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証言 二日目
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次に晴紫蘭の年の離れた従兄弟であるコンシェルジュの男、椎山・誠に朝一番に会いに行ったのだが、一緒に住んでいる母親から「事件のショックで部屋に引きこもっている」と言われた。それでも構わない、会いたいのだとオニキスが言った結果、根負けしたように母親が家の中に入れてくれ部屋の前まで案内してくれた。
こんこん。
小さくノックすると、中から物音がした。
「こんにちは。事件のお話を伺いたくて「帰ってくれ! もう思い出したくもないんだ」」
「わたくしたちに話してくれたら、もう一生思い出さなくていいわ」
「え」
「わたくしの、なんというのかしら。好敵手? なんでもいいわ。わたくしの大切な人、よ。その人が犯人にされかけているの。ただ、あの人ならできるだろうって、その場にいもしないのに。わたくしはそれが我慢ならないのよ。だから」
あなたの知っていることを話して欲しい。それがあの人を救うことにつながるはずだから。お願いよ。
滾々と言葉を尽くしてオニキスは椎山・誠に願った。
その様子を見て、チャロアは泣きそうだった。半年前まで、言葉すら滑らかに喋れなかったオニキスが、誰かのためにこんなに言葉を操り尽くしている。
それがどれだけ、すごくて尊いことか。
がたっ
それまで、無言でオニキスの言葉の先の部屋の中で、動いた。
「一時間後」
「え?」
「一時間後、また来て下さい。お話、します」
「本当に大丈夫?」
「いや、ここで話さなきゃあんたの大切な人が犯人にされるんでしょ。……大丈夫です、話せます」
勇気、もらったから。
ぼそぼそ呟かれた言葉に、オニキスは泣きそうになって唇を噛んだ。自分は無価値で、言葉は無意味だと思っていた。
それが、人を動かしたことが、ひどく泣きたいほどに胸がしびれた。自然と盛り上がる涙の縁を服で乱暴に拭ったオニキスは。
「また、一時間後に来るわ」
そう言って、椎山・誠の家を後にした。
一時間後、椎山・誠の家の居間で。ソファーで向かい合うように、チャロアとオニキス、男は対峙していた。
短い髪は清潔に整えられ、こちらも事件のせいだろう若干やつれては居たものの異常はなそうだった。
「早速だけれど……」
「はい。あの日、警察官の方が件の部屋から「様子を見に来て欲しい」と電話があったと訪問されました。一人で行かせるわけにも行かないので、先輩に受付を代わってもらい私が案内を。あ、そうだ。ここらへんのやり取りは監視カメラにのこっていると思います。部屋の外まで供しましたが……その後慌てて警察官の方が出てこられまして。人が死んでいると。たまたま見えた部屋の中で、女性が胸らへんを赤く染めていて。警察官の方は犯人が戻ってくるかもしれないから部屋で待つと仰って、私は警察に連絡を。その後は……」
「もう、大丈夫よ。ありがとう。あなたのおかげで、あの人が犯人にされずに済みそうだわ」
「……本当ですか?」
「ええ」
自分の顔色が真っ青になっていることに気づいているのか居ないのか。椎山・誠はほっと息をついて、ローテーブルに置かれたミルクティーを飲んだ。
少し血色の戻った顔で、職場に復帰の連絡をするというので、早々に退散し、靴裏の落ち葉を踏む柔らかな感触を抱きながら歩い。
探偵所にて。帰ってきてはちみつたっぷりの甘い紅茶をチャロアに淹れてもらい、一口飲んでからオニキスは口を開いた。
「助手」
「はい、先生」
「おかしいわね?」
「おかしいですね。ボク、椎山さんの話を伺うまでは椎山さん自身が異変に気づいて警察を呼んだのかと思ってました」
「私もよ。でも、実際には逆だった」
二人の意見が食い違っている? いや、違う。考えろ、思考して、固定概念を壊して。
『確かにいただきました』と描かれたカード、警察を呼んだのは死んだ彼女自身? いや、もっと。思考を複雑化しすぎないように、いつだって単純なものが答え――。今ここにあるものから、正しくパズルを組み上げる。証拠達が指差す先を見なければ。それをただ、言葉に変換すればいいだけ。
