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刑事の憂鬱
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「『土妖精の置き土産』通称メリィオルテールと名付けられた鉱物は、現在(正和暦二千五百二十一年)より約二百三十年前に紅峰鉱山で発見された。鉱夫の青年によると、発見時より二年と半年でほぼ採掘出来なくなり、国の調査団による調査で三年目には枯渇が発表されたという。色は電灯の下で見ると紅に金が混じった色合いだが、月明かりに照らすと瑠璃色に変化するという。貴重な鉱物のため現在は国でその数を把握するため、届け出が義務付けられている』……とりあえず、すごい短い間しか取れなかった、貴重な鉱物ってことですね!」
「……そうね」
他にも色々特徴とか書いてあったでしょう!? そう言おうとして、オニキスは止めた。自分がわかっていれば良いと思ったのと、単純にチャロアがすぐに忘れそうであったため。
迎えに来たウェルナイアに連れてこられた獣道を走りついたのは、森の奥の湖畔にひっそりと佇む洋館だった。間際にある湖と対比してしまったせいか、思いの外こじんまりとしたその洋館を車を止める為通り過ぎると。洋館の裏に石造りの見るからに頑丈そうなどっしりとした建造物がある。ぱっと見た様子は蔵だ。
はっきり言って、洋館よりもしっかりした作りに見える。
「なんか「助手」すみません」
湖が氾濫したら洋館のほうが真っ先に沈みそう。そう思ったことを、これまたぽろっと口に出しかけたチャロアを、同じことを考えていたオニキスが嗜める。世の中には思ったことをそのまま言ってはいけない時もあるのだ。
「今回は何故かテレビ関係者からラジオまで来ていてね。君たちの依頼主も押しかけられて断りきれずに許可してしまったらしいんだ。……警備に支障が出ないと良いんだけどね」
ため息をつきたげな憂鬱な顔を隠そうともしないウェルナイアは珍しい。最後の一言がひどく乾いた声であったことから、オニキスたちを迎えに来る前にも何か一悶着あったらしい。オーウェンの性格とテレビ関係者やラジオ関係などの相性を考えると、だろうなあと言わざるを得ない。
車を降りると、普通にドアを開けてくれ、荷物も持ってくれるウェルナイアに疲れているだろうに、優しいのも大変だなとチャロアとオニキスはお互いの顔を見合わせた。
実際は、職務とオーウェンの名を落とせないという重責からだが。
ドアから入ると、豪奢な額縁に絵画がたくさん飾ってあるロビーへと出た。たくさん……数え切れないほどに天窓の近くまで、奥や隣に見える廊下にも段違いに飾られている。天窓はステンドグラスになっていて、天使と百合の絵がよく見えた。しかし、やはり天窓からの光だけでは足りないのか四方から鎖で吊り下げられたシャンデリアが合った。
結局、借りた部屋まで荷物を運んでもらい、夜になるまで出歩かないで欲しいと言われている最中に。オーウェンの怒鳴り声が聞こえたため、そのフォローに行くのか慌てて飛び出して行ってしまった。苦労人は大変だな、とチャロアは憐憫の目で叩きつけるように閉められた扉を見た。
一方のオニキスは、もう何も気にした様子もなく。探偵所兼自宅から持ってきた二冊の六法全書並に分厚い本を出すべく、カバンを開け中を探っていた。見つかった二冊の内一冊を、とりあえずこれでいいかと抱え、ベッドに腰掛けページを開く。
そんなオニキスをすくい上げるように脇を抱え持ち上げる人物が居た。チャロアである。
「……何かしら?」
「ここまで来て本なんて寂しいじゃないですか! それに、夜に探検するために今は寝ときましょ?」
「わたくしは夜も起きてられ「ないですよね?」……うぅー」
夜まで部屋に居てくれということは、夜になったらこの部屋を出てどこかへ行くということだ。おそらくは依頼人のところ。その時に眠いから寝てます、では仕事をしに来ている以上通らないのだ。オニキスもわかっているのだろう。不服そうな唸り声を上げるだけで、抵抗はしない。
重たい本がオニキスのベッドを占領している以上、空いているのはチャロアのベッドしかない。
いまだぐずっているオニキスを、チャロアは自分のベッドの真ん中に横たえさせると。自身も潜り込む。
まさかチャロアも潜り込んでくるとは思わなかったのか、驚いたように目を瞬かせたオニキスの、初めて会った時よりは短く切ったが、それでも長い両サイドを三つ編みにした髪を触れるぎりぎりのところで撫でる。
