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サクヤみたいな幼い女の子がどうしてこんな森の中に住んでいるのか。窓から見た限り、ここは森の中みたいに木々は深かったし、周りに他の家もない。ここから見えるのは木々ばかりで、いまのところ大人らしき人影も感じられない。
「ここ、どこ?」
「君、どこから来た、の?」
ぱちくりとした目と出会って、お互い見合わせる。ちなみに首を傾げるタイミングも一緒だった。<当千>は僕たち二人の顔を交互に見ては楽しそうに笑っていた。
「ここ、神居の森、よー」
「……神居の森?」
「ん」
「……キメラ?」
「ん」
神様だったらしい。
母さんに小さい頃から何度も聞かされた話。冒険者スクールの神殿見学で見聞きした神話上の生き物、キメラが御座すとされるためにそう呼ばれる場所「神居の森」。
正直言って、あまり信じられないと言えばそうだが。あの青い目と、大人の気配なく森に住んでいること、そしてなによりもあの。存在感が、清浄な包容ともいうべき威圧が、その言葉を疑わせなかった。
「キメラ、様なの?」
「キメラでいい、の。君はどこから来た、の?」
「僕は、ミレーナ・F・ヴァイスマンの雪山にいたんだ」
「ミレーナ雪、山?」
いつもの朝の散歩中にがけが崩れて激流に落ちたことを告げると心配そうな雰囲気でぺたぺたと浴衣越しに身体を触ってくる。
もう大丈夫だよ、どこも痛くないから、というとほっとしたように目を細めて触るのをやめた。
少しだけ開いた窓からはいってくる澄んだ木々の香りが気持ちいい。大きく息を吸い込むと、一緒に不安も吸い込んでしまったみたいに残してきた仲間が心配になってくる。
前に目が覚めた時が夕暮れで、さっき時計でみた時だと八時過ぎくらいだろう。少なくとも、僕がいなくなって一日はたっている。
「帰らないと」
「い、ま?」
「仲間が待ってるんだ」
浴衣のままで装備品もないし、帰る手段だってないけれど。一度気づくと帰らなければという思いが思考を埋めつくす。
帰らないと。仲間たちは賢いから、帰ってこない僕を心配しているだろう。レベルや戦闘経験的にあの雪山で、仲間たちに傷をつけられるような魔物はいないけれど、万が一、僕のようにがけ崩れにでもあったら。雪崩でも起こってしまったら。
「ちょっと待って、て」
焦燥感に駆られて今すぐにでも雪山に戻りたくてたまらない僕に、サクヤは椅子に座って落ち着くように言い残して、入ってきた扉に消えた。
「どうしよう」
「キュア!」
「わかってる。みんな無事だって」
「キュゥア!」
「うん。でも、心配なんだよ」
心の底から吐き出した声と、サクヤがなにかを抱えて戻ってきたのは同時だった。<当千>を強く抱きしめて、少しでも不安を紛らわせようとしている僕に、サクヤはそれを差し出した。
マフラーから上着、靴にいたるまでの僕の装備品一式を。
「これ……」
「君をここまで運んでくれた子が、一緒に持ってきた、の」
目を見開く僕に、はいと差し出されたそれはきちんと洗濯されていたようで、柔らかく乾いていて。これなら今すぐにでも着られる。
「それと外にいる子、ね。ミレーナ雪山まで送ってくれるっ、て」
「本当?」
「ん。ふもとまでならっ、て」
「ここ、どこ?」
「君、どこから来た、の?」
ぱちくりとした目と出会って、お互い見合わせる。ちなみに首を傾げるタイミングも一緒だった。<当千>は僕たち二人の顔を交互に見ては楽しそうに笑っていた。
「ここ、神居の森、よー」
「……神居の森?」
「ん」
「……キメラ?」
「ん」
神様だったらしい。
母さんに小さい頃から何度も聞かされた話。冒険者スクールの神殿見学で見聞きした神話上の生き物、キメラが御座すとされるためにそう呼ばれる場所「神居の森」。
正直言って、あまり信じられないと言えばそうだが。あの青い目と、大人の気配なく森に住んでいること、そしてなによりもあの。存在感が、清浄な包容ともいうべき威圧が、その言葉を疑わせなかった。
「キメラ、様なの?」
「キメラでいい、の。君はどこから来た、の?」
「僕は、ミレーナ・F・ヴァイスマンの雪山にいたんだ」
「ミレーナ雪、山?」
いつもの朝の散歩中にがけが崩れて激流に落ちたことを告げると心配そうな雰囲気でぺたぺたと浴衣越しに身体を触ってくる。
もう大丈夫だよ、どこも痛くないから、というとほっとしたように目を細めて触るのをやめた。
少しだけ開いた窓からはいってくる澄んだ木々の香りが気持ちいい。大きく息を吸い込むと、一緒に不安も吸い込んでしまったみたいに残してきた仲間が心配になってくる。
前に目が覚めた時が夕暮れで、さっき時計でみた時だと八時過ぎくらいだろう。少なくとも、僕がいなくなって一日はたっている。
「帰らないと」
「い、ま?」
「仲間が待ってるんだ」
浴衣のままで装備品もないし、帰る手段だってないけれど。一度気づくと帰らなければという思いが思考を埋めつくす。
帰らないと。仲間たちは賢いから、帰ってこない僕を心配しているだろう。レベルや戦闘経験的にあの雪山で、仲間たちに傷をつけられるような魔物はいないけれど、万が一、僕のようにがけ崩れにでもあったら。雪崩でも起こってしまったら。
「ちょっと待って、て」
焦燥感に駆られて今すぐにでも雪山に戻りたくてたまらない僕に、サクヤは椅子に座って落ち着くように言い残して、入ってきた扉に消えた。
「どうしよう」
「キュア!」
「わかってる。みんな無事だって」
「キュゥア!」
「うん。でも、心配なんだよ」
心の底から吐き出した声と、サクヤがなにかを抱えて戻ってきたのは同時だった。<当千>を強く抱きしめて、少しでも不安を紛らわせようとしている僕に、サクヤはそれを差し出した。
マフラーから上着、靴にいたるまでの僕の装備品一式を。
「これ……」
「君をここまで運んでくれた子が、一緒に持ってきた、の」
目を見開く僕に、はいと差し出されたそれはきちんと洗濯されていたようで、柔らかく乾いていて。これなら今すぐにでも着られる。
「それと外にいる子、ね。ミレーナ雪山まで送ってくれるっ、て」
「本当?」
「ん。ふもとまでならっ、て」
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