとある噂のせいで屋敷も土地も欲しがる者はなく、長年手つかずらしい。
そこにわざわざ電車に乗ってまで、スクナとアイルの二人がやってきたのはもちろんと言っていいほどに、これが都市伝説と関係しているからである。
「元長者原家の屋敷の裏庭には白い椿の木が隠されるように一本だけある。昔、お姫様が亡命した際に屋敷で追手に殺され、姫を守れなかった護衛がその死体を埋めたら白椿の木になったんだって。護衛は姫を守れなかった無念から白椿をいまだ守っているらしい」
そんな都市伝説が長く伝わっているらしい。
実際、ざんばらな髪をした大柄の男が白椿の前に陣取っているのを見たものも居ると聞く。
都市伝説に噂話に目撃証言にと降り積もって、気味悪がって長年手が付けられないままここにあるのだとか。
「あいるん、早くお姫さまと護衛さんを助けてあげようね!」
「いつになくやる気だな」
「お姫さまと護衛さんは離れ離れなんだよ? 恋する二人を引き裂くなんて!」
「二人が恋仲という話は聞いてないが」
青い寒空の中を歩きながら、目についた枯れ枝を拾いぶんぶん振り回して白い息を吐き憤慨しているスクナに、アイルは呆れたように視線をやった。
「もうっ! そんなことわざわざ言わなくてもわかるでしょー!?」
「これっぽっちもわからん」
「もうもう! あいるんのあんぽんちー!」
「なんと?」
新しい造語、しかも明らかに褒める内容ではないのは確かなそれに、思わずアイルが聞き返したのは仕方がない。しかし、スクナの機嫌を損ねたようで聞き返しても顔を背けられてしまった。
かと思えばそんなことは忘れたように、アイルにねぇねぇと明るい声で尋ねてくる。
「裏庭ってどこなの?」
「知らん」
「え」
ぴたりとスクナの足が止まる。ぶつかりそうになって、アイルも足を止めた。
スクナが大きく目を見開いて、アイルを振り向いて固まったが、それがどうしたと言わんばかりにアイルは胸を反らせる。
「地図も図面もない、あるのは自分の足のみだ。あえて言うなら白い椿が咲いてるところが裏庭だろう」
「……白椿、隠れてるんじゃ」
「そうだな」
「あいるんのあんぽんちー!!」
「だからなんだそれは」
一時間後、屋敷の外をこれでもかと探し回り、雪の乗った枯れ葉をかき分けた結果。白椿は赤い椿の花に囲まれて見つかった。
冬の初旬に雪が降った日の翌日。スクナとアイルはかたん、かたんと小さく揺れる電車に乗っていた。雪が降ったため電車は止まるかと思っていたが、平常通り運行していた。
と言っても、向かう場所が郊外でわりと僻地なため二人しか乗客はいなかったが。
山ではスクナたちのところのように淡くどころか山を覆うほどに降っていたらしく、まだ雪の残る山合いに佇むボロ屋敷が遠目に見える。
……元は長者原という貴族が築いた豪奢な屋敷だったそうだが、一夜にして没落……家人が皆殺しにされ、盗人に入られ金目のものは盗られ。しかもとある噂のせいで屋敷も土地も欲しがる者はなく、長年手つかずらしい。
そこにわざわざ電車に乗ってまで、スクナとアイルの二人がやってきたのはもちろんと言っていいほどに、これが都市伝説と関係しているからである。
「元長者原家の屋敷の裏庭には白い椿の木が隠されるように一本だけある。昔、お姫様が亡命した際に屋敷で追手に殺され、姫を守れなかった護衛がその死体を埋めたら白椿の木になったんだって。護衛は姫を守れなかった無念から白椿をいまだ守っているらしい」
そんな都市伝説が長く伝わっているらしい。
実際、ざんばらな髪をした大柄の男が白椿の前に陣取っているのを見たものも居ると聞く。
都市伝説に噂話に目撃証言にと降り積もって、気味悪がって長年手が付けられないままここにあるのだとか。
「あいるん、早くお姫さまと護衛さんを助けてあげようね!」
「いつになくやる気だな」
「お姫さまと護衛さんは離れ離れなんだよ? 恋する二人を引き裂くなんて!」
「二人が恋仲という話は聞いてないが」
青い寒空の中を歩きながら、目についた枯れ枝を拾いぶんぶん振り回して白い息を吐き憤慨しているスクナに、アイルは呆れたように視線をやった。
「もうっ! そんなことわざわざ言わなくてもわかるでしょー!?」
「これっぽっちもわからん」
「もうもう! あいるんのあんぽんちー!」
「なんと?」
新しい造語、しかも明らかに褒める内容ではないのは確かなそれに、思わずアイルが聞き返したのは仕方がない。しかし、スクナの機嫌を損ねたようで聞き返しても顔を背けられてしまった。
かと思えばそんなことは忘れたように、アイルにねぇねぇと明るい声で尋ねてくる。
「裏庭ってどこなの?」
「知らん」
「え」
ぴたりとスクナの足が止まる。ぶつかりそうになって、アイルも足を止めた。
スクナが大きく目を見開いて、アイルを振り向いて固まったが、それがどうしたと言わんばかりにアイルは胸を反らせる。
「地図も図面もない、あるのは自分の足のみだ。あえて言うなら白い椿が咲いてるところが裏庭だろう」
「……白椿、隠れてるんじゃ」
「そうだな」
「あいるんのあんぽんちー!!」
「だからなんだそれは」
一時間後、屋敷の外をこれでもかと探し回り、雪の乗った枯れ葉をかき分けた結果。白椿は赤い椿の花に囲まれて見つかった。
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