綺麗にベッドメイキングされたベッドから掛け布団を引っ張り出し、そのまま自分とオニキスの上にかぶせ。一定のリズムでオニキスの頭をなでていると、いつしか柔らかな寝息が聞こえてきた。急遽決まった出発日、朝の早い時間に起きなければならずなんだかんだで疲れていたのだろう。
丸っ切り、ただの子ども。チャロアを相手に安心仕切って寝入っているオニキスに、微笑んだ後チャロアは自分もあくびを一つ浮かべると、自分もそっと目を閉じたのだった。
「……そうね」
他にも色々特徴とか書いてあったでしょう!? そう言おうとして、オニキスは止めた。自分がわかっていれば良いと思ったのと、単純にチャロアがすぐに忘れそうであったため。
迎えに来たウェルナイアに連れてこられた獣道を走りついたのは、森の奥の湖畔にひっそりと佇む洋館だった。間際にある湖と対比してしまったせいか、思いの外こじんまりとしたその洋館を車を止める為通り過ぎると。洋館の裏に石造りの見るからに頑丈そうなどっしりとした建造物がある。ぱっと見た様子は蔵だ。
はっきり言って、洋館よりもしっかりした作りに見える。
「なんか「助手」すみません」
湖が氾濫したら洋館のほうが真っ先に沈みそう。そう思ったことを、これまたぽろっと口に出しかけたチャロアを、同じことを考えていたオニキスが嗜める。世の中には思ったことをそのまま言ってはいけない時もあるのだ。
「今回は何故かテレビ関係者からラジオまで来ていてね。君たちの依頼主も押しかけられて断りきれずに許可してしまったらしいんだ。……警備に支障が出ないと良いんだけどね」
ため息をつきたげな憂鬱な顔を隠そうともしないウェルナイアは珍しい。最後の一言がひどく乾いた声であったことから、オニキスたちを迎えに来る前にも何か一悶着あったらしい。オーウェンの性格とテレビ関係者やラジオ関係などの相性を考えると、だろうなあと言わざるを得ない。
車を降りると、普通にドアを開けてくれ、荷物も持ってくれるウェルナイアに疲れているだろうに、優しいのも大変だなとチャロアとオニキスはお互いの顔を見合わせた。
実際は、職務とオーウェンの名を落とせないという重責からだが。
ドアから入ると、豪奢な額縁に絵画がたくさん飾ってあるロビーへと出た。たくさん……数え切れないほどに天窓の近くまで、奥や隣に見える廊下にも段違いに飾られている。天窓はステンドグラスになっていて、天使と百合の絵がよく見えた。しかし、やはり天窓からの光だけでは足りないのか四方から鎖で吊り下げられたシャンデリアが合った。
結局、借りた部屋まで荷物を運んでもらい、夜になるまで出歩かないで欲しいと言われている最中に。オーウェンの怒鳴り声が聞こえたため、そのフォローに行くのか慌てて飛び出して行ってしまった。苦労人は大変だな、とチャロアは憐憫の目で叩きつけるように閉められた扉を見た。
一方のオニキスは、もう何も気にした様子もなく。探偵所兼自宅から持ってきた二冊の六法全書並に分厚い本を出すべく、カバンを開け中を探っていた。見つかった二冊の内一冊を、とりあえずこれでいいかと抱え、ベッドに腰掛けページを開く。
そんなオニキスをすくい上げるように脇を抱え持ち上げる人物が居た。チャロアである。
「……何かしら?」
「ここまで来て本なんて寂しいじゃないですか! それに、夜に探検するために今は寝ときましょ?」
「わたくしは夜も起きてられ「ないですよね?」……うぅー」
夜まで部屋に居てくれということは、夜になったらこの部屋を出てどこかへ行くということだ。おそらくは依頼人のところ。その時に眠いから寝てます、では仕事をしに来ている以上通らないのだ。オニキスもわかっているのだろう。不服そうな唸り声を上げるだけで、抵抗はしない。
重たい本がオニキスのベッドを占領している以上、空いているのはチャロアのベッドしかない。
いまだぐずっているオニキスを、チャロアは自分のベッドの真ん中に横たえさせると。自身も潜り込む。
まさかチャロアも潜り込んでくるとは思わなかったのか、驚いたように目を瞬かせたオニキスの、初めて会った時よりは短く切ったが、それでも長い両サイドを三つ編みにした髪を触れるぎりぎりのところで撫でる。
綺麗にベッドメイキングされたベッドから掛け布団を引っ張り出し、そのまま自分とオニキスの上にかぶせ。一定のリズムでオニキスの頭をなでていると、いつしか柔らかな寝息が聞こえてきた。急遽決まった出発日、朝の早い時間に起きなければならずなんだかんだで疲れていたのだろう。
丸っ切り、ただの子ども。チャロアを相手に安心仕切って寝入っているオニキスに、微笑んだ後チャロアは自分もあくびを一つ浮かべると、自分もそっと目を閉じたのだった。
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