名探偵の心臓は、そうして透明になったのだ。

小雨路 あんづ

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我竜点

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「殺人……じゃと?」
「過失致死といったほうが良いのでしょうね。あのオルゴールに使われていたメリィオルテールは。元はこのリストに載っている、我竜点という家から盗み出されたものよ。その際に、人が死んでいるわ」
「待て、確かに人が亡くなったことと紛失により届け出は取り下げられているが!」

 リストを見せながら、続けたオニキスに。食い下がろうとしたオーウェンを、オニキスは容赦なく断ち切った。

「オルゴールの形、何より彫金。オルゴールの形が惑星の形なのも、手のひらに乗るくらいの大きさなのも珍しいわ。あそこまで彫金されすぎているのも。
 一見、プラネタリーリングもきちんとはまっているように見えたけど、でもどこか違和感があった。リングのほうが大きすぎるわ。なら、と思って逆に考えてみたの。もし、プラネタリーリングに合わせて、惑星の……オルゴールのほうが作られたとしたら?」

 ここまで、一気に喋ってオニキスは口の乾きを癒すために紅茶を一口含んだ。
 その間、目が回るような説明の情報に、息をすることが悪いことであるかのように、皆息を殺していた。
 ただ、かちかちと時計の音が響く中で、オニキスは続ける。

「あれは、鍔だわ。オルゴールが入るように刀身がはまるべき部分を丸く削り取った、鍔。違和感は、その鍔に会うようにオルゴールが作られたからだった。リングが大きいのは当然だった。彫金されすぎているのは何故? されすぎている部分を除いて、古い彫金跡だけなぞったら簡単にわかったわ。我竜点、竜の文字は丸くえぐられた時に殆ど消えていたけれど、他の文字はしっかり残っていたわ」

 ふう、苦しそうに息を吐いたオニキスに、チャロアが小さな手を握る。泣きそうな顔でそれを受け止めて、こくりとオニキスは頷いた。

「我竜点は武器職人の一族。一族が代々「神」と崇めていた最高傑作が盗まれそうになった時に、それに気づいた一人が止めようとして争った末、亡くなっているわ。引き換え、千種は彫金師の一族なのでしょう? それなら、作った武器に彫金することもある。無関係ではない。
 最後に。館の色んなところに飾られた額縁の彫金を見たわ。その彫金の技法が、入りが、癖が。以前呼んだ百年以上前の我竜点の武器録に載っていたものにそっくりだもの」

 同じものと、言えるくらいに。

「っ!」
「おい、それは!」
「オニキス嬢!?」
「何より。約百八十年ほど前から、我竜点は彫金師を一切立ち入らせないらしいわ。その理由になったであろう、最後の彫金師の名前は――」
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