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人間になったぺんぎん

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 藤姫の都市伝説が消えた夜。風呂前に敷いていった布団から声がした。

「にゅ……このどらちゃんめ……あいるんのおさかなかえして」
「……起きろ」

 不自然な膨らみに、また入り込んだのかとため息をつくアイルの前で、うごうごと布団の膨らみが動く。
 出る気はなさそうな動きに、「あのぺんぎんめ……」と若干苛立たしく思いながら、アイルは布団を勢いよく剥いだ。
 ちなみに、いつもの言い訳は「布団を温めといてあげようと思って」だ。余計なお世話である。身体のサイズが違いすぎるだろうと、突っ込んだアイルだった。
 が。

「は?」
「うぅ……寒い……あいるんお布団ちょーだい」
「お前、ぺんぎんか?」
「違うよ! 世界一可愛くて賢くて「なるほど、ぺんぎんだな」あいるんのばかー!」

 布団の中にいたのは、灰色の髪、黒と白のオパールのように輝く不思議なオッドアイ、白磁にも劣らぬ白い肌、まん丸の目で顔では性別がわからない少年だった。いまだふすふすと言いたりなさそうにしている少年に、アイルは確信した。こいつ、ぺんぎんだと。主に自意識過剰なところが。
 アイルの知っているぺんぎんはぺんぎんの姿をしていたが、なにがどうして人の姿になったのだろうか。なんと言い出せばいいのかわからず、とりあえず。

「人の布団に裸で入るな。服を着ろ。そもそも入るな。後シーツを変える、手伝え」
「まぁー! ぺんぎんを裸だと思って……? ん?」

 いつものように文句を言おうとしたぺんぎんは、アイルを差したはずの手が人の手になっていることに気づいて。きょとりと瞳を瞬かせると。
 なにか重要なことに気づいてしまったと言わんばかりに、その手を口に持っていった。

「ま……まさかあいるん……! ぺんぎんを恋人にしたいくらい好きだったの!? だから人間の姿に!?」
「家から締め出すぞ」
「……冗談冗談!」
「どこまでが」
「まさかあいるんってとこまで」
「この世から締め出すぞ、訂正しろ」

 この様子だと、ぺんぎん本人にもどうしてこうなったのかわかっていないようだと把握しつつ。アイルから少しずつ距離を取っている元ぺんぎんにアイルはいらっとした。
 まるで、襲われると言わんばかりだ。こんなチビに警戒されなければいけない程落ちぶれていない。心外である。とりあえず服を着ろ。
 アイルはタンスから取り出した予備の寝間着をぺんぎんに向かって投げつけて、着るように促し、部屋を出た。
 その際に「あいるん紳士!」と部屋の中からぺんぎんの声が聞こえてきて、少し気分が良くなる。
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