ぱちん、ぱちんとはまっていくパズル。浮かんだ疑問とともにピースの形を作り変える。最後の一つが頭の中ではまった瞬間、見えた真実にオニキスはうなだれた。
そんなオニキスにどうやって触れようかと戸惑っているチャロアに、オニキスは力なく頼み事をしたのだった。
こんこん。
小さくノックすると、中から物音がした。
「こんにちは。事件のお話を伺いたくて「帰ってくれ! もう思い出したくもないんだ」」
「わたくしたちに話してくれたら、もう一生思い出さなくていいわ」
「え」
「わたくしの、なんというのかしら。好敵手? なんでもいいわ。わたくしの大切な人、よ。その人が犯人にされかけているの。ただ、あの人ならできるだろうって、その場にいもしないのに。わたくしはそれが我慢ならないのよ。だから」
あなたの知っていることを話して欲しい。それがあの人を救うことにつながるはずだから。お願いよ。
滾々と言葉を尽くしてオニキスは椎山・誠に願った。
その様子を見て、チャロアは泣きそうだった。半年前まで、言葉すら滑らかに喋れなかったオニキスが、誰かのためにこんなに言葉を操り尽くしている。
それがどれだけ、すごくて尊いことか。
がたっ
それまで、無言でオニキスの言葉の先の部屋の中で、動いた。
「一時間後」
「え?」
「一時間後、また来て下さい。お話、します」
「本当に大丈夫?」
「いや、ここで話さなきゃあんたの大切な人が犯人にされるんでしょ。……大丈夫です、話せます」
勇気、もらったから。
ぼそぼそ呟かれた言葉に、オニキスは泣きそうになって唇を噛んだ。自分は無価値で、言葉は無意味だと思っていた。
それが、人を動かしたことが、ひどく泣きたいほどに胸がしびれた。自然と盛り上がる涙の縁を服で乱暴に拭ったオニキスは。
「また、一時間後に来るわ」
そう言って、椎山・誠の家を後にした。
一時間後、椎山・誠の家の居間で。ソファーで向かい合うように、チャロアとオニキス、男は対峙していた。
短い髪は清潔に整えられ、こちらも事件のせいだろう若干やつれては居たものの異常はなそうだった。
「早速だけれど……」
「はい。あの日、警察官の方が件の部屋から「様子を見に来て欲しい」と電話があったと訪問されました。一人で行かせるわけにも行かないので、先輩に受付を代わってもらい私が案内を。あ、そうだ。ここらへんのやり取りは監視カメラにのこっていると思います。部屋の外まで供しましたが……その後慌てて警察官の方が出てこられまして。人が死んでいると。たまたま見えた部屋の中で、女性が胸らへんを赤く染めていて。警察官の方は犯人が戻ってくるかもしれないから部屋で待つと仰って、私は警察に連絡を。その後は……」
「もう、大丈夫よ。ありがとう。あなたのおかげで、あの人が犯人にされずに済みそうだわ」
「……本当ですか?」
「ええ」
自分の顔色が真っ青になっていることに気づいているのか居ないのか。椎山・誠はほっと息をついて、ローテーブルに置かれたミルクティーを飲んだ。
少し血色の戻った顔で、職場に復帰の連絡をするというので、早々に退散し、靴裏の落ち葉を踏む柔らかな感触を抱きながら歩い。
探偵所にて。帰ってきてはちみつたっぷりの甘い紅茶をチャロアに淹れてもらい、一口飲んでからオニキスは口を開いた。
「助手」
「はい、先生」
「おかしいわね?」
「おかしいですね。ボク、椎山さんの話を伺うまでは椎山さん自身が異変に気づいて警察を呼んだのかと思ってました」
「私もよ。でも、実際には逆だった」
二人の意見が食い違っている? いや、違う。考えろ、思考して、固定概念を壊して。
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ぱちん、ぱちんとはまっていくパズル。浮かんだ疑問とともにピースの形を作り変える。最後の一つが頭の中ではまった瞬間、見えた真実にオニキスはうなだれた。
そんなオニキスにどうやって触れようかと戸惑っているチャロアに、オニキスは力なく頼み事をしたのだった。
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