名探偵の心臓は、そうして透明になったのだ。

小雨路 あんづ

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探偵の宝箱

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 それから一週間。
 チャロアとオニキスは時折やってくる依頼人の合間に、一緒に料理したり編み物をやってみたりと平和に暮らしていた。
 ただ、その平和の中にフライパンが爆発したり、卵を割る=落とすのだと勘違いしたオニキスによる大量の卵投身未遂があったり。はたまた編み物の編みのちまちました作業に耐えきれず、オニキスが毛糸を引きちぎろうとして怪我をしたり。言い重ねればきりがないほどのアクシデントを起こしながら、平和に、過ごしていた。これが、嵐の前の静けさかもしれないなんて思わずに。

 最近では、元依頼人から手紙が届いたりもする。
 記念すべき第一号は「ねこちゃんありがとう」とかろうじて読める文字に拙い猫の絵が同封された手紙だ。これは「つつじもりじゃないの?」と問うた少女からで。
 その日、新しく家族として迎えられるはずの子猫がちょっとした隙に逃走し、探してほしい。という子猫探しの依頼だった。
 少女や母親から逃げ出した位置と子猫の年齢、性格や逃げ出した当時の体調を聞き、この島の地図や天候に湿度気温などをチャロアに用意させ。それらを見比べて数分窓の外を眺めたかと思うと、おもむろに赤いペンで丸を3つ付けた。
 その言葉のままにチャロアが依頼人おもてなし用のクッキーと紅茶を用意してから、出かけると。無事に1つ目の丸印のところで依頼人に聞いていたハチワレで背中にハートに似た模様のある子猫を確保できたのだ。
 依頼人の母子は、半日も経たずに帰ってきた子猫に小さい娘がよく喜んでいた。
「おてがみだすね!」と張り切って子猫を大切に抱きしめて帰っていた。
「手紙が何だというの?」困惑に眉をしかめるオニキスをチャロアは穏やかに見つめていた。
 そうして、ようやく届いた手紙をどうすれば良いのかわからないと言いたげに、周りを見回してからひざ掛けを取ると、椅子を降りて。椅子下にある隠し箱へと名残惜しげにそっとしまった。
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