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ぺんぎんはグルメ
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夕方、居間にて。
「あいるん、あいるん。今日のお夕飯、お魚?」
「そのあいるんという呼び方はやめるように。……なぜわかった?」
両ヒレを後ろにもじもじと照れている様子のぺんぎん。
対してアイルはごく何ともなく数学の宿題から顔を上げ、眉をひそめて問うた。
「ぺんぎんとあいるんの出会いに乾杯でお魚って、さっきあいるん言ってた!」
「妄想と寝言は大概にしろ。その魚は昨日のうちに買っていたものだ」
「え……昨日からぺんぎんを迎えに来てくれるつもりだったの!?」
「たわけが」
ふざけた会話しか出来ないのかこのぺんぎんはと顔を顰めたアイルは、付き合っていられないとばかりにため息を付いて宿題に戻った。
「あいるん、あいるん」
「だから……今度は何だ」
「ここ、間違ってるよ! (-3)²なら-6じゃなくて+9だよ、ここだけ変!」
ここ! とヒレで間違っているのだろう部分を叩き指摘してくる。確かに(-3)²は+9である。方程式に当てはめることに夢中になりすぎて簡単な計算ミスをしていたらしい。
というか。
「……なぜ計算なんぞ出来るんだお前は」
「ぺんぎんは世界一賢くて可愛い「わかった、間違っているところが他にあったら都度知らせるように」最後まで聞いてよ!」
キメ顔をしていたぺんぎんの、必死の叫びが小さな地団駄とともに部屋に響いた。
さて、宿題も終わり夕飯にするか。となった時、事件は起こった。
「ぺんぎん、餌の時間だ」
「餌じゃないもん! ごはんだ、も……ん?」
「何だ」
差し出された……とは違う、匹の魚の尾を鷲掴み、ぺんぎんの前にアイルが持ってきたのは昨日買ったと先程行っていた生魚。捌かれも刺し身でもない、生臭さ漂う丸々の魚だ。漂ってくる魚臭さにぺんぎんは涙目になりながらキレた。
「あいるん! ぺんぎんがぺんぎんだからってふざけてるの!? 少なくともこのぺんぎんは捌いてもない生魚なんか食べません! ぺんぎんはグルメなんだからね!」
「ぺんぎんのくせに生意気な。食べないのだな? ならばこれは僕の夕飯になる。お前の分はない」
「結構です! ぺんぎんは捌いてない魚なんて絶対に食べ、な……?」
「では。いただきます」
「え」
キレ散らかすペンギンをよそに、話は終わったとばかりにアイルが食前の挨拶をする。
そのまま、魚独特の臭いを纏う魚の、濁った目のある頭から口の中に入れようと――。
「てやー!!」
ぺんぎんが魚を持った方のアイルの手を蹴る。床に強かに打ち付け落ちる魚、いい仕事をしたとばかりにかいてもいない汗を拭う仕草をするぺんぎん。
今度怒ったのはアイルだった。
「お前、食べ物に対して何てことを!」
「あれは食べ物じゃありません! お刺し身だったり焼いたりする前の食材です!!」
「料理など出来ればしている」
「……え、魚焼けないの?」
「……飯は炊ける」
魚が焼けないのに米は炊けるとはこれいかに。嘴を空けて間抜け面をさらすぺんぎんを無視して、アイルは、床に落ちた魚を拾いシンクの中でわしわし洗っている。洗剤をつけて洗おうとしたのはぺんぎんが止めた。
頭を抱えたくなったが我慢し、ぺんぎんが今までどうしていたのかをアイルに尋ねれば、生で食して腹痛に苦しんでいたらしい。さらに頭を抱える案件だ。
「あいるん」
「……何だ」
「ぺんぎんが、焼き魚作る」
「……は?」
怪訝そうな顔をしたアイルを、アイルの腹を守るためにはもうこれしかなかった。
「あいるん、あいるん。今日のお夕飯、お魚?」
「そのあいるんという呼び方はやめるように。……なぜわかった?」
両ヒレを後ろにもじもじと照れている様子のぺんぎん。
対してアイルはごく何ともなく数学の宿題から顔を上げ、眉をひそめて問うた。
「ぺんぎんとあいるんの出会いに乾杯でお魚って、さっきあいるん言ってた!」
「妄想と寝言は大概にしろ。その魚は昨日のうちに買っていたものだ」
「え……昨日からぺんぎんを迎えに来てくれるつもりだったの!?」
「たわけが」
ふざけた会話しか出来ないのかこのぺんぎんはと顔を顰めたアイルは、付き合っていられないとばかりにため息を付いて宿題に戻った。
「あいるん、あいるん」
「だから……今度は何だ」
「ここ、間違ってるよ! (-3)²なら-6じゃなくて+9だよ、ここだけ変!」
ここ! とヒレで間違っているのだろう部分を叩き指摘してくる。確かに(-3)²は+9である。方程式に当てはめることに夢中になりすぎて簡単な計算ミスをしていたらしい。
というか。
「……なぜ計算なんぞ出来るんだお前は」
「ぺんぎんは世界一賢くて可愛い「わかった、間違っているところが他にあったら都度知らせるように」最後まで聞いてよ!」
キメ顔をしていたぺんぎんの、必死の叫びが小さな地団駄とともに部屋に響いた。
さて、宿題も終わり夕飯にするか。となった時、事件は起こった。
「ぺんぎん、餌の時間だ」
「餌じゃないもん! ごはんだ、も……ん?」
「何だ」
差し出された……とは違う、匹の魚の尾を鷲掴み、ぺんぎんの前にアイルが持ってきたのは昨日買ったと先程行っていた生魚。捌かれも刺し身でもない、生臭さ漂う丸々の魚だ。漂ってくる魚臭さにぺんぎんは涙目になりながらキレた。
「あいるん! ぺんぎんがぺんぎんだからってふざけてるの!? 少なくともこのぺんぎんは捌いてもない生魚なんか食べません! ぺんぎんはグルメなんだからね!」
「ぺんぎんのくせに生意気な。食べないのだな? ならばこれは僕の夕飯になる。お前の分はない」
「結構です! ぺんぎんは捌いてない魚なんて絶対に食べ、な……?」
「では。いただきます」
「え」
キレ散らかすペンギンをよそに、話は終わったとばかりにアイルが食前の挨拶をする。
そのまま、魚独特の臭いを纏う魚の、濁った目のある頭から口の中に入れようと――。
「てやー!!」
ぺんぎんが魚を持った方のアイルの手を蹴る。床に強かに打ち付け落ちる魚、いい仕事をしたとばかりにかいてもいない汗を拭う仕草をするぺんぎん。
今度怒ったのはアイルだった。
「お前、食べ物に対して何てことを!」
「あれは食べ物じゃありません! お刺し身だったり焼いたりする前の食材です!!」
「料理など出来ればしている」
「……え、魚焼けないの?」
「……飯は炊ける」
魚が焼けないのに米は炊けるとはこれいかに。嘴を空けて間抜け面をさらすぺんぎんを無視して、アイルは、床に落ちた魚を拾いシンクの中でわしわし洗っている。洗剤をつけて洗おうとしたのはぺんぎんが止めた。
頭を抱えたくなったが我慢し、ぺんぎんが今までどうしていたのかをアイルに尋ねれば、生で食して腹痛に苦しんでいたらしい。さらに頭を抱える案件だ。
「あいるん」
「……何だ」
「ぺんぎんが、焼き魚作る」
「……は?」
怪訝そうな顔をしたアイルを、アイルの腹を守るためにはもうこれしかなかった。
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