幼女神の物見遊山観光記

小雨路 あんづ

文字の大きさ
上 下
76 / 78

しおりを挟む
 サクヤみたいな幼い女の子がどうしてこんな森の中に住んでいるのか。窓から見た限り、ここは森の中みたいに木々は深かったし、周りに他の家もない。ここから見えるのは木々ばかりで、いまのところ大人らしき人影も感じられない。

「ここ、どこ?」
「君、どこから来た、の?」

 ぱちくりとした目と出会って、お互い見合わせる。ちなみに首を傾げるタイミングも一緒だった。<当千>は僕たち二人の顔を交互に見ては楽しそうに笑っていた。

「ここ、神居かみおりの森、よー」
「……神居の森?」
「ん」
「……キメラ?」
「ん」

 神様だったらしい。
     母さんに小さい頃から何度も聞かされた話。冒険者スクールの神殿見学で見聞きした神話上の生き物、キメラが御座すとされるためにそう呼ばれる場所「神居かみおりの森」。

 正直言って、あまり信じられないと言えばそうだが。あの青い目と、大人の気配なく森に住んでいること、そしてなによりもあの。存在感が、清浄な包容ともいうべき威圧が、その言葉を疑わせなかった。

「キメラ、様なの?」
「キメラでいい、の。君はどこから来た、の?」
「僕は、ミレーナ・Fフロン・ヴァイスマンの雪山せつざんにいたんだ」
「ミレーナ雪、山?」

 いつもの朝の散歩中にがけが崩れて激流に落ちたことを告げると心配そうな雰囲気でぺたぺたと浴衣越しに身体を触ってくる。
 もう大丈夫だよ、どこも痛くないから、というとほっとしたように目を細めて触るのをやめた。

 少しだけ開いた窓からはいってくる澄んだ木々の香りが気持ちいい。大きく息を吸い込むと、一緒に不安も吸い込んでしまったみたいに残してきた仲間が心配になってくる。
 前に目が覚めた時が夕暮れで、さっき時計でみた時だと八時過ぎくらいだろう。少なくとも、僕がいなくなって一日はたっている。

「帰らないと」
「い、ま?」
「仲間が待ってるんだ」

 浴衣のままで装備品もないし、帰る手段だってないけれど。一度気づくと帰らなければという思いが思考を埋めつくす。

 帰らないと。仲間たちは賢いから、帰ってこない僕を心配しているだろう。レベルや戦闘経験的にあの雪山で、仲間たちに傷をつけられるような魔物はいないけれど、万が一、僕のようにがけ崩れにでもあったら。雪崩でも起こってしまったら。

「ちょっと待って、て」

 焦燥感に駆られて今すぐにでも雪山に戻りたくてたまらない僕に、サクヤは椅子に座って落ち着くように言い残して、入ってきた扉に消えた。

「どうしよう」
「キュア!」
「わかってる。みんな無事だって」
「キュゥア!」
「うん。でも、心配なんだよ」

 心の底から吐き出した声と、サクヤがなにかを抱えて戻ってきたのは同時だった。<当千>を強く抱きしめて、少しでも不安を紛らわせようとしている僕に、サクヤはそれを差し出した。
 マフラーから上着、靴にいたるまでの僕の装備品一式を。

「これ……」
「君をここまで運んでくれた子が、一緒に持ってきた、の」

 目を見開く僕に、はいと差し出されたそれはきちんと洗濯されていたようで、柔らかく乾いていて。これなら今すぐにでも着られる。

「それと外にいる子、ね。ミレーナ雪山まで送ってくれるっ、て」
「本当?」
「ん。ふもとまでならっ、て」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された運送屋、僕の【機械使役】は百年先の技術レベルでした ~馬車?汽船? こちら「潜水艦」です ドラゴンとか敵じゃない装甲カチカチだし~

