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都市伝説【嘆く金木犀】弐

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 窓から差し込む夕日はまだ出たばかり、教室を出た廊下にてスクナはアイルに話しかけた。

「都市伝説だって」
「聞こえていた。今日の放課後、寄るぞ」
「うん!」

 えへへー、あいるんとデート! などとほざきながら緩みきった顔を両手で隠すスクナを眉間に眉を寄せて顔を顰めながら見て、それでも一言うと十は返ってくるため何も言わずにため息を一つ吐いたのだった。

 学校から程近いところにある早萩植物公園。
 むせ返るような甘い香りが鼻をくすぐるのは、何本も一列に植わっている金木犀の花の香だ。
 甘ったるい香りを好まないアイルは眉間に立派な渓谷を刻んだが、スクナは「いい香りー!」と一人ではしゃいでいた。生白い細い指がそっと金木犀の花を撫でる、指は夕日に染まってオレンジ色に染まっているのを、なぜだか見てはいけないものを見てしまった気がして。アイルはゆっくり目をそらした。
 一通り金木犀があるところを通ったが、特に何もない。成果が挙げられず不機嫌になったアイルを宥めつつ、その背中を押して早萩植物公園から出て帰路につこうとした時。

『……んで』
「ん? あいるん、なにか言った?」
「何も言っていない。空耳では」
『なんで……なんで……なんで……』

 あまりにも悲痛な声に、二人して勢いよく後ろを振り返るが。当然のように誰もおらず風に木の葉が数枚さらわれるのみ。枯れ葉がからからと虚しい音を立てて転がっていく。
 夕日に染まったオレンジ色の風景の中にアイルたち以外見えない。ただ、右側にずらりと並ぶ外向きに植えられた金木犀の並木だけだった。
 試しにスクナが「なにが『どうして』なの?」と聞いてみたが反応がなかった。他にも言ったが無理だった。
 ただ『なんで……なんで……なんで』と呟かれる言葉は、疑問を呈しているのではなく何かを責める声色をしていた。

「これが金木犀の都市伝説か」
「あ、あった」
「何がだ」

 ポケットを何やらごそごそと漁っていたスクナ。そこで何か見つけたのか、アイルに何かを握った手を見せてくる。
 アイルが面倒気に反応すると、その手を開いて中を見せてきた。小さな白い花だった。
 それを見た途端、声が止む。スクナとアイルは顔を見合わせ、手のひらの中の本当に小さい花を見る。
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