なっくる
ファンタジー
☆気に入っていただけましたら、ファンタジー小説大賞の投票よろしくお願いします!☆ 「申し訳ないが、ウチに必要な機械を使役できない君はクビだ」 ”上の世界”から不思議な”機械”が落ちてくる世界……機械を魔法的に使役するスキル持ちは重宝されているのだが……なぜかフェドのスキルは”電話”など、そのままでは使えないものにばかり反応するのだ。 あえなくギルドをクビになったフェドの前に、上の世界から潜水艦と飛行機が落ちてくる……使役用の魔法を使ったところ、現れたのはふたりの美少女だった! 彼女たちの助力も得て、この世界の技術レベルのはるか先を行く機械を使役できるようになったフェド。 持ち前の魔力と明るさで、潜水艦と飛行機を使った世界最強最速の運び屋……トランスポーターへと上り詰めてゆく。 これは、世界最先端のスキルを持つ主人公が、潜水艦と飛行機を操る美少女達と世界を変えていく物語。 ※他サイトでも連載予定です。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

戦力より戦略。

haruhi8128
ファンタジー
【毎日更新!】 引きこもりニートが異世界に飛ばされてしまった!? とりあえず周りを見学していると自分に不都合なことばかり判明! 知識をもってどうにかしなきゃ!! ゲームの世界にとばされてしまった主人公は、周りを見学しているうちにある子と出会う。なしくずし的にパーティーを組むのだが、その正体は…!? 感想頂けると嬉しいです!   横書きのほうが見やすいかもです!(結構数字使ってるので…) 「ツギクル」のバナーになります。良ければ是非。 <a href="https://www.tugikuru.jp/colink/link?cid=40118" target="_blank"><img src="https://www.tugikuru.jp/colink?cid=40118&size=l" alt="ツギクルバナー"></a>

中途半端なソウルスティール受けたけど質問ある?

ミクリヤミナミ
ファンタジー
仮想空間で活動する4人のお話です。 1.カールの譚 王都で生活する鍛冶屋のカールは、その腕を見込まれて王宮騎士団の魔王討伐への同行を要請されます。騎士団嫌いの彼は全く乗り気ではありませんがSランク冒険者の3人に説得され嫌々魔王が住む魔都へ向かいます。 2.サトシの譚 現代日本から転生してきたサトシは、ゴブリンの群れに襲われて家族を奪われますが、カール達と出会い力をつけてゆきます。 3.生方蒼甫の譚 研究者の生方蒼甫は脳科学研究の為に実験体であるサトシをVRMMORPG内に放流し観察しようとしますがうまく観察できません。仕方がないので自分もVRMMORPGの中に入る事にしますが…… 4.魔王(フリードリヒ)の譚 西方に住む「魔王」はカール達を自領の「クレータ街」に連れてくることに成功しますが、数百年ぶりに天使の襲撃を2度も目撃します。2度目の襲撃を退けたサトシとルークスに興味を持ちますが……

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

アラフォー少女の異世界ぶらり漫遊記

道草家守
恋愛
書籍版が発売しました!旅立ち編から石城迷宮編まで好評レンタル中です! 若返りの元勇者、お忍び休暇を満喫す? 30歳で勇者召喚された三上祈里(女)は、魔王を倒し勇者王(男)として10年間統治していたが、転移特典のせいで殺到する見合いにうんざりしていた。 やさぐれた祈里は酒の勢いで「実年齢にモド〜ル」を飲むが、なぜか推定10歳の銀髪碧眼美少女になってしまう。  ……ちょっとまて、この美少女顔なら誰にも気づかれないのでは??? 溜まりまくった休暇を取ることにした祈里は、さくっと城を抜けだし旅に出た! せっかくの異世界だ、めいいっぱいおいしいもの食べて観光なんぞをしてみよう。 見た目は美少女、心はアラフォーの勇者王(+お供の傭兵)による、異世界お忍び満喫旅。 と、昔に置いてきた恋のあれこれ。

処理中です...